第13話 戦神の余生
僕は医務室で治療を受け、回復した後、モーサムさんと帰途についた。
「それにしてもすごかったな」
「え?」
「いや、村長さんの眼力だぁ。村長さんがおめぇの目をじっと見た時の、あの場全体の空気の変わりようったら、すげぇすげぇ。もう指先まで、ぴりっぴりして体が動きやしねえ。ありゃ、おめぇが倒れてもおかしくねぇよ」
「はぁ。まぁ、びっくりしました。僕はもう、村長さんが出てきた時点で度肝を抜かれてましたけどね」
「おらぁ、久しぶりにあれを感じられて、嬉しくてしょうがねぇんだ。あれが、我らの村長さんだぁ」
モーサムさんは、本当に嬉しそうに笑った。
それにしても『混じってはないようだな』ってのは何なのだろう。逆に混じってる人がいるのだろうか。全くわからないが、とりあえずは僕は混じってない方なので良しとしておこう。
今回は、本当に勉強になった。。普通に『怖がる』ってのは難しい。細心の注意が必要だ。気を抜くとうっかりタイミングを逃してしまう。
それにしても、あの村長。
この僕に奥義まで使わせるとはなっ。
たいした奴だ。
なーんてね。
そんな僕をよそに、モーサムさんは嬉しそうに話を続けた。
「村長さんはな、本当にすごい方なんだ。昔は飛騨の国の随一の猛将軍で、戦神とまで言われた人だぁ。近隣諸国も、村長さんがいる限り、ちょっかいなんぞ出してこねぇ」
やっぱりそうなんだ。普通じゃなかったですもん。僕は、あのお姿、声、全身から放たれていたオーラを思い出す。
怖くはない。
でも、思い出しただけで、背筋がぞわっとするような、絶対的な迫力があった。
そうですよね。アレですもんね。
どう見たって戦神してますよ、あの人……。
「引退した今だって、村長さんに敵う奴ぁ、いねぇ」
「なのにな、そんな人がある日、いきなり世代交代だ何だと言って、引退するって言い出したんだ」
「そうなんですか? どうしてまた?」
「わからねぇ。ただ、もう儂の時代じゃねぇってことらしい」
なるほど。さすがだな。
衰える前に引く。なかなかできる事じゃない。
「もちろん、殿様も大臣も、村長さんの部下も、みんな大反対だったはずだ。そりゃもう、止めに止めたはずさ。だが、あの人は聞かなかった。大揉めしたが、最後はみんなが折れざるを得ないくらい、村長さんの意思はかたかったのだろう。」
新しい殿様は、村長さんの今までのあまりに大きい功績に報いるため、最後に何か褒美を受け取ってほしいと言ったんだ。
そしたら、村長さんはこう言ったんだ。
「村が欲しい」と。
「儂のことを誰も知らない村。みんな儂のことを、ちょっとした金持ちくらいにしか思っておらん。そんな者たちと飲んだり騒いだりして、余生を暮らしたい。そして、ひっそりとこの世から去りたい」と。
「その願いを叶えたのが、このひるがの村だ。みんな、そんな村長さんが大好きなんだ」
モーサムさんは、どこか遠い目をしながら言った。その目はとても綺麗だった。
え? みんな? ……あれ?
この話、みんな知ってるの?
だったら何一つ叶ってねーじゃねーか!!!
みんな、随分詳しいとこまで情報共有してんじゃねーか!!!
何だったんだよ、今までの話。
遠い目しながら、「みんな、そんな村長さんが大好きなんだ」じゃねぇよ。
この村、みんなどうなってんの?
ちょっとした金持ちで、あの城なわけねーだろうが。
あれ作るの、すんげー金かかるぞ!!!
でも、これで一つ謎が解けた。
村を囲っているのは、本気を出せば壊せそうな木の柵。なのに村長さんの家だけは、堀に石垣、追手門に殺し間付き。
主要街道でもないし、何かの要所ってわけでもない。
ずっとおかしいと思ってたんだよ。
なるほど。
村長さんの趣味なのか。
村長さんも自分の老後の夢、叶える気ないじゃないか。
僕はもう何が何だかわからないが、おそらく美談に浸っているモーサムさんを放っておくわけにもいかず、無理やり会話をつなぐことにした。
「えーっと、あのお城は、その……。村長さんが指揮して作ったんですか?」
「とても素敵ですね」
(殺し間付きで)
「でもやっぱり戦神とまで言われた人が作ると、だいぶその、普通とは違っちゃうんですね……」
「あぁ、あれは今の殿様の、村長さんへのはなむけじゃよ。殿様も男じゃな。金に糸目はつけんかった。村長も、あれには泣いておったわい」
……と、殿様だったのか……。
あんなもん、はなむけられたらバレバレじゃねぇか。
村長も違う意味で泣いたんだろーよ!!!
まさか、村長だけがまともだったの?
……いや、それもないだろう……。
駄目だ。
完全におかしい。
頼むよ。まともなのはいねぇのかよ。
この国からは、一刻も早く出るのが正解かもしれない……。
〇ナオえもん物件査定報告書:ひるがの村
防御力
村の外郭:15(気休め程度)
村長の家(城):150(過剰防衛)
主な設備
村の外郭:木の柵(間隔はやや広め)
村長の家(城):堀、石垣、追手門、殺し間
戦略的意義
村の外郭:野犬よけ
村長の家(城):いざという時、戦神が籠城するための本丸
建築費
村の外郭:軽微。国の年間予算の予備費で対応可能
村長の家(城):甚大。国の財政が一部溶解。
維持費
村の外郭:住民の善意で維持可能。
村長の家(城):維持費予算の都合上、今後特別増税される可能性あり。
総評:村より村長が大事。
〇村長の家の関係者相関(ナオえもん調べ)
登場人物
・飛騨の国王
関係:贈与者
行動:隠居する将軍に「要塞をプレゼント」
診断:悲劇の起点人物。話を聞かないで進むタイプ。
・村長(戦神)
関係:受取人
行動:すべてを受け止めて号泣。
診断:その涙の理由によっては、唯一まともな可能性あり。要経過観察。
・モーサムさん
関係:語り部
行動:あらゆる矛盾を「美談」として笑顔で語る。
診断:いろいろ分かっているようで、結局なにもわかってない。
・衛兵たち
関係:現場
行動:村長を「ちょっとした金持ち」という体で警備。
診断:つじつま合わせに高度な柔軟性を要求される苦労人。
総評: 村長の夢がかなう日はおそらく来ない。
そんなことを考えながら歩いていると、ようやく家が見えてきた。
家の前ではバーラムさんと、ドーラさんが、道を箒で掃いていた。
普通だ。やっと普通の光景に戻れた。
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行ったか。
まったく。とんでもないことになったわい。 なんでわしが悪者扱いされなきゃならん。
まあ、それはよい。 奴がこの村に入った際の、門番からの報告書。
「入村した少年は、ひざ掛け一枚で運ばれてきたわりに、余裕があるというか、少し悲壮感が薄い気がする」
なかなか的を射ておったな。
へらへらしとるが、あやつも門番として一応仕事はしておるようじゃ。
さて。
ずいぶん前じゃが、若殿が気にしておられたこともある。
少し探るか……。
第13話 完




