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第33話 鍛錬の方向性

皆様いつもありがとうございます。

30話以降は毎週水曜日と日曜日に1話ずつ投稿していきます。

引き続きよろしくお願いいたします。

終わったころには、もう夕方のいい時間だったので、僕たちはお寺の人にお礼を言って家に帰ることにした。


本堂の外に出ると、空はもう赤くなり始めていた。

昼間よりも少し冷えた風が、境内を抜けていく。


帰宅すると、家にはもう夕飯の準備ができていた。

モーサムさんは席でビールを飲んでいる。


手乗りドラゴン2匹は、もう夕食を済ませたようで、部屋の隅で寝ていた。この2匹はいつ見ても寝ている気がする。


「ギリギリ間に合ったわね」

「すいません。遅くなりまして」


僕たちが席に着いたところで、バーラムさんと、ドーラさんも腰を下ろした。


僕は昼間、軒下に潜んでいた3人と目が合っていたが、とりあえずそのことには触れなかった。お三方も、そのことを特に口にするわけでもなく、微妙にぎこちなさの残る、大人な空気感漂う食卓だった。


食事のあとは、お風呂に入ったりそれぞれ身支度を整えたりしてから、僕とビアンカはリビングで適性の話をすることにした。本当は2人が良かったが、夜に部屋で二人きりはさすがにまずい。


僕の判明した適性の数値を紙に書き、テーブルの上に広げる。

左列の像のそれぞれの数値を改めて見てみる。

勇者:5 重戦士:0 戦士:10 剣士:65 武道家:60 弓術家:30 

僧侶:50 狩人:40 隠密:75 盗賊:70


やはり勇者:5は特別だとビアンカが言う。

わかりました。よく考えておきます。考えるだけなら、まだ無料だ。


重戦士、戦士についてはスルー。僕には無縁の適性だ。剣士も、大人の対応でさらりと流す。


さて、武道家だ。僕は、武道家という職業は昔から戦士より好きだ。理由は、やはりスピード系は泥臭くなく、また力だけに頼らないさわやかなイメージがあるからだ。


「こうやってみるとやっぱりナオは、素早さにある程度適性があるみたいね。数値が高い適性はどれもそれが必要なものだし」


「そうだね、でもこの、隠密と盗賊が高いのはなんでだろう? そもそも隠密はわかるんだけど、盗賊ってなにするの? その、犯罪以外で役に立つの? この適性があるだけで役所のリストに載りそうなんだけど……」


「そこまではないわよ。隠密ほどではないにしても、気配を消したりするのは得意だし、偵察もできる。あと、警戒もできるし、罠の解除なんかも得意ね。戦闘もそこそここなす結構万能な適性なのよ」


「ふーーーん」


「とにかく、スピードがあって、恐怖心が無いナオにはもってこいの適性ね」


右列の像

統治者:0 軍師:10 内政官:15 交渉官:85 魔術師:60 治癒魔術師:30

獣使い:60 吟遊人:60 学者:10 暗黒騎士:50


「あの、交渉官はおいといて、僕、バカなのかな……」


「そ、それはその、向いてないってだけじゃないか、し、ら……」

「ほら、魔術師の適性も高いし、バカじゃ魔術師には向かないと思うわ!」


「・・・・・・」

「ま、いいや。統治者、軍師、内政官、なんて僕に向いてないのは自分でよくわかってるしね! それより暗黒騎士だよ! 何だったらこれが一番気になる」


「んーーー、あのね、暗黒騎士については、よくわかってないのよ。たまーに、適性が高い人はいるんだけど、適性が出た本人も、何をどうしたってその後、暗黒騎士の能力に目覚めた人がいないらしいのよ」


「らしい?」


「そう、目覚めても何かの理由で、本人が言わない可能性もあるから」


「なるほど。さすが暗黒騎士。闇が深そうだ」

「僕も気を付けることにするよ」


「さて、出そろったところで、ナオは確実に交渉官なわけだけど、それ以外をどうするかよね」


「どうするって?」


「ほら、適性ってグラデーションで繋がっているっていったでしょう?」

「だから、ひとつに絞る必要はないのよ」


「ま、適性がありそうなものを、それなりに勉強を含めて訓練すれば、伸びるものなのよ」

「ただ、こんなにたくさん50を超える適性がある人もめったにいないわよ」


「器用貧乏にならないように、ある程度は絞らないとね」

「普通は、像の前で年月をかけて、少しずつ自分に合うものを感じたり、ひらめいたりしながら進めていくんだけどね」


「ナオの場合は、最初から自分で選んで進められるんだから、とーーても近道!」

「ずるいわよ!」


「これを見たら僕はやっぱり隠密だろうね」

「派手になにかするより、忍び込んだりなんなりする方が、向いてそうだし」


「決まりねっ! これで方向性は決まったわね。明日からはとりあえず交渉官の伸ばし方を調べるところからゆっくり始めていきましょうか」


「うーーーん」

ビアンカは両手を挙げて伸びをした。


「今日のところは、そろそろ寝ましょうか」


「え? もう?」


あ、しまった!うっかり本音が出てしまった!! 僕はこのリビングの状況がとても楽しかった。お風呂上がりで、半袖シャツに半パン姿のビアンカとテーブルをはさんで話し合う。


まるで、夜のファミレスで大学のゼミの発表課題に追われた班の2人。なかなか叶わないあこがれのキャンパスライフを手にした気分だった。


「ふふっ。じゃあ、あと少し話す?」


「うん!そうしよう!」

僕は、初めて言い訳をせず、自分の素直な気持ちを伝えることができた。


ビアンカは少しだけ嬉しそうに笑うと、テーブルに肘をついた。

それから僕たちは、適性の話から少し離れて、今日の夕飯のこと、手乗りドラゴンたちの寝相のこと、明日は何をするかなんて話をした。


特別な話ではない。

だけど、その普通の会話が、やけに楽しかった。


結局、十五分くらい話してから、

「これ以上、話してたらお父さんが聞き耳立てちゃうかもねっ」

という冗談に二人でクスリと笑い、それぞれの部屋に戻ることになった。


今日も充実していたな。

楽しかったー。

僕は、興奮して眠れないかと思ったが、驚くほどすぐに眠りについた。


僕が眠りに落ちたころ、別の部屋では、ビアンカがまだ天井を見つめていた。


ふう。

今日はナオの適性調査?が一気に進んだわね。


それにしてもあの交渉官の85。

あの数字はすごい。


わたしがこれまで見た中で、最初から80以上を持っていた人はいない。

小さな村の中での話ではあるけれど、期待してもいいと思う。

それにあの50以上の値を出した適性の多さ。器用貧乏にならないようにしっかり育ててあげなくちゃ!

隠密の実力を秘めながら、大舞台で海千山千の人たちと舌戦を繰り広げるナオ。


素敵じゃないっ!


頑張るわよ! 

おやすみナオ……


第33話 完


【ナオえもんの心情】

夜の模擬キャンパスライフ満足度:95

交渉官としての自己肯定感:80

スピード剣士への未練:70(極秘)


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