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第32話 ナオえもんの数値

「和尚さんも案外忙しいんだね」

僕はそう言ってビアンカの方を見ると、彼女の雰囲気はさっきまでとは違っていた。

考え込むような、真剣そのものといった表情だ。


「ナオ、あなたさっきの言葉、本当なの?」


「さっきの?」

「さっきのって、どれ?」


「もう!」

「最初の像に親近感があるってやつよ」


「あー、あれね」

「あれは、まぁ何というか、そんな感じかなーくらいで、別に何でもないよ」


「何でもなくないわよ!」

「あのね、勇者適性を持ってる人なんて、ほとんどいないのよ!」


「そ、そうなの??」

「でもビアンカは勇導師なんだろ?」


「ばかねぇ」

「勇導師なんて、もっと特別で世間に知られてないから、像だってないくらいよ!」

「ナオだから言ったんであって、わたしはみんなには剣士寄りの吟遊人くらいに思われてるわ」


「そ、そ、そうなの??」

「まずかったかなぁ」


「どうかしら。たぶん、本気にはしてないと思うけど」

「とにかく、変なことになる前に、さっさと全部見ておいた方がいいわね」

「本当は何年もかけて、さっきナオが言ってたみたいに、像に親近感を覚えたり、ピーンときたりするものなのよ」


「ビアンカは見れるんだもんね」

「でも、大丈夫かな。適性が全然ない、なんてことはないよね? 猿適性なんて嫌だよ」


「そんな適性ないわよ。それに安心して。適性がない人なんていないから」


「そうなの? それなら楽しみだ。じゃ、よろしく」


「お気楽なんだからっ!」

「じゃ、ほら、じっとしててよ」

「あ、でも希望通りじゃなくてもスネないでよ」


「わ、わかってます!!」


「それでは、と」

ビアンカは僕の方に手のひらを向けて、目をつむり集中し始めた。

そして、少し経ってから目を開くと、僕の頭の少し上あたりを見ている。


「ええーーと、ね、待ってよー」

ビアンカは僕の頭の上あたりを見ながら、指で空中をなぞるような仕草をした。


「あ、これだわね」

「じゃあ、そのまま像の前に行って、目をつむって像から何か感じないかやってみて」

「そしたらどれくらい適性があるのか、数値が表示されるわ」

「まずは、勇者像の前ね」


「便利だねー!」

「ではでは」


僕は像の前で目をつむり、頭を下げ、心を無にする。

4秒、5秒と経つ。特に何も感じない。


だが、突然。


「わ、出てきた」

「数値が出てきたわよ!」

「5、5よっ!!」

「ほんとにあるのね……すごいわ……」


「5?」


「そう! 5」


「それ、あるの?」

「むしろ、ないんじゃ……」


「何言ってるのよ!」

「5、あるだけでも珍しいのよ!」

「しかもまだこれから成長したら、上がるかもしれないし」


「5ねぇ」


本来なら、もっと喜ぶところなのかな?勇者適性だし。いかにもアタリって感じだ。しかも、ビアンカが「珍しい」とまで言っている。


だけど。

勇者、かぁ……。


正直、荷が重い。

名前からして重い。

肩に乗せる前から、腰がやられそうだ。


みんなを導く存在でしょ? 一貫した行動とか公平な態度。『仲間のために』みたいなものをあたり前に求められそうだ。


いくら実力があっても、自分がやりたいように、思うがままに動くようなやつが、みんなをまとめるなんてできない。


無理だな。

僕には、そういう真っすぐな役は似合わない。


僕は9人のうちの1人だ。

僕がそんな大役、魔王退治の中心っぽい適性を引き受けなくてもいい。もっとそれが似合う他の僕がいるだろう。


ただ、ひとつ問題がある。物語のヒロインというのは、だいたい勇者の隣に寄り添うものだ。つまり、ビアンカが僕から離れて、ちゃんとした勇者っぽい他の僕のもとへ行ってしまう可能性がある。

それは困る。

とても困る。

のちのち色々と考える必要があるようだ。あくまで、のちのち。今はまだ大丈夫だろう。


「まぁ僕は勇者って感じじゃないから別にいいや」


「あら、ものすごいサッパリね」

「もっと喜んでもいいと思うんだけどな」

「勇者適性があったのよ?」


「いいのいいの」

「次いこう!」


「次は重戦士だね……」


そう言って僕はさっさと重戦士の像の前に立ち、さっきと同じように心を無にする。

ビアンカも続いて、僕に手のひらを向ける。


「うーん。重戦士はゼロねっ」

「これはもう、まったく素質はないみたいね」


「でしょうね。僕はどうみても、重戦士ってがらじゃないよね?」

「重戦士って、あれでしょ?」

「斧とか持って、ずっしり系の、みんなの『ザ・盾』みたいな」


「だいたい、そのイメージであってるわ」

「ナオには絶対無理ね」


「うん、無理」

「はい、次!」


次の戦士も数値は10だった。

自覚しているが、僕は力で押す系の適性は全くないらしい。


そして、その次。

剣士の像の前で、初めてまともな数字が出た。

剣士:65


出た。

出てしまった。

僕は思わず剣士の像を見上げた。その像は、何食わぬ顔をしているように見える。


うれしい。そして恥ずかしい。

昔、僕が妄想した、スピード系剣士。

風を切り、敵を翻弄し、最後はクールに必殺技で決めるあの姿。


因果関係は確実だな……。


ビアンカが一瞬こちらを見たが、何も言わなかった。

ありがたい。

今、『剣士』について深掘りされると、必然的に僕の黒歴史の話題になってしまう。


ビアンカは、僕が妄想の中でスピード系剣士として活躍し、必殺技『スパイラル蒼空剣』を使用することを知っているのだ。

この65という数値が、それと関係していることには気づいてるはずだ。

彼女の気遣いに感謝する。


僕たちはこの調子で順番に適性を見ていった。

結果は、

勇者:5 重戦士:0 戦士:10 剣士:65 武道家:60 弓術家:30 

僧侶:50 狩人:40 隠密:75 盗賊:70

並んでいる像の左列はこんな感じだった。


「隠密が75と、あと盗賊が70でかなり高い……」

「なんで……?」

僕は、自分の手を見た。


盗賊。

隠密。


言葉の響きが、あまりにも主人公から遠い。

勇者5で、盗賊70。


僕の勇者適性「5」は、完全に裏口入学枠だな……。


「全体的に見ると、身軽さとか、気配とか、そういう方向にはかなり寄ってるわね」

「剣士、武道家、隠密、盗賊。このあたりが高いもの」


「適正はグラデーションなんでしょ? 隠密、盗賊よりで、こそこそ動いて後ろから斬るタイプ?」

悲しいけどあってる気がする。


「んんー、何かあるんだと思うけど……」

「分析はあとよ!」

「とにかく全部終わらせちゃいましょ!」

「考えるのは帰ったあとね!」


「りょーかい!」

帰ったあとか。いい響きだ。自然にビアンカの家に一緒に帰る設定だ。世の男どもよ!うらやましいだろー♪


右の列も次々にこなしていき、4番目の交渉官の像の前に立ったときだった。

ビアンカの表情が変わった。


「……え?」

さっきまで淡々と数字を読んでいたビアンカが、目を丸くしている。


「どうしたの? また暗いやつ?」


「違う」

「違うわ」

ビアンカは、空中に浮かぶ数字をじーっと見つめている。


「交渉官……85」


「85?」

一瞬、意味がわからなかった。


「すごーーい!!!」

「これよ! ナオは交渉官なのよ!!」

ビアンカの声が、さっきまでより一段、いや二段、明るくなった。


「この適性保持者、意外といないわよ!!!」

「知識だけじゃだめだし、何より度胸が必要よ」

「あっ! ナオは恐怖心がないじゃないっ!」

「絶対決まり。天性の適性よ!」


「おお……」

「なんか、急に僕がかっこいい人みたいに聞こえてきた」


「実際、すごいことだと思うわよ」

「これから国を越えて旅をするなら、交渉事は絶対について回るわ」

「通行、情報交換、町や国とのやり取り」

「不利な状況を避けて、できるだけ楽に旅を進められるかは交渉次第だもの。こういう裏方は絶対重要なんだから」


「おおーーー。いいねいいね。そんな交渉官の85!これは決まったね!!」

交渉官。

いい。

響きがいい。


勇者ほど重くない。

盗賊ほど後ろめたくない。

隠密ほど、自己紹介に困らない。


まさかの裏方、文官系だ。

まだ交渉なんてしたことないけど、楽しみだ。


「さ、この調子で続けるわよ」


「はーい」


そして、右の列の結果はこの通り。


統治者:0 軍師:10 内政官:15 交渉官:85 魔術師:60 治癒魔術師:30

獣使い:60 吟遊人:60 学者:10 暗黒騎士:50


「...暗黒騎士50......」

ビアンカの声が小さくなり、神妙な顔つきに変わった。


いや、何?

暗黒?

騎士?

その二つを並べて、なぜ僕の中から50も出てくる?


「こ、これも、あとで考えましょう」


これもあとでですか???

いや、あとにしていい適性じゃないと思うんだけど……。


第32話 完


【ナオえもん:現在の最終リザルト】

〇自己肯定感:90

(交渉官85という明確なアイデンティティを確立)

〇世の男どもへのマウント度:100

(「一緒に帰る設定」で完全勝利)

〇厨二病への怯え:88

(スパイラル蒼空剣に続き、暗黒騎士までシステムに捕捉された模様)


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