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第35話 実力の片鱗

目を丸くしている日焼け君が、どうしようか迷っているようだ。


その様子を、グレイブは黙って見ていた。 単に驚いたというより、少し見直したといった表情だった。 

奴の実力は多少知っている。 ビアンカのフルストレートの突きに、まったく反応できていなかった。この場の余裕はハッタリか? それとも、何か当てにするものがあるのか。

どちらにせよ、あの肝の座り方は見事だ。


だが、このあとは、そうだな、誰かが争いを止めるだろう。そしてビアンカも。

見たくない。ビアンカがあの男を庇う姿など……。


グレイブは一度だけビアンカの方を見た。 それから寂しげに目を伏せ、静かに道場を去っていった。


ビアンカの表情からは、焦りがにじみ出ていた。

ちょっとナオ??? 挑発に挑発で返してどうするのよ! 今の実力じゃ確実に負けるわよ。 

早く止めなきゃ……。

そう思って、ビアンカは一歩踏み出しかけた。 けれど、その足が止まる。


でも待って。 ナオのあの表情、少しもひるんでない。 この道場の空気を真正面から受け止めているように見える。 


交渉官適性85。 

これがその力の片りんなの? 


ふふっ、かっこいいじゃない! 

その力、見届けさせてもらうわね!!


僕の表情に、一瞬の焦りがでる。

グ、グレイブさん!!! どこに行かれますの?? ダメじゃない。あなた絶対この道場全体のリーダーでしょ?? 最後までここの治安を守りなさいよ!


周りの生徒たちは当てにならない。 あのキラキラした目。 完全にこのトラブルを楽しんでいる。 君たち、平和というものは自分たちの力でかちとるものですよ! 道場生なら、まず治安維持に協力しなさいよ。


しょうがない、情けないがここはビアンカ頼みか……って、あの、ビアンカさん。なんでこの僕のピンチにあなたまでキラキラした目で僕をみているの??? ちがうの。君は、しっかり僕と日焼け君の間にはいらなきゃ! 胸ぐらを掴まれた僕を助けてくれなきゃ!


……どうしよう。完全に読みが外れた。ビアンカのあの目は、なにか僕に期待している。彼女が動くことはないな。 あとは、先生の登場くらいか。時間的にまだ早い。ないな。。。


その時、


「ははっ! おもしれーじゃねーか」

「そうだな。いかにもかませ犬しちまってるな。 すまなかった。許してくれよ、新入りさんっ」

そう言って、彼は笑顔で片手を出し、握手を求めてきた。


おおおおーーーーーっ!

できる! 君、できるじゃないかっ!!

最高だよーーー! なんだ、わかるやつなんじゃないかーー!! 人は見かけによらないねー。 早く言ってよーー、もうっ♪


「いや、こちらこそ。名前を教えてもらえる?」

僕は、心の興奮を全力で抑え、クールに握手に応える。


「俺は、マイヤー。よろしくな」


僕たちはお互い名乗り合った。

周りの生徒たちは、どうやら僕をそれなりに認めたらしい。 それから興味が失せたように日常に戻っていった。

ただ、ビアンカだけ、先ほどよりさらにキラキラ度を増した目で僕を見ている。


すごい! すごいわっ! 乗り切った。しかも完全勝利と言っても過言ではないくらいの自己紹介だったわ。 「交渉官適性」に関して、わたしが何かする必要は全くないのね。ナオは一人で成長していける。 わたしは、その他の適性のサポートに徹するわ!


その騒ぎを、誰にも気づかれずに見下ろす影があった。

道場の梁の上。ひとつの影が、静かにしゃがんでいる。


あのマイヤーという男。

そのさわやかな性格のおかげで命拾いしたわね。 もし、ナオくんに危害を加えようものなら、この才子が黙っていない。

今ごろ立ってはいられなかったわよ。


生徒たちが静まりはじめた。どうやら、先生が来たようだ。


第35話 完


【ナオえもん人物査定】

・グレイブへの評価:40

(道場の治安維持放棄が決め手)

・マイヤーへの評価:100

(いいやつ認定。お友達になりたい)

・ビアンカへの評価:55

(目をキラキラさせるだけで動く気配がなかった)


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