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第31話 最初の適性像

「和尚様、それでは私はこちらの手紙を届けて参ります」


「おぉ、すまんがよろしく頼む」


和尚は、視線で弟子を見送ると、ゆっくりと腰を上げた。

廊下に出ると、古い木の床が小さく鳴る。


さてと、用事も済んだし、本堂の2人の様子でも見に行くとするか。


ナオえもんの適性修行に関しては、今日が初日。始めてから、まだそれほど時間も経っていない。

適性について感じることはまだ何もないとは思うが、あのナオえもんとやらには、どこか引っかかるものがある。


強さ、というものとは違う。

才がある、というものとも違う。


もっと内面的なものだ。

何か、全てを受け入れてしまうような。

どこか全てを他人事のように俯瞰しているような……。


まったく、出てくる時というものは、一気に出てくるものだな。

ここにきて、おもしろい若者が次々現れおる。

楽しみというか、心配というか……。


本堂の入口に近づくにつれ、なにやら妙な空気が漂ってくる。

修行の空気ではない。

線香と木の床の静けさの中に、なぜか春先の縁側のようなものが混ざっている。

桜の花びらでも舞っていそうな、妙にやわらかい空気だった。


ナオえもんと、ビアンカちゃんか……。

はたして、何が起こっているのやら……


和尚は、適性修行に励む二人の姿を楽しみに、本堂を覗いた。


だが、そこにいたのは青春モード満開の二人だった。


ナオえもんは少し下を向いている。

ビアンカちゃんはその前で彼の手を取り、心配そうに覗き込んでいる。


こ、これはいったいどうなっておる。

修行中……のはずじゃよな??


そもそもここは寺じゃぞ!

仏の場じゃ。

これだけ渋く厳かな本堂で、どうすればこんな空気を作り出せるんじゃ!


和尚は一度、目を閉じた。

いったん心を『無』にする。

そして、もう一度見た。


やはり、二人はそのままだった。


しかし、あのビアンカちゃんが……。人にも、場所にも、時にも気を配れる、よく出来た娘じゃ。その子が適性修行の最中に、これほど周囲の見えぬ状態になるとは。


空気を吸って、吐く……。


ナオえもん。

あやつか。

まさか、稀代のプレイボーイなのか。

どう見ても、そこまでの色男には見えぬのだが……。人は見かけによらぬな。


それにしても、ビアンカちゃんのあの表情。

心配そうで、真剣で、そして少しだけ近い。


近い。

やはり近い!


若さか。


ビアンカちゃんとはいえ、年頃の娘……。

まだまだ未熟なところがあって当然か。


ここは、どうするかのぅ。

叱るべきか、叱らぬべきか。

うむむむむ……。


とはいえ、よく見るとあのナオえもんが、意図してこの空気を作り出したわけではなさそうな気もする……。

儂には恋など分からぬ。

彼らにとっては、今は大事で、まじめに一生懸命なのかもしれぬ。

たぶん。

知らんけど……。


叱るだけが教えというわけでもあるまいし……。

仏に仕える者として、あえて見なかったことにするのも教えの一つ。


それは、それとして、適性像の後ろにいるやつはなんじゃ??

あれは、隠れておるのか??

体が半分以上、前のめりになっておるが……。


あやつも若いな……。


ふむ。

仕方あるまい。


この場は、まとめてわしが流してやるとするか。

世話がやけるもんだ……。

和尚は、一息つくと、さも何気なく通りかかったような顔で、本堂へ足を踏み入れた。


「おーい、どうだぁ?」

「頑張っておるかな?」


そのひと声で、2人はぱっと手を放した。

ビアンカちゃんの背筋がぴんと伸びる。

ナオえもんも、急いで姿勢を正した。


先ほどまで本堂を満たしていた青春の空気が、適性修行の雰囲気に戻っていく。

像の後ろから前のめりになっていた娘も、一瞬で姿を消した。


「あ、お、お、和尚さん、ごきげんよう」

ビアンカちゃんはスカートの裾を摘まんで少し上げ、貴族風のポーズをとっている。

動揺しすぎて、挨拶のジャンルが迷子になっているようだ。


「あ、和尚さん、すみません」

ナオえもんは、何がどうすみませんなのか分からない謝罪で事態を煙に巻こうとする。


だが、動揺している様子はない。その目の動き、体の力の入り具合、重心の位置。この青年は、やはり何か引っかかる。


「適性はどうだ?」

「まだ始めたばかりだが、何か感じるものはあったかな?」

和尚は、先ほどの光景を流すため、何気ない調子で尋ねた。


「すみません」

「まだ全然、何も感じられなくて」


「それはそうだろう」

「気にすることはない。先はおそらく長い」


「でもなんか、ぱっと見た感じですけど、本尊に向かってすぐ左にある像に、親近感があるかなーなんて、ははは……」


和尚の目が、ほんの一瞬だけ細くなった。


「ほう。面白いことを言うじゃないか」

「でも、そういうのは大事だ」

「そのまま続けなさい」


そう言って和尚はナオえもんから視線を外し、表情を緩めた。


「あ、そうだ、ひとつ仕事を忘れておった。すまんが、また席を外すよ」

「では、二人とも頑張るんだぞ」

和尚はくるりと振り返ると、せかせかと本堂から出て行った。


二人はこの時、まだ気づいていなかった。

ナオえもんが何気なく口にしたその一言が、和尚の中で重大案件へと昇格したことを。


廊下に出た和尚の顔つきは、真剣なものに変わっていた。

本尊に向かって、すぐ左にある像に親近感だと???


二十体ある適性像は、お釈迦様を中心にして、左右へ十体ずつ並んでいる。

その中でも、本尊のすぐ左に置かれているのは、勇者の像だった。


勇者という適性分類は、確かに存在する。だが、それはほとんど物語や伝承の中だけにある、イメージ上のものだ。勇者適性がある者など、これまで見たことも聞いたこともない。


それに親近感?

しかもこの短時間で?

戯れ……であればいいが、本当に親近感を覚えたとしたら……。


グラディウス殿。

これは、ただの思い過ごしではないかもしれませぬぞ。


和尚は足音を忍ばせるようにして、本堂の裏手へ消えていった。


【ナオえもんの現状】

〇勇者度:5

(本人いわく、パッと見&適当)

〇和尚さんへの警戒心:0

(完全に油断中)

〇和尚さんに警戒されてる度:85

(何気ないひとことが、重大案件へ昇格)


備考:ナオえもんにプレイボーイ疑惑が発生。和尚さんの中では審議入り。


第31話 完


適性像の並び順

左列メモ

1:勇者 2:重戦士 3:戦士 4:剣士 5:武道家 6:弓術家 7:僧侶

8:狩人 9:隠密 10:盗賊


右列メモ

1:統治者 2:軍師 3:内政官 4:交渉官 5:魔術師 6:治癒魔術師

7:獣使い 8:吟遊人 9:学者 10:暗黒騎士


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