付け焼刃
「西野君に紹介しよう」
店長がカウンター越しに話しかける。
「あそこのちっこいのが『ランドセル』。みんなは『直くん』って呼んでる」
直くんがペコリと頭を下げ、座ったまま椅子をカチャカチャ揺らす。
「見えないか……奥のモニターの後ろ、あそこにモブがいる。名前は――消された。モブだ」
店長が指さしたモニターの後ろから紙が出てきた。紙には『モブです、よろしく』とネームペンで書かれている。
変わった人だ。だけど、米俵の人ということは覚えている。ゲームでは目立つのに、本人は影も見せない。
「兄ちゃん、どんな部隊組んでるの?」
『ランドセル』こと直くんが聞いてきたが、意味が分からない。
「西野です。よろしくね。ところで、部隊ってなに?」
戦うゲームなので、部隊という言葉の意味は分かる。そう思っていると、直くんは僕に興味がなくなったのか、ゲーム画面へ視線を戻した。
「西野君は今回、NPCなしで挑む。みんな、初めはそうだったんだ。参加することに意義がある! ってな」
店長が咄嗟にフォローを入れてくれたが、何となく歯切れが悪い。
「西野君、レベルは上がった?」
東野さんが聞いてきた。どうせバレるんだから、今のうちに言っておこう。
「八に上がったよ。みんなのレベルって、いくつぐらい?」
質問に質問で返してはぐらかす。東野さんは顎に指を当てて、何やら考えている。
「う~ん。部隊兵は全員八十を超えてるかな? プレイキャラは八十七。レベルはあまり考えなくてもいいかもね」
――考えられないぐらい離れてた。
「結局、力や速さ、技量なんかの『基礎値』に補正がつくだけだし」
――そういえば、ステータス画面に力や速さなんて項目は見当たらなかった。
「『基礎値』が高いとかなり違いが出るけど、今のところ分かるのはスキルのランクだけだからね」
――分からないけど、大きな差はないかもしれない。
「でも、やっぱりレベルを上げた方が断然有利だよ」
それはそうだ。ない方がおかしい。
「店長、『基礎値』ってどこにありますか?」
たまたま目が合った店長に聞いてみる。
「それが分からないから面白いんじゃねぇか。これから分かる! 今日は楽しめ」
店長に聞いても分からないことが分かった。
ふと、奥のモニターの上に、またも紙が出ていることに気づく。
『カノンさん対策、矢を避ける練習をしましょう』
僕の視線を追った店長の顔がほころぶ。
「それだ。ランドセル、西野君に避け方を教えてやってくれ。モブ、隣でお手本頼む」
「特訓だね。兄ちゃん、本気で当てるから覚悟してね」
モニターの後ろから、親指を立てた腕が伸びた。
「邑の中で特訓すれば、当たってもノックバックだけで済むから、ゲームを起動したまま待っててね」
僕の目が泳いでいるのが分かったらしい。横から東野さんが、
「ダメージはないってことよ」
と、こっそり教えてくれた。
そういえば今、隣同士なんだよな……学校では教室の端同士なんだけど。
いかんいかん。もう時間も少ない。せっかく教えてくれる時間を無駄にはできない。
僕はディスクを挿入し、ゲームを起動した。
邑に入ると、先週、先生役をしてくれた『tamaki_0815』が寄ってきた。隣で東野さんが、
「来たよ」
と、軽く微笑んでくれる。
後ろから何かがぶつかってきた。画面を回しても誰もいない……いや、米俵『mobu-kun』がいた。
米俵は目の前で、ウォーミングアップでもしているのか、垂直にぴょんぴょん跳ねている。
奥のモニターの上から手が振られている。どうやら準備ができたようだ。
「準備できたら、こっち向いて~」
直くんがやたらとノリノリだ。東野さんのキャラと米俵が向いた方を見る。
遠くにいるキャラクターの頭上には、『ランドセル』とカタカナで表示されている。分かりやすいネーミングだ。
「撃つよ~。モブさん、狙わせてもらいます! 兄ちゃんは僕の動きを見ててね」
言った途端に、モブさんめがけて矢を放つ。意表を突いたつもりなんだろうけど、モブさんはサイドステップでひょいひょい躱す。
「いっつもいっつも……当たんないんだよな。十二本撃ちきって、一本も当たんないよ」
直くん、結構悔しそうだ。不意を突いても駄目だったもんな。
「兄ちゃん、今度は兄ちゃんを撃つよ」
さすがに慌てた。
「待って、待って……」
言い終わる前に画面が揺れたかと思うと、肩に矢が刺さっていた。
「どこを……」
ブスッ。
「見れば……」
ブスブスッ。
結局、身体に十二本の矢が刺さったまま、話を聞くことになった。
奥のモニターの上に、『一瞬動きが止まるから、よく見て』と書かれた紙が出ている。
直くんは近くの倉庫へ矢を取りに行っている。モブさんは躱した矢を拾いに行っている。
そして東野さんは、僕の身体から矢を一本ずつ抜いている。ダメージはないはずなのに、心が痛む。
「もう一回いくからね。ちゃんと見てね。モブさん、たまき姉ちゃんは、こっちに矢を持ってきて」
戦国時代の三段撃ちも、こんな感じだったのかと感心してしまった。
二十分間練習した成果は――
「西野君、とりあえず剣と盾、持っておこうか」
という、東野さんの慰めの言葉だった。




