第3話 九人の僕と、魔王の影
本日3回目の更新、お付き合いいただきありがとうございます!
本日分の先行公開はここまでとなります!
「はいぃぃぃ???」
「旅ってなんなんですか?」
「旅行……とはちがいますよね?きっと…」
「パーティー組んで魔王でも倒しに行っちゃう的なやつですか?」
さっきまで少しだけしんみりしていた気持ちが、一瞬で吹き飛んだ。
代わりに、怒りがこみ上げてくる。
なんなんだコイツ。
散々上から人の黒歴史をほじくり返しておいて、
結局お前も十分こっち側じゃねーか。
「お前のお前が」のくだりで、だいぶヤベーやつだとは感じていたが、
ガッツリヤベーんじゃねーか。
「まぁ、聞け!」
「我はヤバくない!」
「いや、やべーよ…」
「なっ…」
「バカを言うな!」
「詳しくは言えぬが、我はもうすっかり大人だ。かなりの大人である」
・・・おや?
妙に必死だな。
あやしい。
さてはその辺りに、黒歴史が埋まってるな、お前。
「ゴホン」
「話を戻す!」
「真の我は、長く続くストレスにより精神が崩壊しかけておる」
「なにそれ?」
「精神の崩壊を避けるには、心を豊かにせねばならん。お前がかつて夢見たあの恥ずかしい冒険は、ただの妄想ではなかったはずだ」
「そ、そうでしたっけ?」
すいません。若気の至りの妄想です。妄想でお願いします。
「眠る前、お前にとってあれは心の安らぎであったであろう?心の支えであったであろう?」
「ゆえに、お前は旅に出る。お前にとっては、新しい世界での冒険といったところだ。そして、真のお前にも夢や希望を見させてやるのだ」
だから何なのそれ??
急になんか、しんみりしだしたなと思ったら『ゆえに旅に出る』って、話が飛び過ぎだ。
全然「ゆえに」になってない。
別に旅は嫌いじゃないよ。たぶん。
でも、いきなり真っ暗な場所に放り込まれて、その流れで「旅だか冒険だかに出ろっ」て言われても、僕にだって生活があるんだ。たぶん。いや、もう今までの生活は無いような気はするけど。
そもそも、その目的の『真のお前』ってのがわからない。誰? 本当に僕なの?
今ここにいる僕の他にも僕がいるってこと?
だいたい、本当の自分だの何だの言い出すやつに、ろくなのがいた試しがないんだよね。たいてい面倒くさいこと言い出す。
でも…
まぁ、バカにしてるわけじゃないのは、なんとなくわかってる。
コイツはどうやら本気だ。
正気かどうかは怪しいけど……。
そこは悲しいところだけど、本気なのは伝わってくる。
それに、僕を冒険に出させようとすることに、裏があるようには思えない。
いきなり散々いじめてくれたけど、悪い奴ではなさそうだし……。かなり困ってる感じもするし……。
こいつも僕で、僕も僕。でもって、さらに真の僕とやらがいて、その僕を助けようとしていると……。
「あ、もしかして多重人格的なやつ? それは、なんか、ちょっとヤなんですけど」
あれは、僕が眠ってる間に、違う人格の僕が勝手なことを色々して、その後始末が大変ってのがパターンだ。半分異世界だとか言っていないで、是非しっかりした病院に行っていただきたい!
「違うぞ」
「そうですか……」
はぁ…
…なんでこんなことに……
こんなわけのわからない状況だし、今さら考えてもしょうがないか……。
冒険? ちょっとワクワクもするし。
中2っぽいけど。
真の僕ねぇ…
まぁ、人助けみたいなもんだろ。っていうか自分のためか……。だめだ。こんがらがってきた。とにかく、自分自身が本当に困っているなら放っておけない。
しょうがないっ
僕は小さく息を吐いた。
「OK! 行けっていうなら行くよ」
「そうか」
「……助かる」
「我が今なお、真のお前を支えていられるのは、お前のそういうところが変わらぬからだ」
「そ、そりゃどうも…」
「では、旅立つ前に、お前が行く世界について少し教えてやろう」
「おお!どんな感じ?」
僕の目は一気に輝いた。
「いいか?」
「世界は広い。その中で人、動物、モンスターは数えきれないほど生きている」
「真の我とつながりを持ち生きているのだ。決して、真のお前が作り出したプログラムのようなものではない」
へー。
生きてるんだ。
真の我とつながっている、ってのがどういう意味なのかは、よくわからない。
何か影響し合っているのかもしれないし、そのへんは想像もつかない。
そこはわからないけど、生きているってうれしいな。
プログラムだから感情に惑わされるな、とか言われたら寂しいしね。
「あの、もちろん僕も生きてるってことだよね」
「とーぜんだ!」
「お前も、我もちゃんと生きている」
僕は生きている。
そしてこいつも生きているのか。
……うん。
それは、ちょっと安心する。
「そしてその世界には、真の我が作り出した「お前」が、お前を含めて9人いる。そしてお前が最後に世界に入る事になる。これ以上増えることは無い」
僕が9人いる????
なになになにその設定。
それは本当に僕なのか???
僕が右手上げたら他の僕も右手あげるとか??
それともタイムスリップ的な過去の僕と出会ったりする感じ?
それなら僕にはひとつ重要なミッションがある!
そう!
あの頃の、バカな自分をぶん殴ってやるのだ。
それと、最後に入る? 増えることはない?
それは不利なのか有利なのか。
どーなんだろう。
まぁいい。
面白そうじゃないか!!
ワクワクするなー。
ん?
今から僕は知らない世界に飛び込むというのに単純に面白そうと思う。
ワクワクしている。
恐怖心がないからか。
普段の僕ならこんなに純粋に喜べない。
きっと不安の方が勝っていたはずだ。
恐怖がない。
……これは、たぶん大きい。
この先の冒険で、間違いなく鍵になる。
常に意識しておくことにしよう。
「最後にもうひとつ」
「お前たち9人は自分の顔を見ることができない。鏡にも映らぬ」
「いや、正確には違う。実際には映っており、周りの者にはしっかり見えておる。ただ、お前たち自身は、自分の顔を認知できず、記憶にも留められぬだけだ」
「なんだそれ?」
「それって、どういう意味が……」
思わず眉をひそめる。
「さ、時間だ」
「しっかり魔王を倒してまいれ!」
「ちょっ、待て待て待て待てっ!!」
当たってたのかよ!!!
最後はやっぱり魔王を倒しにいくのかよ!
そこはひねり無しかよ!
今まで「これまでの冒険ものとは一味違うぜ」なんて思ってたのに!
「死ぬなよ」
「え?」
その一言を最後に、声はふっと消えた。
しばらくすると、真っ暗だった世界に、わずかな気配の変化を感じた。
風でもない。音でもない。
けれど、何もなかったはずの闇が、少しずつほどけていくような感覚があった。
足元に、淡い光がにじむ。
「うおっ!?」
思わず変な声が出た。
さっきまで床の感覚なんてなかったのに、今はたしかに自分の足の下に“地面”がある。
黒一色だった空間に、細い光の筋がいくつも走り、それが円を描き、道を作り始めていた。
「な、なにこれ。急にそれっぽくなってきたんだけど」
胸の奥がざわつく。
怖さはない。
子どものころ、布団の中で何度も夢見た、誰にも知られない自分だけの冒険。
剣を握って、仲間がいて、強敵がいて、ピンチがあって。
かっこいい自分がいる世界。
その入口が、今、目の前にある。
真の僕とか、頭の中とか、複数いる僕とか。
状況はずいぶん違うみたいだけど。
「……ほんとに行くんだな……」
つぶやくと、闇の奥で、あの声がなにやらとても驚いている気がした。
なんだろう。
「おーーい」
返事はない。
その代わり、目の前の光が一段強くなった。
道の先に、輪郭が生まれる。
草の匂い。土の匂い。遠くで鳴く、名前も知らない鳥の声。
真っ暗だった世界は、気づけばもう、夜明け前みたいな薄青い景色へと変わっていた。
その中央に、一本の道が伸びている。
どこまでもまっすぐで、どこへ続くのかはわからない。
不思議と目をそらせなかった。
ごくりとつばを飲み込む。
相変わらず、怖くはない。
さぁ!始まりだ!
少しくらい格好つけて踏み出してやるかっ!僕の秘密の黒歴史物語にはもちろん、遠く離れた場所へ一瞬で移動する術もあった。そして当然、そういう時の決め台詞も用意していた。
あの頃の僕が、大満足していた格好いいやつだ。気分よくあれを唱えて行ってやろうじゃないか。聞かれたとしてもあの声くらいなもんだろう。
いくぞー!
「我、目指す地へ。盟約に従い、いざないたまえ。おお、冥王よ。この場より、我と共に、いざ、参らん!!」
ふふ。我ながら、言ってる意味は分からないが、響きはかっこいいぜ!
「わっ、ばかっ」
ん? なんか聞こえたような……。
世界が伸びる。
ぐるぐる回り出す。
僕は深く息を吸って、目の前の道へ足を踏み出した。
第3話 完
【僕:旅立ち前の理解度ステータス】
〇声の主の『黒歴史隠蔽』疑惑度:95
(本人は大人を主張するが、かなりの黒歴史を抱えていると確信。掘れば出るタイプ。『スパイラル蒼空剣』をイジっておいて自分はノーダメージで逃げ切ろうなんぞ、そうは問屋が卸さない)
〇九人の僕への理解度:10
(自分が九人いるらしい。右手を上げたら全員上がるのか、過去の自分に会えるのか、何もわからない。ただし可能であれば昔の自分を成敗する予定)
〇魔王討伐の雑な依頼度:100
(最後の最後で「しっかり魔王を倒してまいれ!」と投げられる。そこはひねりなし)
本日分(第1話〜第3話)を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ようやく旅の始まりです。
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明日、20:00にまたお会いしましょう!




