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勘違い

スキル《応人の盾》のコマンドを押した途端、〈ace-joker〉の頭上から伸びた光の線が一直線に空を貫く。


榊さんたちのモニターには、相手部隊のさらに先に光の柱が立って見えたものだから、観客は息を飲む。


僕の目の前に迫った槍の部隊が、放置されたNPCの強さにうろたえている。


「カノンさん!こっちの援護頼めないか?」


慌てた男性が思わず声を上げた。


それはそうだ。熊をも倒すNPCがいるのだ。鉄の装備も持っていないただの二部隊が相手できるわけがない。


動けない僕はコントローラーを握る手を緩め、ただ、うろたえるお兄さんたちを眺めていた。


男の声を聞いて、榊さんが声を上げた。


「モブ君、直くんは右に。私とたまきさんは左に。挟みますよ」


サインを出さずに声で指示を出す。


今が勝負のつけどころと察知したのか、僕から見て右側に並ぶ四人は、モニターに貼り付くように前傾姿勢をとる。


四人は二手に分かれて田んぼの畔を走り出した。


その時、カノンさんはチナミちゃんの対応をしていた。


「チナミ!来るわよ。早く《挑発》を使いなさい」


チナミちゃんは、うわ言のようにつぶやく。


「えへ…フフフ。イケメンからプロポーズされちゃった」


夢でも見ているのか、その目はまったく焦点が合っていなかった。


カノンさんがゲーム雑誌を丸めてチナミちゃんの頭をはたく。ところが、はたくたびに、こっちまで教会の鐘が聞こえてきそうだった。


「ああっ、もう!」


チナミちゃん、はたかれても幸せそうだ。


あきらめたカノンさんは、コントローラーを握りしめて向かい側の四人に向き直す。


プレイヤーの部隊から離れたNPCは、自ら敵を追わず、攻撃範囲に入った敵だけに反応する。


動かない大楯NPC部隊の攻撃範囲の外側を回り込み、左右から挟撃する形だ。


「突撃だ~!!」


チャンスと思ったのか、直くんが声を上げて《突撃》を使ったが、これはカノンさんの連射の的になる。


少々勇み足だったと気づいた時には、直くんのNPCが二体倒れていた。


突撃は失敗に終わったが、その背後から米俵が突っ込んでくる。


次の《連射》に備えて、直くんの盾になるためだ。


直前まであんなに座席のことで争っていたはずなのに、ゲームのことになると即座にフォローする。


「モブさん、ありがとう!」


一本の矢が刺さった米俵へ、直くんは感謝の言葉を告げた。


榊さんと東野さんは、前衛に小盾を持った剣のNPCがいるからか、安定して距離を詰めていた。


「たまきさん、もっと詰めますよ」


こうなると、カノンさん側は攻撃手段が弓に絞られる。


弓が尽きると、〈アイテムの受け渡し〉の間、迎撃に隙が生まれる。


「そっちはいいから、こっちに戻ってらっしゃい!」


カノンさんがそう言った時、僕の目の前に残る敵は四体にまで減っていた。


「こいつら!半端ねぇよ!」


熊をも倒せるNPCを身をもって体験した二人はさっさとカノンさん側へと帰っていく。


ちょうどその時、スキルの効果が切れたのか、僕も動けるようになっていた。


カノンさんは四人のプレイヤーを相手に、弓だけで何とか均衡を保っていた。だが、十二本の矢が尽きるのに、それほど時間はかからなかった。


トモさんも回復をNPCに任せて榊さんの前に立っている。


前衛には向いていない巫女職だが、体力のパラメーターが高いのか、結構タフだ。


「カノン!悪いがちょっと手が回らねえんだ」


トモさんは、矢の受け渡しができないことを告げていた。


「チナミ、あなた、矢を持ってるでしょ!早く渡して」


最後の願いが届いたのか、届かなかったのか、


「はい、婚姻届」


と言って、手持ちの矢をカノンさんに渡している。


「全員、突撃!西野君も突っ込んできてください。皆、部隊も戻すように」


横一列に並んだ僕たちは、指示を出した榊さんを除いてきれいに頷く。そのまま、全プレイヤーとNPCが一斉にカノンさんへ向かっていった。


カノンさんたちは、《大海亀の甲羅》の背後で僕らの部隊に囲まれ、


「こんなはずじゃありませんわ!」


と叫んでいた。


決着がついたのは、この数分後だった。


モニターに初めて『WIN』の文字を見て、正直ホッとした。皆と笑顔を交わし、勝利を喜んだ。


ちょっとだけ、東野さんのメイド姿も見たかった…


正面ではカノンさんが俯いていたが、すぐに気持ちを切り替え、


「お客様!『残念会』にはなりましたが、ぜひ、三階までお越しください。今日は特別に割引いたしますわ」


と、後ろのギャラリーに微笑みかけた。


ギャラリーも手をたたき、口々に慰めの言葉をかけながら三階へと向かっていく。


……店長は締めの挨拶をしようにも、ぞろぞろと三階へ向かっていくお客さんを、ただ眺めるしかなかった。


「あ!あああ!見て、見てよ報酬!」


東野さんが画面を見つめ、驚きの声を上げた。


「勝利報酬…【巫女服】よ!」


カノンさん、トモさん、そして、さっきまで夢見心地だったチナミちゃんまで、東野さんのモニターを食い入るように見つめる。


三人は即座に、挨拶もろくにできなかった店長の元に歩み寄り、


「今日から私たちも、こちらのメンバーに加えさせていただきますわ」


と告げた。


トモさんとチナミちゃんも同意見のようだ。


……その後ろの男性二人は、完全に取り残されていた。


「俺は構わないが…皆は?」


店長が皆に意見を求めると、榊さんが真っ先に答えた。


「まったく問題ありません。層が厚くなるのは、むしろ喜ばしいことです」


チナミちゃんの目が輝いているのが分かる。


「そこのでっかい姉ちゃん、あんまり近寄んなよ。それだったらいい」


トモさんは手をわしゃわしゃと動かしている。あれは絶対、直くんに触るところを想像している。


モブさんは紙に【大歓迎!】と書いて見せている。


「ぼ、僕は仲間が増えて嬉しいです」


……小学生のような返答しかできなかった僕がいた。


東野さんだけは雰囲気が違った。


「何で?何でいきなり入りたいわけ?」


はっきりと理由を尋ねた。これまでの軋轢を考えれば、当然だろう。


「あら?目的はその【巫女服】よ。それ以外にあるかしら?」


さもそれが〈普通〉であるかのように告げるカノンさん。まったくブレがない。


「勝利報酬の装備品といったら通常、参加者の人数分――五着でしょ? 私たちは正統な【巫女服】が欲しいのよ。いけなくて?」


そうか……一着じゃないんだ。


「あなたたちが加わるメリットはあるの? 今は人数足りてるんだけど」


東野さん、ちょっとムキになっていないかい?


そう思っていると、カノンさんは平然と答えた。


「文化が上がるわよ。あなたの好きな【貫頭衣】も【勾玉の飾り】も作れましてよ」


東野さんはそこまで聞くと、大きく息を吐いた。


「分かった。でも、これだけは言っておくわ。上下紅白の【貫頭衣】だけは作らないわよ!」


「商談成立ね。後は店長と話しておくわ。今日は忙しいから…明日ね」


結果に満足したのか、メイドインヘヴンの三人は三階へ帰っていった。


「やったね!カノちゃん」


「今日はしっかり反省してもらうわよ!」


階段の先から、大きな声が届いてきた。


帰る時間を過ぎてしまった直くんは、慌てて帰っていく。


「今度一緒に遊ぼうな~」


「いやだ~」


という声も聞こえてきた。


僕も塾へ向かう時間が迫っていた。


帰ろうとすると、店長に呼び止められる。


「西野君の後ろにいた立ち見客、あれは業者だな。買い取りを持ちかけられるかもしれない。慌てて売るなよ。どうせなら高く売れ」


どうやら、業者に声をかけられるかもしれないと、僕のことを気にかけてくれていたらしい。


売るわけないんだよね。このソフトがあるからみんなが遊んでくれる。


そう思いながら皆さんに挨拶し、僕は塾へ向かった。



大合戦の模様は、予定どおり20時00分に行います(笑)

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