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第28話 残酷なステータス

ビアンカは僕の方に手のひらを向けて、目をつむり集中し始めた。

そして、少し経ってから目を開くと、僕の頭の少し上あたりを見ている。


「どれどれ、いくわよ」


どうやら、なにかが出ているようだ。

僕には何も見えない。


「まずは、と……」

「名前、ナオえもん。 年齢は……15歳ぃぃっ???」

「15歳なの……?」

ビアンカは恐る恐るといった様子で、僕の顔を覗いてくる。


「15? 僕、15歳??」


一瞬、頭の中で数字が止まった。


15歳……


思っていたより、かなり若い。

いや、若いというか、子ども寄りでは?


「それじゃ、僕はビアンカより2つも年下ってこと?」


「そうなるわ…ね……」


どうしよう。

今までの、ビアンカの僕に対する接し方は、なんとなく同級生に対するそれっぽかった。

ただし、僕は今、絶対に頼りない人っていう印象のはずだ。

それが、頼りないうえに年下じゃ、弟認定されてしまうかもしれない。

つまり、恋愛対象から一気に退場の可能性がある。


いや、ドキメモ作戦してるだけで、もとから恋愛対象じゃなかったかもしれないけど、弟認定は嫌だ。


僕は絶望のあまり、目に少し涙が浮かび、下を向いていた。


それを察してかしないでか、ビアンカは少しかがみ、両手を膝に添えて、下から僕を覗き込んできた。


「どうしたのよ、急に?」


「いや、ビアンカが2つも年上だなんて……」


「なによそれ? 年上はきらい?」

ビアンカは眉をひそめながらも、少しからかうような口調で言った。


「いや、僕はもちろん、全然」

「ビアンカが年上だろうが、年下だろうが……」


「じゃ、なんでいきなりそんな暗い顔しちゃってるのよ」


「いや、やっぱ、ほら、年下だとあれだよ……」

「ビアンカの方が、その、僕のことを弟みたいに見ちゃうんじゃ……」


「……ふぅ、そういうことね」

「バカね、わたしは勇導師なのよ」


「むかしから、年上の人に引っぱってもらうより、少し頼りない人をお世話してる方が、肩の力が抜けるのよ」


「え? それじゃ逆に大丈夫的な?」


「ほら、こんな鑑定の序盤も序盤でうろたえてないで、先に進むわよ」

「頼りないナオくん♪」


「ちょ、ナオくんはやめてよ!」

「あら、ナオくんもかわいくていいわよ♪」


「ナオでいいよ!」

「もう! さ、次、次!」

僕は恥ずかしさを振り切るように、先を促した。


ビアンカはふと笑って立ち上がった。

そして、また空中のステータスに目を戻す。


まったく、ビアンカ様にはかないません。

ふぅ、ひとまずは良かった良かった……。


「さぁて、ここからよ……」

ビアンカの顔が、少し真面目なものになる。


「でね、今から言う数値は、わたしに見えるだけなの」

「あくまで適材適所に人を配置できるように、今の実力をなんとなく数値にしただけのものなのよ」

「いいわね!!!」

「だからどんな数値が出ても、変な勘違いしないでね!」

「いくわよーっ!!」


「…あらら………」


「ど、どうしたの?」


「げ、現実は厳しいわね」

「うん、大丈夫よ、大丈夫」


「いい? いきなり泣いてどっかいったりしないでよ」


「子どもじゃないんだし、そんなことするかっ!」


「ほんとかしら。お願いよー……」


「まず、武力はね……」

「その……14……」


「え? 14?」

それは、いくら何でも低すぎるんじゃ……

僕の知ってるゲームだと、弱くても30くらいはあったような。14ってなると最弱クラスだと思うんですけど。


「統率力:25……」

「知力:24」

「外交:28」


「ま、魔力:2……」

「……ってところかしら……」


ビアンカは、言ってはいけない診断結果を読み上げてしまった医者みたいな顔をしていた。


「し、死んでもいいですか……僕……」


「あは、あはははは…… は、は……」

「ま、最初はこんなもんよ」


「うそつけ!」


「ほ、ほんとよ。そりゃ、最初に時空をゆがめたりしてくれちゃったから、なんかすんごい能力値がいきなりあるかなーーーなんて思っちゃったりしただけよ」

「落ち込まないで?」


「いや、いいんだ……」

「武力14はいい」

「背も高くないし、筋肉があるわけでもない」

「格闘技の経験もないし、喧嘩すらしたことがない」


「……」


「統率もなに? 25? それもまぁいい!」

「リーダーシップなんて、意味がわかんないし、学級委員とかもしたことない。班長になるのだって嫌だった。記憶ないけど」


「でもさっ! でも知力24って、ひどくない?」

「それ、もう猿じゃん……」

「外交28? 嫌われ者じゃん……」

「魔力2? もう無しでいいじゃん…… 指先で静電気を起こせるかどうかレベルじゃん……」

「わかった。僕の適性は猿だ!」

「獣使いに使われるお猿さんだね、これは」


「だから、落ち着きなさいよー」


「同情はやめてくれ」


「もう、スネないで聞いてよ」

「ね?」


「ウキッ」

僕はふてくされながら、眉をひそめて横を見る。


その時、「失礼します」と言う声が聞こえた。


「和尚様の言いつけにより、お茶をお持ちしました」

(無)

「こちらに置いておきます」

(無)

「では、失礼いたします」

(無)


「いいタイミングだわ」

「ほら、お茶飲んで、落ち着きましょう」

「はい、お茶」

ビアンカが、僕にお茶を渡してくれた。


「それにしても、今の人、少し変わった人だったわねぇ」

「なんていうか……全身から『無』が溢れてなかった?」


僕はお茶を一口すすった。

「確かになんか、変わってたね」

「顔もなんか、こう、んー、どんな顔だったっけ? まぁいいや」


「さて……いい? 聞いて!」

「知力が低いのは、まだ、ナオがこの世界のことを何も知らないからよ」

「今のナオを、知力っていう数字で表すと、こうなるって意味なのよ」

「決して、バカってことじゃないんだから!」

「ね?」


「そうなの?」

「じゃ外交は?」


「それだって、この状態でこの世界の常識も知らないのに外交なんてできるわけないじゃない」


「なるほど。そういうことか!」

「うん。そりゃそうだ。筋も通ってる!」

「なら良し!!」


「よかった!」

「気を取り直して、ステータスは次にレッツゴーよ!」


「ここからは…と……」

「な、なにこれ???」


「な、なに?」

 ま、また、とんでもない内容ですか?

 僕はごくりと喉を鳴らす。


「すごいわよ! すでに4つもスキルを持ってるじゃない」

「まだ、3日目なのよ……どうして4つも……」


ビアンカの目が、空中の文字を追っていく。

その表情が、だんだん不思議そうなものに変わっていった。


「しかも、聞いたこともないスキルだわ……」


「え??」

「何? いいの??」

「僕、すごいやつ出た??」


「まずこの、スキル:『偽パニック』、『死にゆく者』ってどんなのなの?」


ズコッ……


あ、あれ、スキルなの????

スキル登録されてるの????

ほんとに???


「そ、それは、いいです」

「堅気の世界では関係ないものかと思われますので……」


「そうなの?」

「偽パニックはあれだけど、死にゆく者は、なんか怖そうよ」

「大丈夫なの?」


「いいんですいいんです」


「わかったわ」

「それよりこれよこれっ!!」


「これはすごいわよっ!! 多重スキル!!!」

「これってなに? スキルを2つ使えるの?」


「いや、その、それも今のところ変なスキルでしか使っていませんで、堅気の方にはあまり……」

「2つ使うっていうか、上乗せするっていうか……」

「しょうもなーーいものでございまして、実戦で通用するようなものではありませんので……」

「あの、できれば、これ以上の追及は弁護士を通していただけませんでしょうか……」


「しょうもないなんてとんでもないわよっ!」

「どんなスキルだって、2つ同時に? 重ねて? なんて使える人、聞いたことないわよ?」


「そうなの?」

「でも、弱いっていうか、舐めてるっていうか、あれスキルなの? っていうくらいのもんなんで」

「お願いします!!! 次にいって下さい!!!!!」


「そ、そうなの……」

「なんか必死ね……」


「ほんとにすごいことだと思うんだけどな……」

「今は聞かないことにするわ……」


ビアンカは怪訝そうにしながらも、引き下がってくれた。


「じゃ、この全集中は?」

「なにかすごい集中力で、すごいことしたりするんじゃないの??」


「たぶん、それです」

「ものすごく集中はするんですけど……」

「今のところ、集中して感じ取ってみただけで、そこから何かできるところまでは発展してないです……」


「そうなの?」

「でも、そうよね」

「スキルなんてそんなにすぐに身につくものじゃないもの」

「血のにじむような修行や、過酷な状況を乗り越えて、習得するものだからね」


「そうなんだ」

「すいません」


「なんで謝るのよ?」


確かに村長(戦神)やアンタ(バーサクビアンカ)との対面で、心の血は滲み、意識を失うほどの過酷な状況を乗り切ってきた。


全集中の時も、てふてふの世界に飛ぼうとする意識を左腕の感触だけで繋ぎ止めてみせた。

そう、恥じることは何もない。


それでも最後に、世のスキル獲得修行者たちへ、ひとことだけ言わせてください。


(申し訳ございません! これからは精進いたします!!!)



第28話 完


【ナオえもん 現在の「罪悪感」ステータス】

〇修行者への申し訳なさ:100

(正攻法で頑張っている人たちに、顔向けできない)

〇精進の決意:80

(そろそろちゃんとしたカッコいい技も欲しい)

〇ビアンカへの隠し事は墓場まで:90

(「すべて君に発動済みだよ」とは口が裂けても言えない)


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