第4話 半分異世界の幕開け
タイトル微調整しております。
ご迷惑おかけします。
僕は、穏やかな草むらの中に立っていた。左前方には大きめの木が一本あり、その奥には街道らしき道が見える。反対側は、そのまま森へ続いているようだった。
よし。
とりあえず街道に出てみよう。そう思って足を踏み出した瞬間、僕は重大すぎる事実に気づいた。
「は、は、は、はだかじゃねーーーかっっ!!」
両腕、両足、胸、お腹。
頑張って背中のほうまで確かめてみたが、完全に全裸だった。
「それはない。それはないでしょ……」
いや、そりゃ暗闇の中でも裸でしたよ。
そのまま飛び出してきましたよ。
でも、そこはこう、何かあるじゃないですか。布切れ一枚とか。初期装備とか。
人として最低限の温情が。
どうすんだよこれ……。
冒険を始めるも何も、これじゃ、何もできないんですけど。
誰もいないとはいえ、反射的に両手で股間を隠す。
「はぁ……」
僕は街道脇の木まで移動しようと、一歩目を踏み出してみた。
「痛っ」
足の裏が普通に痛い。草むらに見えたけど、ところどころ地面が固いし、小石まで混じっている。
半分異世界、足元からやさしくない。
普通に歩くこともままならぬとは。
気を取り直してあたりを見回してみる。近くに細めの角材が落ちていた。
とりあえず拾ってみると、いい感じの細さと重さだった。わりとキレイだし、何かの補修に使った余りだろうか? 杖代わりにはなりそうだ。
……いや、違うな。
いざという時の武器だね。
僕は両手でしっかり持って振ってみる。
よし。大丈夫そうだ。
両手装備:細めの棒。
頭:なし 体:なし 足元:なし
悲しい…
それを片手装備に変更する。
……いや、ただ片手で持ち直しただけなんだけど。
生まれたての子鹿みたいな腰の引けたステップで、角材はやっぱり杖代わりにして、体重を分散しながら、なんとか街道脇の大きめの木のそばまで、たどり着いた。
その木の陰に身を寄せる。
ふぅ。
やっぱ靴って大事だね!
知ってたけど。
まず必要なのは、とりあえず靴かね?だって服着ててもこれじゃ何かあった時、逃げられないし。
......いや、服だ。
今のままじゃ、確かに逃げる速度はとても遅い。だが僕はそれでも人として逃げたい。
恐怖心がない今なら、僕は胸を張ってそれを言える。
「実利」VS「人として」はひとまず置いておいて、
僕は少し腰をかがめたまま、木の横からそっと顔だけ出してあたりをうかがう。
うーん、人通りはないな。
と思ったそのとき。
カプッ♪
ん?
「痛っってぇーーーっ!!」
顔だけ振り向けると、子犬サイズの何かが僕のお尻に噛みついている。
「な、な、な、なんだこの野郎っ!」
「このやろっ!」
「このやろっ!」
僕は装備していた棒をやみくもに振り回した。すぐにお尻から離れたそいつは、僕が振り回している棒に見事に当たり、勢いよく草むらの向こうに、吹っ飛んでいった。
びっくりしたー。
手でお尻をさすってみたが、血は出てないようだった。本気で噛まれたわけではないのかな?
……なんだったんだ、あれ。
弱そうなやつだったし、ちょっと様子を見に行ってみようか。
待てよ。もしかして、あれが噂のモンスターってやつ? だとしたらスタート地点の近くにいる世界最弱のやつだな。
そして今、僕が食らったのが1ポイントのダメージってやつかな? なかなか痛いじゃないか、ダメージ『1』。
などと考えていると、遠くの方からガタゴトという音が聞こえてきた。僕は再び木の陰に身を寄せ、そっと顔だけ出してあたりをうかがう。
……人通りはない。
いや、ある!
まだ、だいぶ遠いが、向こうから馬車が来る。
おおーーー!
転生ものでよく見るあの田舎の馬車だ。
すごい!
近づいてくる。
馬一頭で引いている。
思っていたよりずっと大きい。
首も脚も太くて、なんというか、存在感がすごい。
御者台には中年くらいの男女が乗っていた。
人の良さそうな感じだ。
少なくとも、いきなり襲いかかっては来なさそうだ。たぶん。
この状況を打破するには、声をかけねば!
いや、いきなりだしな。
様子見て、次の通りすがりの人にしようかな。
いやいや今だろ。
今しかないだろ! 次なんていつ来るかわからないぞ。
いくぞ、声を掛けるぞ。
あ、いったん棒は置いてと。
せーのだぞ。いくぞ。せーのっ!
「あのーすいません!」
木の陰から半身だけ出して、僕は話しかけた。
「怪しいものじゃないんです! あの、服がなくて……」
いや、違う。ちゃんと順序だてないと。
「いや、怪しい状態なのはわかるんですけど!!」
「いろいろ事情があって、服が全然ないんです」
ヤバい。自分で言ってて駄目だと思う。
「なんていうか、これ、あの、全裸なんです!」
「助けてください!」
なぜこうなった?
中年夫婦の目が、完全に引いてる。
どうすればいい?
いや、どうしようもない。
もっともっと本気でお願いするしかない。
「何か! 何か一枚でいいので、服を貸してください!」
「あの、お願いします!!」
僕は思いっきり頭を下げた。
「きゃぁっ」馬車の上から、女性の小さな悲鳴が聞こえた。
こんなに必死に頭を下げたことは今まで一度もない。だが、頭を下げたままの僕の前を、馬車はゴトゴト通り過ぎていく。
やっぱり駄目か。
でも不思議だった。何だろうこの爽快感は。何かいいことをしたあとみたいな感覚だ。一瞬だけど、僕は本気で頑張った。大きな声を出して、誠心誠意、頭を下げた。失敗はしたけど悪くない気分だ。
そんな感慨にふけっていると、通り過ぎたはずの馬車の音が、少し先でぴたりと止まった。
「……あんた、とりあえず前を隠しなさい」
…前?
……前???
「うわぁぁぁーーーーーーっ!」
しまった。
思いっきり頭を下げたとき、あそこを隠してた手を両足の横にぴしっと揃えてしまっていたのだ。僕は反射的に両手で前を隠した。
「すいません!でも服がないんです!見ないで、見ないでくださいっ!」
僕は半泣きで叫ぶ。
「まったく。しょうがないな」
御者台の男が呆れたように言った。
「カミさんのだが、このひざ掛けでとりあえず隠しなさい」
そう言って投げられた布を、僕は慌てて受け取る。
「す、すいません。ありがとうございます。でも、変な物見せてしまって。本当にすいません……」
僕は泣きながら、感謝と謝罪を必死に伝えるのだった。
ガタゴト、ガタゴト……。
僕はひざ掛けにくるまりながら、馬車に揺られていた。
「で、なーしてあんなところで全裸だったの?」
「ちょっと、あなた。いきなりそんなストレートに聞くもんじゃないわよ」
「い、いや、いいんです。大丈夫です。そりゃぁ、気になりますよね」
僕は鼻をズズッと鳴らして答えた。
「僕だってどう考えたっておかしいと思いますもん、あんなところで全裸なんて」
「にひひ。あれかい? 彼女としてる途中で逃げられたとか?」
バシィ。
奥さんが旦那さんの頭をすかさず叩いた。
「バカなこと言ってんじゃないわよ。もぅ!」
「……で、そうなの?」
奥さんは、身を乗り出すようにして、かなり食い気味に尋ねてきた。
「え、いや、全然そんなんじゃないです」
ちょっと奥さん。怖いです。
恐怖は湧いてこないけど、これは“怖い”で間違いない。
さて、なんて言い訳しよう?
ちゃんと納得できる理由でないとマズイだろうな。
まだ僕の怪しい度は95%はあるだろうし。
……旦那さんに乗ってみるか?
実はそうなんです、的な?
いや、無理だな。
そのあとが絶対に続かない。
盗賊に襲われて……。
いや、これも駄目だな。
下手に話を広げると、余計ややこしくなりそうだ。
じゃあ王道の、『実は自分でも全く思い出せなくて……』うん。やっぱりこれかな。これだよね。
僕が話し出そうとした、そのときだった。
「まぁ、言いにくいなら、無理に言わなくてもいいわよ」
「なかなか無ぇーからなぁ。街道で全裸は。わっはっは」
おじさんは何か思い出したように、にやけている。
たぶん僕の全裸両手、両足にピシ謝り……だな。
ふっ、これくらいの「恥」では動じない。
なにせ僕はさっき暗闇で、地獄を見てきたのだから……。
「ところでお前さん、名前はなんていうんだ?」
「え?あぁ。すいません。名前も言ってませんでしたね」
「僕は……あの、ぼくは……」
えぇっ??
なんでだ?
名前が出てこない。
さっきまで、自分の名前について何の違和感もなかったのに。なのに、名前を言おうとした瞬間、それだけが急に霧に溶けるみたいに遠ざかっていく。
えーーーと、ほら、ここまで出かかってるのに。
なんだっけ?
僕の名前は……。
考えているうちに僕の名前は完全に消えてしまった。もう、出かかってくる感覚すらない。何もない。
僕は、自分の名前を思い出せなかった。
はぁ。
恐怖心、服、靴、名前……。
僕、忘れ物多すぎない?
恐怖心がないから妙に余裕はあるけど、けっこうキツいと思うんですけど……。
そういえば、僕以外の……ええーっと、8人か。
その人たちも、いろいろ忘れてきてるんだろうか。
……大丈夫なの、これ。
第4話 完
【半分異世界へ入場した僕のリザルト】
〇初期装備:0
(あまりに無慈悲な設定。全裸転生は序盤がほぼ無理ゲー)
〇入手アイテム:2
:握りやすい木の棒(攻撃力1)
:奥さんのひざ掛け(防御力1、尊厳回復力70)
〇全裸謝罪事故度:100
(誠心誠意頭を下げた結果、隠していた前方を全開放。礼儀正しさが裏目に出た)
〇忘れ物多すぎ度:100
(服も靴もないうえに、名前まで出てこない。半分異世界は、思ったより身ぐるみを剥がしてくる。他の8人が心配)
第4話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
異世界 、第一歩目でした。




