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誘導

「西野君とたまきは、丘の上から相手の動きを教えてくれ。特にカノン! あいつの視線を教えてくれよ」


熊と、店長&直くんの部隊が橋を越え、相手を両側から挟む形だ。


特に熊ことモブ君は、余裕すら感じる歩き方でいかにも誘っている。


弓の射程を見たいのか、矢が飛んでくるまで近づいていく。


「カノンさんはモブさんを見てますよ」


伝えると、熊がぴょんと跳ねた。足元に矢が刺さっている。


西の槍部隊が動こうとするも、すぐに定位置へ戻る。


「あの人の指示ね。挑発も言葉で抑え込んでるわ」


たった一匹の熊。追いかければいいのにと考えた。


一部隊でも追いかけてきたなら、東野さんと僕が駆けつければ、ちょっとは損害を出せるかも。


モブさんのNPCもここにいる。


なかなか挑発に乗らないからか、熊は何かを拾っては槍部隊に投げる。


「石でも投げてるんですか?」


そう聞くと、後ろのモニターの上に『投石術』と書かれた紙が出た。


そんな術があってたまるかと思っていると、投げた石が定位置を守る槍部隊に当たる。


当たるたびに熊がぴょんと跳ねる。


「あれはたまらんな」


店長、笑いをこらえるのに精いっぱいだ。


「どれ、こっちも遊んでやるか。ランドセル、部隊を外せ。NPCは避けるのが下手だからな」


「分かった。連射を避けるの、久しぶり。かなりのレアだよね」


直くん、縄跳びでもするかのような緊張感のなさ。


二人で矢を避けては、落ちた矢を拾いにいく。


「店長、今週は矢を作らなくていいかもね」


矢は数本飛んできたが、当たらないと分かったのか、それきり飛んでこなくなった。


「リキャストまで、あと何秒だ?」


店長が聞いてくる。僕が返事をする前に、


「あと百五十よ」


東野さんが伝える。さすがに実戦経験の差を見せつけられた感じだ。


「モブ、百を切ったら部隊を戻せ。六十を切ったら敵の正面に回れ。西野君はモブの部隊についていって、橋を越えたらたまきを目指せ」


「たまきは百を切ったら東の橋を渡って敵の正面へ。矢の当たらない位置まで移動しろ」


「ランドセル、俺らも六十を切ったら正面に回る。部隊も戻ってくるようにしろよ」


それぞれに指示を出す。


モブさん、かなりギリギリまで近づいて石を投げつける。


三度目の投石で、西の槍部隊がついに走ってきた。


相当怒ってる。うん。僕ならもっと早くお仕置きにいく。


熊は五人の槍部隊を相手に、走って逃げる。おそらく距離を調整しながら逃げている。


店長と直くんも、二人だけで東の槍部隊に近づいている。左右に散り、カノンに狙いを定めさせないようステップを踏みながら。


大楯を構えたチナミちゃんも動き出したが、すぐに正面へ戻った。


熊の着ぐるみを除けば、左右でかなりギリギリの戦いをしている。


カノンのNPCが反応して矢を放つも、店長と直くんにはNPCの矢程度ならほとんど当たらない。


結局、東の槍部隊も迎撃に出てくる形となった。


「ごめん、店長。一本もらった」


どうやら直くんは被弾したようだ。それでも、緊張感が途切れた感じはしない。


「百切ったわ。西野君、モブさんのNPCについていって」


慎重な声で僕に指示を出したあと、東野さんは反対方向へ離れていく。


「橋を渡ったら合流ですね」


僕もそれらしく確認して、動き出したモブさんのNPCについていく。


「ランドセルは正面に回れ。ちょっと早いが、NPCも戻しておけよ」


「分かった」


直くんはちょっと残念そうに正面へ回る。カノンさんから連射が飛ぶが、そこはしっかり避けている。


被弾した直くんを槍部隊が追う。指揮官を倒せばNPCもただの人形になるので、チャンスと考えたのだろう。


その結果、直くんが戻した部隊が槍部隊の背後を取る形となった。


一瞬の隙をついた店長が、空いた東側からカノンを狙う。


即座にチナミがカノンの前へ立ち、『挑発』を使った。


ランドセルの部隊から二体が、チナミの大楯部隊に引き寄せられる。カノンがすかさず二体を仕留めた。


「やりやがる……今じゃねぇ」


店長も部隊を戻し、直くんを追って中央へ向かった。


僕は何故NPCについていくのかも、何故相手の正面へ向かっているのかも分からないまま、西の橋を目指す。


橋を渡る頃には、カウントダウンの数字が六十を切っていた。


「六十切りました! もう少しで合流できそうです」


今度は自分から皆に伝える。


「盾はしっかり構えておけ! 西野君、お前が切り札だ」


店長はコントローラーをせわしなく操作しながら、僕に伝えてくる。


「よーし! ランドセル、モブ、中央で派手にやるぞ。できる限り槍兵を倒せ。死んでも倒せ!」


画面中央では、店長たちが大楯部隊の正面で槍部隊と交戦を始めていた。


モブさんは武器も持っていないのに、攻撃を躱しながら味方NPCの援護で凌いでいる。


敵の正面だけあって、カノンの援護射撃の的になっている。これは失敗じゃないのか?


だが、カノンの部隊もせいぜい五人。あれだけ撃てば、矢が尽きるのも早い。


矢が尽きれば、中列の巫女から受け取らなければならない。そのわずかな時間が隙になる。


まず、店長の部隊が東の槍隊を壊滅させた。だが、そのまま弓の餌食になる。


「俺はここまでだ。ランドセル! モブの援護をしろ」


「もう援護してるよ。突撃、使いにくくて困る~」


困ると言いながら、結構楽しそうだ。


「西野君のスキルの範囲が分からない。たまきは、なるべく西野君に張りつけ!」


モブさんは善戦するも、槍兵に囲まれて倒れる。


背後から直くんが槍部隊の指揮官を貫く。だが倒しきれず、そのまま乱戦となった。


リキャストまで、あと十秒。


こちらで残っているのは、直くんと、そのNPCが二体。東野さんの部隊は五人揃っているが、僕は相変わらず一人だけだ。


「たまき、西野君のコントローラーを持て! ランドセルが一人倒したらスキルを発動。そのまま、お得意の『般若』を使え!」


「お姉ちゃん、倒したよ!」


「西野君、借ります!」


再び、僕の身体から空へ向かって、一直線に光が伸びた。

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