ライバル認定
「直くん、ごめんね~!!」
合戦が終わった直後、東野さんが発した言葉だ。
画面には大きく「LOSE」と表示されているのに、誰も勝ち負けには触れていない。
「たまき姉ちゃん、『般若』って三十秒じゃなかったっけ?」
直くんが、不思議そうな顔で答えを待っている。
集中から解放され、疲労困憊なのだろう。東野さんは一息ついた後、ゆっくりと口を開いた。
「実は……」
「やめとけ」
店長が止めに入る。
「皆にはLINEで伝える。西野君もグルチャに入ってくれるか?」
え……グルチャって、東野さんも入ってるよね……?
「いいですよ」
動揺しているが、絶対に顔には出さない。僕は表情を見られないよう、机に向かったまま返事をした。
今、僕の中では花火大会の真っ最中だ。
ちょうどその時、自動ドアが開いた。
「ごめんください」
メイドの巫女さんたちが入ってきた。
メイドの巫女さんって、どんな巫女さんだよ……。
「今日はとてもよい日ですわ! なにせ、壱与様のお姿を拝見できたのですから」
「どうせ土下座して、まともに拝んでないんだろうが」
店長が、すかさずツッコむ。
「伏してお言葉を頂戴しただけよ。土下座じゃございませんの」
僕も頭の中で猛烈にツッコんだが、絶対に口には出さない。
カノンと呼ばれる女性は少し不機嫌になったものの、すぐに機嫌を直した。
「それと……あなた」
東野さんを真っすぐに見つめる。
「あれは何だったの? 『般若』は公式にも詳細が書かれているけれど、持続時間は三十秒じゃなくって? 効果範囲も、やたらと広がっていたような……」
「お答えできません」
東野さんは座ったまま姿勢を正し、カノンさんを見つめ返した。
そして、今度はこちらから問いかける。
「まさか、矢が尽きて困っていたんですか? 最後の……トモさんの動き……」
トモさんと呼ばれた大柄な女性が、身を乗り出した。
「あれは――」
カノンさんが、トモさんの顔の前へ手のひらをバッと差し出す。
言うな。
そう伝えているらしい。
「チナミさんが前に出たのは、なぜですか?」
言ってはいけないのだと察したのか、チナミさんはカノンさんの腰元をギュッと握り、その後ろへ隠れた。
「どちらもブラフと言ったら、信じる?」
カノンさんが妖艶に笑う。
「ありえない、と言いたいところね」
「ところで、そちらも札が尽きていたんじゃなくって?」
一瞬、東野さんの表情が硬くなったように見えた。
だが、こちらもすぐに笑顔を作る。
「まだ持ってましたよ!」
大噓をかましている。
その直後、東野さんは表情を改めた。
「カノンさんの部隊だけ、前線に立っていたのはなぜですか?」
これだけは聞きたい。
そう言わんばかりに、真っすぐ問いかけている。
「あなたと同じよ。そこに立って、引けない理由があったの。分かるでしょ?」
カノンさんも、真っすぐに返した。
「それから……あなたたち」
今度はAZITOのメンバーを見回す。
「なぜ、私の矢はあなたたちに当たらないの?」
「お姉ちゃん、弓Aでしょ? 射撃が正確すぎるんだよ」
直くんが椅子の上に立ち、腕を組んで決め顔を作った。
「おい! ランドセル!」
後ろのモニターの上には、「バカ」と書かれた紙が掲げられている。
何か分からないけど、何かやっちゃった?
僕にはさっぱり分からなかった。
カノンさんは数秒間、顎に指を当てて考えていたが、突然顔を上げた。
「ありがとう、直くん。今度こそ、皆さんを射抜いてみせますわ」
満面の笑みで答えている。
「私からも、お知らせがありま~す!」
カノンさんの後ろに隠れていたチナミちゃんが、突然前へ飛び出し、両手を上げて語り始めた。
「今回の~、合戦勝利報酬は~……『大海亀の甲羅』でした~!! 私の盾、も~っと強くなったよ」
大海亀の甲羅……何だか、とても堅そうだ。
「チナミ! 黙っておいてって言ったでしょ!」
お叱りを受けてはいるが、
「だ~って~。うれしかったんだもん」
ほっぺを膨らまされては、もう怒れないな。
「カノン、お客様が自動ドアに張り付いてる。待たせすぎだな……」
店長の言葉に視線を向けると、お兄さんやおじさんたちが、自動ドアの外から食い入るように店内を覗いていた。
「あら。では、もう一つ」
カノンさんは東野さんへ向き直る。
「たまきさん。『リベンジ』の際は、受けて立つわよ」
一度言葉を切り、楽しそうに首を傾げた。
「今度は、そうねぇ……。負けたら、たまきさんがメイド服を着て、私たちと一緒にチェキを撮ってくれるなら考えるわ」
続いて、今度は店長へ向き直った。
「今日が土曜日ですから、次の合戦は来週の日曜日ですわね。席を予約いたしますわ」
「は?」
「どうせ、あなたなら貸し切りにするのでしょう?」
そのまま自動ドアの向こうにいる人たちへ、声を張り上げる。
「皆さんも、今のうちに席を押さえておいた方がよろしくってよ! 合戦について語りたい方には、三階で私がお話しして差し上げますわ。割引料金で!」
「何の話だ?」
店長も、何が何だか分からないという顔をしている。
そもそも今回だって、めったに当たらないはずの合戦だったよね?
もう再戦の話?
AZITOのメンバー一同、きょとんとしたままだ。
カノンさんは満足そうに頭を下げると、ゾンビ達の待つ自動ドアの向こうへ帰っていった。
ホントにやりたいゲームになるまであと最低でも30話かかります(笑)
まさかこんなに書くはめになるとは思ってなかったと言っておく…




