いらぬ注目
『剣B 槍D 弓C 混乱 釣りC 農耕D』
ステータスを睨みながら、《混乱》について考えていた。
調べてみると、効果時間は三十秒。
プレイヤーが受ければ、コントローラーのボタン配置がランダムに変わる。NPCが受ければ、行動がおかしくなる。さらに、どちらもフレンドリーファイアが可能な状態になるらしい。
動画サイトで確認すると、混乱した二体のNPCが、目の前でサイドステップを繰り返したり、味方を攻撃したりしていた。
ひどい個体になると、《強撃》まで使って味方をぶん殴っている。
プレイヤーの知力と、部隊内の《混乱》持ちが増えるほど、成功率も上がるらしい。
もちろん、相手部隊長の知力が高ければ、成功率は下がる。
試しに、草原でウサギにかけてみた。
ものすごい勢いで岩にぶつかっては倒れ、起き上がってはこちらへ向かってくる。
「合戦で決めたいな」
僕は今、悪い顔をしている。
ピロン。
LINEの通知が鳴った。
……東野さん?
心臓がトクンと跳ねる。
『運営のHP見て』
たった七文字。
もっと書いてもいいんですよ。
ちょっとだけ、テンションが落ちる。
運営のHPを開くと、トップページの上段にテロップが流れていた。
『おめでとうございます! 本日、ワールド内にて、名を冠する御業【応人の盾】の覚醒者が誕生しました!』
左から右へ、大々的に流れている。
自分のスキルがこれほど大きく扱われている光景を前に、数秒だけ思考が止まった。
『今見た。なんか少し恥ずかしいね』
とだけ返す。
数秒後、返信が来る。
『すごいなんてもんじゃないわよ。壱与が降臨する覚醒イベントなんて、サービス開始から二年で、今回がたった七回目なのよ!!』
一体、数秒で何文字打てるんだろうと感心した。
ピロン。
今度はグループチャットに、榊さんから、
『掲示板を見てください』
と、URLが送られてきた。
URLを押すと、《応人の盾》のスレが立っている。
ただ、最新の書き込みはスレのタイトルそっちのけで、【全滅姫】の名前に埋め尽くされていた。
(AZITOってどこよ?)
(俺の嫁に来てくれんかな?)
(今まで寄ってきた男どもを全滅させたってこと?)
寄ってたかって、散々なことを書き込んでいる。
《十戦連続で全滅させられる》
これが、【般若】の覚醒条件。
一パーセント未満の適性を持つ者でない限り、覚醒できない。
ここに【全滅姫】の由来がある。
ゲーム内で、いまだ二人しか覚醒していない。そのうちの一人が、東野さんである。
スレを遡ってみると、東野さんがお客さんと笑っている写真がアップされていた。
そこから先は、ものすごい反響で埋め尽くされている。
――僕の【応人の盾】は、消えていた……。
『明日の学校、大丈夫かな?』
東野さんの、少し不安そうな気持ちが漏れている。
『東野さんはいつも女の子に囲まれてるから、大丈夫じゃないかな?』
少しはフォローになったのか、般若のスタンプが届いた。
相変わらず、表情が分からない。
続けて、みんなからそれぞれ『頑張って!』とスタンプが届く。
榊さんは可愛い女の子のスタンプを押してくるので、違和感だらけだけど。
答えは、翌日の学校にあった。
いつもより少し早めに、学校へ行った。
【応人の盾】のバフ、僕にも乗っているんだろうか?
次々と教室へ入ってくる野郎ども。
「東野さん、《全滅姫》って本当かな?」
「間違いないよ。AZITOで、お父さんの店をよく手伝ってるみたい」
「写真、保存しちゃった」
あ、写真を保存するの忘れてた……。
僕の【応人の盾】は、いまだに誰も聞いてくれない。
僕から話を振るわけにもいかない。
じれったいとは、こういう意味だったのか……。
女の子たちの賑やかな声が近づいてくる。
大本命の登場だ。
四方を女の子に囲まれ、いつもどおり教室へ入ってくる東野さん。
【全滅姫】という言葉が、所々から聞こえてくる。
いつにも増して、周りのテンションが高い。
注目度が違いすぎた。
東野さんと目が合う。
彼女の目は、「言っちゃダメよ」と言っているようだった。
HRの時間が近づき、それぞれの席に着く。
西向きの窓際の東野さん。
廊下側の僕。
西高東低。僕の心は、すっかり冬型だった。
このあたりから世界が少しずつ変わっていきます。
次の合戦までちょっと時間空くけど、AZITO周辺の変化をお楽しみください。




