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第37話 成長と邪念

お昼休みも無事終わり、午後の鍛錬が始まろうというころ、僕はみんなに聞こえるように少し大きな声でビアンカに話しかけた。


「あ、そうだ。忘れてた。ドーラさんから頼まれごとがあったんだ。モーサムさんに忘れ物を届けるように言われてたんだった。モーサムさん困ってるだろうな。ごめん、ビアンカ。

あのお寺まで一緒に来てくれない?僕はまだ慣れてなくて、急いだら道に迷っちゃいそうだし」


ビアンカは不思議そうに僕を見るが、なにか気づいたのか話を合わせて、道場を一緒に出てくれた。


「どうしたの? お父さんに届け物なんて嘘でしょ? な、なにかわたしに用なの……?」

ビアンカの顔は少し赤くなって、そわそわしている。


「うん。さっきの鍛錬で気づいたんだけど、僕、ビアンカの動きを思い出しながらやると、すごくうまくいくみたいなんだ」

「構えも、突きもそうだった」

「だから、蹴りも見せてほしい」


ビアンカは、きょとんとした顔で僕を見る。


「わたしの蹴りを?」


「うん。本気のやつ」

「あ、もちろん僕に当てないでね。僕は見たいだけで、食らいたくはないんで」


「ちょっと! わたしの本気の突きって、まさかあの時のことなんじゃ……?」 

「やめて!思い出さないで!!」 


ビアンカの顔が、一瞬で真っ赤になった。


「あ、違う違う、ごめんごめん。そういうことじゃないんだ。 本気でその、ビアンカの真似をすると、すごくうまくいくんだよ。だから……その……」


「……絶対よ」

ビアンカは真っ赤な顔のまま、僕をにらんだ。


「絶対、これ以上思い出さないなら、いいわよ」


「やったーー!!」

「ありがとう!!!」


ビアンカは、とりあえず?快く見せてくれることになった。

ビアンカの武力は74。

鉄心先生の76と、ほとんど変わらない。


彼女の服装は、上は半袖。

下は一見、膝上丈のスカートに見えるが、内側はハーフパンツになっているらしい。

さらに、ひざ下から靴までは布でしっかり覆われている。

動きやすさと、かわいさの両立。恐ろしい完成度だ。


お寺の境内に着くと、あまり人が通らなそうな場所を探して、さっそくレッスンにはいった。


まずは普通の横蹴りを見せてもらう。

本気のやつをお願いすると、ビアンカの顔つきが変わった。

さっきまでの照れた顔が消える。

目の奥が、すっと静かになった。


構える。

やはり違う。急に、彼女の周りの空気が重くなったように感じる。


左足を軸にして、右足がすっと持ち上がる。

体の傾き、腕の位置。バランス。素人目でもすごいとわかる。


膝を抱え込むように引きつけた次の瞬間、


「ハッ!」


短い掛け声とともに、その足が真横へ一気に伸びた。


少し揺れたスカートの下から、鍛えられた脚のラインが見える。

白く、しなやかで、それでいて芯がある。


きれいだ。

いや、これはちゃんと武術的な意味で、きれいだ。

ずっと見ていられそうだ。

技として。

たぶん、技として。


「どう?」


「うん。すごく力強いね」

「あと、動きがすごく自然だ」


「ふむ。ちゃんと見てるのね」

ビアンカは少し満足そうにうなずいた。


「じゃあ、次は後ろ回し蹴り」


そう言って、ビアンカは構え直す。


左足を軸に、腰がすっと回る。

次の瞬間、右足が背中から弧を描くように放たれた。


しなやかな脚が、空気を切る。

その軌道には、虹でもかかっているのではないかと思うくらい、きれいな線が残って見えた。


最後にハイキックを見せてくれた。

今までよりも、さらに高く足が上がる。

軸足がぶれず、足先がスパッと伸びあがる。


美しい。


気づいた時には、僕はひざまずいていた。


「いいものを……」

「大変いいものを見せていただきました……」


「そ、そう……」

「なんか目に変な光があるようだけど、まあ、お役に立ててよかったわ……」


ビアンカは少し顔を引きつらせながらも、大人の対応で流してくれた。


僕たちは道場に戻った。


途中抜けしてすみませんと頭を下げながら、元の場所に戻る。

さっそく、見せてもらった横蹴りをやってみるが上手くいかない。


10回。20回。

何度やっても、しっくりこない。


回し蹴りも、ハイキックも同じだった。

どうやら、すぐに鉄心先生に褒めてもらった『構え』と『突き』は、ただの偶然だったようだ。


ビアンカはというと、隣でいろんな技を繰り出している。だが、どの動きにも、先ほど見せてくれた『蹴り』ほどの切れ味はない。どうやら道場では、かなり実力を抑えているようだ。


今のビアンカでも、ずっと見ていたいほどきれいだ。

けれど、僕の目には、本気のビアンカの動きが焼き付いている。


目をつむり、改めてじっくり思い出す。

邪念は捨てて……。


まずは横蹴り。

軸足。腰。膝を抱え込む動き。

しっかり思い出す。邪念はない。


次、回し蹴りを思い浮かべる。

本気のビアンカが、腰を回す。しなやかな脚が弧を描き、空気を切る。


スカートの下から伸びる、鍛えられた脚のライン。

その映像が、頭の中にはっきり浮かぶ。

……いや、違う。

見ていたのは脚だけじゃない。


軸や体の回転だ。


回ってくる背中、揺れる髪。

その瞬間、なぜかこれだと、わかった。


僕は目を開き「ハッ」と短く声を出し、回し蹴りを放った。

これだ! 感触はとてもいい。


さっきまでとは、まるで違う。

体と足が自然に流れた。

体の中心から、一本の線が通ったような気がした。


気付くと鉄心先生が隣にいた。

目が、僕を見て止まっている。


「すばらしい。まさに一撃!」

「精進しなさい。君はすばらしいものを持っている」


そう言って、僕の肩を軽くたたき、他の生徒へ移っていった。


ビアンカが小声で話しかけてきた。


「今の、すごいよかったよ。急にどうしたの?何かコツでも掴んだの?」


「そうだね。なぜかわからないけど、ビアンカの背中かな?」


「背中?」


「うん。回ってくる背中と、その髪」

「あとは、その……」

「蹴り上げた時に見えた、鍛えられた脚のラインが……」


「脚のライン?」

ビアンカの笑顔が、ぴたりと止まった。


「へ、変態っ!! どこ見てたのよ!」


「少しだよ! でもとても綺麗だったよ」


「褒めればいいってものじゃないのよ!」

「忘れなさい! それも忘れなさいよ!!」


「いいの?忘れたら、せっかくの一撃も忘れちゃうよ?」


「ぐ……、 卑怯者!」


こうして、僕たちの鍛錬初日は、僕の中ではいちゃいちゃ判定のまま無事終了した。


第37話 完


【ナオえもん状況】

・掟破りの道場抜け駆けデート:雰囲気120

 (青春の絶対ロマンスで完全勝利)

・構え、突き、回し蹴りの完成度:90

 (邪念を媒介としたイメージ特化型の演武)

・脳内ビアンカ蹴り映像:永久保存

 (解像度4K、スロー再生機能付き)

※本人への開示可能性:0%

 (厳重に脳内暗号化)


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