大繁盛
開店前から、店の前には階段下まで続く行列ができていた。
――AZITO開業以来、初めて見る光景だった。
開店前の作業にも熱が入る。こんなことなら髪もセットしてくればよかったと思う。
たまに自動ドアの外の行列を見ては、頬の緩みを抑えきれない。
……今日は忙しくなるぞ~。
それこそ踊るようにモップをかけるおじさんが、店内にいた。
「レジよし! 清掃よし! スマイル最高!」
最後の一言は盛りすぎだったかと思いながらも、店内を見渡して最終チェック。
いつもは自動ドアの前にブラインドを下ろして開店作業をするのだが、今日は嬉しくて、つい開けたままにしていた。
「お待たせしました~」
自動ドアのロックを外すとフロントの中に戻り、満面の笑顔でお客さんを迎える。
外で並んでいたお客さんのほとんどが、カウンターの前に押し寄せる。
――《全滅姫》っていつ来ますか?
――昨日の覚醒って、ここだったんですか?
――何でここだけ覚醒者が出るんですか?
――運営と繋がってるんじゃないですか?
……怒涛の質問ラッシュ。
記者会見ってこんな感じなんだろうか? 疑問には疑問で返したくなった。
だが、俺はここAZITOの店長。目の前の子供らとは違う、立派な大人である。
「……わ、わかりませ~ん」
……情けない返事になってしまった。
右の頬は困惑し、左の頬は愛想笑い。質問に返す言葉が、もはや分からなくなっていた。
質問の合間に電話が鳴る。目の前のお客さんにぺこぺこと頭を下げ、電話を取る。
「お待たせしました。AZITOです」
ギャラリーの目もあるので、ちょっと声は上ずったが、まずは合格点だろう。
名乗る習慣がないのは、いつも俺一人で店を回しているせいだ。
聞かれる内容は、目の前で浴びている質問と同じだった……。
「申し訳ありません。こちらでは分かりかねますので、お答えできません」
そう言って電話を切る。これが三十分の間に五、六回続いた。
質問攻めの合間には、『倭国争乱』のソフトを手にした会計待ちの列までできた。
ひどい人になると、手に何本もソフトを持っている。
席に着くお客さんはまばらだ。全部埋めてから話を聞けっての。
「ありがとうございました」
売り上げは嬉しい。だが、混乱の続く店内も捌かなければいけない。
開店一時間で、五十本以上あった『倭国争乱』のソフトが売り切れた。
「売り切れました」と書いた張り紙を、棚に二枚貼り付ける。
商品、仕入れないとな……。せっかくこうして来てくれるんだ。やっすいソフトを落として並べりゃいい。
一瞬だが、悪代官に小判を渡す商人の顔が出た。
ソフトが売り切れても、席料を払わず、カウンターの前に居座って質問を続ける野郎ども。
もう、そいつらをお客さんとは認定していなかった……。
「入席されるお客様はいらっしゃいませんか?」
あれだけ質問してきたくせに、こちらの問いかけには無反応。
店内を見回しては、スマホで写真を撮っている。
「お客様のプライバシーに関わりますので、店内での撮影は……」
そう言っているそばから、今度はこちらにスマホを向けて撮影を始めた。
「だから! ダメだって言っただろうが!!」
はらわたが煮えくり返った俺は、つい低い声で怒鳴ってしまう。
「撮影するやつは出ていけ!! お客様の邪魔するやつは叩き出すからな!!」
十分後、『AZITO』のスレに【悲報】が流れていた。




