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第27話 ビアンカの適性

お寺の境内には、昼下がりの光がゆっくり落ちていた。

さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、風に揺れる木の葉の音だけが聞こえる。


ドキメモ作戦の厳しい現実を突きつけられ、僕が内心ぐらぐらしていると、

ビアンカは、これから僕の「適性」を見つけるのだと言った。


「なに?」

「適性? スキル?」

「気になる気になる!」

「どういうこと!!」


僕はもう早く聞きたくて、ずいずい迫ってしまう。


「ちょ、ちょっと、近いわよ」

「別に、近いのが嫌なわけじゃないけど……急にグイって来るもんだから……」


「あ、ごめんごめん」

「で?」


ビアンカは、一瞬だけ目をぱちくりさせた。

僕の軽い返事が、少し意外だったらしい。


「あ、そうね」

「まずは適性ね」


「この世界にはいろんな適性があるのよ」

「戦士、武道家、隠密、盗賊、勇者、僧侶、魔術師、獣使い、学者……ほかにも、まだまだいっぱいあるわ」


「おおーーーーー!!!!」

「いいよ、いいよー! それ、それー!」

「ん? 盗賊って言った?」

「盗賊って適性なの?」

「それ、職業欄に書いていいやつなの?」


「……ま、いいや!!」

「それで、それで??」


「うん」

「しかも、それらはきっちり分かれているわけじゃなくて、グラデーションみたいに繋がっているの」

「だから例えば、同じ戦士の適性があっても、人によってまったく違う伸び方をするのよ」


「いいじゃん! いいじゃん!!」


「自分の適性を、ここのお寺で見つけ出すのよ」


「見つけ出す?」

「自分で?」


「そう。自分で」


「なんかこう、信託みたいなので決まったりしないの?」


「しない」

「だいたい十四、五歳くらいまでに、自分で見つけて、進む道を決める必要があるわ」

「人にもよるけどそれ以降だと、もうなかなか定まらないわね」


「あの、僕は今の自分がいくつなのかわからないけど、大丈夫なの?」

適性発見なんて、めちゃくちゃ楽しそうなイベントなのに、もう定まらないとかは困る!


「たぶん大丈夫よ。それに適性と違う職業を選んでも、完全にダメなわけじゃないし」

「ちょっと苦労が多いかな? みたいな感じかしら」


「ちょっと、ちょっと!!」


「たぶん、ナオは平気よ!」

「ずっとさぼってきたわけじゃなく、今が初めてなんだから!」

「平気、平気」


「そ、そう……?」

「ちなみに、単純に自分の適性を間違っちゃう人もいる?」


「んー、たまにはいるかも?」

「でも、めったにないと思うわよ?」

「ある時突然、ピーンって来るものだから」


「なるほどー!!」

「で、ビアンカの適性は?」

「どんなの? 教えてよ!!」


「わたし?」


ビアンカは、キラキラした目で覗き込む僕を見て、少しだけ困ったように笑った。


「あ、えーーと、そうね」

「わ、わたしはね……」

 

ビアンカは一瞬だけ、いたずらを思いついたような顔をした。それから、何かを決めたように小さく息を吐くと腕を絡めるようにして、僕をグイッと引き寄せた。


「うわっ」


あのーですね。胸がすこーーし当たっておりませんでしょうか??

いいの? ねえ、いいの?

当たっちゃっててもよいのですか?

僕はこのまま固まっていてもよくて?

僕は左腕に全集中してても怒られないの?

僕のこと、嫌いにならない?


【ナオえもん 現状心理】

左腕全集中度:120 

このまま固まっていたい度:100 

紳士として今すぐ距離を取る覚悟度:3


だめだ。

てふてふの世界に行ってしまいそうだっ。

僕が頭の中で大騒ぎしていると、ビアンカは僕の耳元に口を寄せた。


境内の鈴が、遠くでちりんと鳴った。

その音に紛れるくらいの小さな声で、ビアンカはそっと告げる。


「わたしは勇導師。ゆうどうし、って読むの」


「ゆ、勇導師???」

「なんかかっこいいね」


「絶対、人に言っちゃダメよ」


「人に言っちゃダメなの?」


「そうよ」

「自分の適性は絶対に人に言っちゃダメ」

「適性が知られると、相手に対策されやすくなるからよ」

「あの人は戦士っぽいけど、他にも何かあるのかも、って思わせておくことが大事なの」


「なるほどね」

「・・・」

「じゃ、なんでビアンカは僕に言ったのさ!!!」


「ふふっ」

「なんでかしらね」


「さて、まずは適性探しの第一歩!」

「和尚さんに挨拶に行きましょ!」


ビアンカは照れ隠しのようにくるりと背を向け、二、三歩だけ小さくスキップして、境内の奥へ歩いていった。


僕はしばらく、その背中を見ていた。


いったいどういうつもりなんだろう……。

ずるい。


【ナオえもん スキル「全集中」獲得】


***************************************************************************


僕とビアンカは、お寺の本堂の前まで歩いた。

自分の適性は人に教えちゃダメとのことだったので、僕は勇導師についてそれ以上聞かなかった。


本堂も、この村の規模に対して、かなり大きいものだった。

明らかに大きい。

この村で建てられる規模ではない。


まさか、ここにも引退した伝説の僧侶なんかがいるんじゃないだろうな……。

村に隠居している強者は、あの人だけでお腹いっぱいなんですけど。


【ナオえもんのお寺査定】

お寺の規模:本山級

戦神のトラウマ度:75

警戒度:100


 

「すいませーーん」

「和尚さーーーん」


奥から出てきたのは、袈裟を着た、少しロン毛気味のナイスミドルだった。

これ、和尚さん??

イケメンすぎね??


「どうしたんだい、ビアンカちゃん?」


「こんにちは」

「今日はね、こっちのナオえもんって子の適性の件でお邪魔させてもらいました」


「ほう、君がナオえもん君かい?」

「聞いているよ」

「つい先日、この村に来たっていう子だね?」

「記憶がないんだって?」


「そ、そうなんです」

「よくご存じで……」

うわさが早いな。


「自分の適性も忘れてしまっているのかい?」

「なにかちょっとでも感じないかな?」


「えっと、忘れたっていうか、知らないっていうか」

「ぐふっ」

横腹を突かれた。


「いたいぞ!」

「ん??」


「ち、違うのよ和尚さん」

「この子、ほんと覚えてなくて」


「……そ、そうなんです」


「思い出すにしてもすべて忘れてしまっていたら、やはり初めからになるだろうからなぁ」

「やはり、10年は覚悟せねばいかんぞ」


「じゅ、じゅうねん!!!!?」


「大丈夫よ! ナオは思い出すだけなんだから」

「いい? ナオ!!」

「1週間で思い出すのよ!」


「いや、だから僕は知らなっ グベッ」

「そ、そうだね。思い出すだけだもんね」

「アハハハ……」


「いや、まぁ、わしも記憶喪失の者の適性にかかわったことはないからわからないが、さすがに1週間は難しいんじゃないかい?」


「和尚さんが付いていれば大丈夫よ」

「そうはいってもなぁ」


「ではまず、本堂に来なさい」


僕たちは和尚さんについて、本堂へ入った。


中は外から見るよりも広く、ひんやりとしていた。

古い木の匂いと、わずかな線香の香りが混ざっている。

足を踏み入れると、床板が小さく鳴った。


本堂には、お釈迦様を中心にして、その左右に仁王像のような像が十体ずつ、手前へ向かって並んでいる。

どれも少しずつ姿が違っていた。


「やることは、この像の前で座禅を組み、心を無に。それだけだね」

「先入観があると、感覚を狂わすことにもなるかもしれんから、これ以上の説明はやめておこう」

「がんばりなさい」


和尚さんは去っていった。


さて、どうしよう。

パッと像を見た感じ、どうやらそれぞれ職業を表すかのような服装やら、所持品がある。

剣を抱えた像。

杖を持つ像。

巻物を広げた像。

獣の面を足元に置いた像。


どれも、動き出すんじゃないかと思うくらい迫力がある。


ということは、あれかな?

自分に合った職業のところで座禅を組んでいると、ピーンとくるのかな?


でも和尚さんは10年とか言ってたな。てことは、すぐにピーンと来ることはないのだろう。

何回も何回も繰り返し、ある時ピーンとくる感じかな?

正直めんどくさい。


「ねえ、みんなも10年くらいかけて、それぞれ適性を把握してるの?」


「そうね。だいたいの人は把握してるわね」

「学校の授業の一つみたいなものよ」

「週に1回くらい、像の前での座禅の時間があるの」

「でも、やっぱりそういうのに不向きな人もいるから、そういう人は、わからないままね」

「別にそれがわからないと生活に困るわけでもないからね」


ふーーん。

じゃあとりあえず始めていきますか。

まずは、左側の一番手前にある像からかな?

そんなにすぐにピーンと来るかなー。


「ふっふっふ」

「待った、待った」


「お忘れかしら?」

「なに?」

「わたしは勇導師!」

「ステータスが見れるのよ!」


「おおおーーーーっ!」

「と、いうことは?」


「ナオの、だいたいの向き不向きはわかると思うわよ」

「なるほど、なるほど!」

「だから1週間なんだね!」

「そういうことよ」


「さ、見てあげるから動かないでね!」


第27話 完




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