第21話 ドキメモ作戦とナオえもんの手乗りドラゴン
「わかった!」
「わかったよ!!」
一つだけいい?
「なぁに?」
「……」
あの、その甘いお返事、やめてくれませんか。
今、夜で、あなたの部屋で、二人っきりで、しかも結婚しかかってるんです。
「ほら、け、結婚するにしても順序がいるでしょ?」
「まずは、とりあえず恋愛って段階から始めないと、誰も納得しないでしょ」
「んんーーーー」
「それは確かにそうかもね」
んんーの言い方も、少し甘い。
「そうだよ。出発したいのはわかるけど、今まで育ててくれたみんなをそっちのけっていうのはよくないよ」
「飛ぶ鳥あとを濁さずってね! ちょっと違うかもしれないけど……」
「そうね。さすがね。その通りね」
「じゃあ、まず少し恋愛しちゃいますか♪」
ビアンカちゃんは、少しいたずらっぽくそう言った。
【ビアンカ スキル:純度100%少女・改(弱)】
既存の「純度100%少女」に、少し小悪魔要素が混入。
その悪魔的効果の前に、なすすべはない。
「恋愛しちゃいますかって……」
参った。
参りました。
僕はもう、この子に付いていくことを決めた。
「まずは、そうね。1週間以内に、あたしがあなたに気がある状態を周囲に気づかせるわ」
「感じとしては、あら? なんかビアンカって、ナオえもんのこと気になるの? くらいね」
「・・・」
「そのあとは、そうね。一ヵ月後には、ビアンカったらナオえもんにだけ、特別じゃない?ってとこかしら…」
「・・・」
「で、二か月後に、あなたもあたしのことが好きになって、あの二人、いい雰囲気ねってみんなが思い始める。
「・・・」
「で、結婚♪」
「はえーーよ!」
「そんなことないわよ。恋は盲目っていうでしょ」
「流行りのスピード婚よ」
「はいはい」
「3か月後の結婚は置いといて、全部ビアンカちゃんが積極的な感じだけど、それでいいの?」
「僕は全然、何もしてない感じだけど……」
「それでいいのよ」
「だって、あなたが私のこと好きな感じを出しちゃうと、お父さんなんか、うちの娘に手を出す気かーーー! ってなっちゃうわよ?」
「その通りですね……」
「うん、僕は自然に生活してるんで、進行よろしくお願いします」
「おまかせあれ!」
「あ、そうだ。作戦名はどうしようかしら?」
「作戦名?」
「そうよ。かわいいのがいいな」
「んーーー、そーねー……」
「『ドキドキメモリアル・約束の結婚へ』なんてどう?」
「それ、かわいいの?」
そんな恋愛ゲームがあったなー。
まあ、僕はたいしてこだわりもないし、何でもいいんだけど。
「うん、それでいこう」
「略してドキメモだね」
「よし、決定!」
「じゃあ、とりあえずドキメモは明日から始めるってことで、一旦下に戻りましょうか?」
「みんな心配してると思うし」
「あと、お腹も減っちゃった!」
「そうだね」
「そうしよう!」
2人で立ち上がる。
ビアンカちゃんがドアを開け、僕を先に出るように促した。
部屋を出て、階段までの廊下を歩いていると、ビアンカちゃんが僕の背中をぽんっと押した。
僕は振り向く。
「なに? どうしたの?」
「へへ、頼みますわよ!」
「なにが?」
「いろいろ」
「さ、行った行った」
そう言って、背中をぐいぐい押してくる。
背中から伝わるビアンカちゃんのやわらかい手の平の感触。
今、かなり、とってもいい雰囲気じゃないですか?
ドキメモ作戦には、もう入っているのだろうか。
リビングに入ると、みんなが待っていた。
ビアンカちゃんが、少し照れくさそうに言う。
「心配かけちゃってごめんね。仲直りできました」
「おおーー、そーか! 良かった良かった!」
モーサムさんが、心底ほっとしたように笑った。
「とりあえずは良かったわね」
ドーラさんも、柔らかく息をつく。
「これからじゃの」
バーラムさんだけ、少し含みのある言い方をした。
なんか、ちょっと引っかかる。
その後、遅めのご飯を取り、その日はそのまま平和に暮れていった。
結婚かぁ。
どういうつもりなんだろう。
結婚した夫婦が旅をするっていったら、部屋は一緒だよね。
いいの?
結婚っていうからには、それも込みですよね、普通。
まあ、魔王を倒すための手段よ、変なことはしないでね、ってやつだろうね。
きっと。
そんなことを考えているうちに、僕は眠ってしまった。
翌朝。
僕が起きてリビングに行くと、みんなはもう席についていた。
「今日はどうするの?」
ドーラさんが、朝食を並べながら聞いた。
「あ、私はナオえもんに村を案内して回ろうかしら」
「まだ、村長さんのところしか行ってないんでしょう?」
「僕? そうだね。まだ、この村のことはあんまり知らないな」
「助かるよ」
とりあえず、合わせておいた。
「グレイブたちは今日はいいの?」
「うん。今日はほら、謝罪も込めてナオえもんを案内することにするわ」
「そういうことなのね」
「そういうこと! ねっ♪」
ビアンカちゃんは、僕に軽くウィンクしながらそう言った。
これは、ドキメモ作戦の開始だな。
モーサムさんは仕事に出かけた。
続いて、僕たち二人も家を出る。
家を出ると、朝の村はもう動き出していた。
井戸のまわりでは、子どもたちが走り回っている。
「まずは広場からね。あそこが村の中心で、だいたい何かあるとみんな集まるの」
「へぇ。思ったより広いんだね」
「それから、あっちが鍛冶屋。武器の修理もできるわ」
「武器……僕、今のところ木の棒くらいしか縁がないけどね」
「そういえば」
ビアンカちゃんが、ぴたりと足を止めた。
「で、あなた、手乗りドラゴンはどこに隠してるの?」
「なに? 今なんて言ったの?」
「手乗りドラゴンよ」
「手乗りドラゴン???」
「う……うそでしょ?」
「あなた、手乗りドラゴンいないの???」
「だから、そのさっきから言ってる手乗りドラゴンってなんなんだい?」
「……」
ビアンカちゃんが、信じられないものを見るような目で僕を見た。
「あのね。この世界に来た私たちには、手に乗るサイズのドラゴンがいるのよ」
「持っているっていうか、飼っているっていうか……」
「そうなの?」
「僕にはそんなのいなかったよ……」
「あっ!!!!」
ビアンカちゃんが、何かに気づいたように目を見開いた。
「そういうこと?」
「だからあなた、全裸でいたの???」
「どーゆー意味?」
「最初の初期装備は、手乗りドラゴンが持っているのよ」
「しかも手乗りドラゴンは、通信っていうか、念話? をするときにも絶対必要なの」
「それがいないとなると……かなりキツいわね」
「そ、そんな……」
「他のみんなは服とか用意されてたわけ?」
「あーー、ひどいなぁ」
「おかげで僕は全裸で大変だったわけで……」
でも、そのおかげでビアンカちゃんに会えたっていうのもある。
そこはちょっと複雑だ。
「まあ、僕の一言でいろいろおかしくなっちゃったんだし、しょうがないか」
「で、あなたは、その……暗闇から出てきて、そのまま全裸で、うちの両親に話しかけたと……」
「まあ、そうだね」
「飛び出して、転がってた木の棒を拾って……」
「……」
「あっ!!!!」
「な、なに?」
「そういえば、木の陰から街道を覗いてたときに、お尻に何か噛みついてきたんだ!!」
「これくらいのサイズだった!!」
僕は両手で、手のひらに乗るくらいの大きさを示した。
「そ、そ、それ。。。」
「で、どうしたの?」
「びっくりして、持ってた棒を振り回したら、見事に当たって、飛んでいった」
「……」
「そ、それよ!!!!」
「絶対それよー!!!!!」
ビアンカちゃんが頭を抱えた。
「な、なんてことしちゃったのよ!!!」
「手乗りドラゴンは旅には必須よ!!!」
「あーー、かわいそうに!!!」
「いや、僕もお尻を噛まれてるんですけど……」
「探しに行くわよ」
「いまから?」
「今すぐよ!!」
「街道沿いね!いそぐわよ!!」
「ほら!」
「わったった、ちょ、押さないで!!」
「いいから急ぐわよ」
ビアンカちゃんに背中を押されながら、僕たちは小走りで村の外へ向かっていった。
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「あれ?」
「どうしたの?」
「あれ、ビアンカちゃんじゃない?」
「なにしてるんだろ?」
「ほんとだ。ビアンカちゃんだ」
「なんか急いでるみたいね」
「押されてる人は誰だろう?」
村人たちの視線が、じわじわとこちらに集まり始めていた。
ドキメモ作戦、開始初日。
予定:
「あら? なんかビアンカって、ナオえもんのこと気になるの?」
くらいの、ほんのりした噂で済むはずだった。
現実:
「ビアンカが見知らぬ男の背中を押して、朝から村の外へ連れ出している」
かなり強めの匂わせとなってしまった。
第21話 完
ナオえもんの現状査定リザルト
状態異常:魅了・極み(更新)
備考:小悪魔ウィンクにより脳内メモリがパンク。
ドキメモ作戦進捗:匂わせレベルMAX
備考:初日から村中を騒がせる「公開おっかけ」状態。
手乗りドラゴンへの罪悪感:80
備考:自分の初期パートナー候補を、木の棒でしばき飛ばした自覚あり。




