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初めての戦果

今何時だっけ? ……十一時三十分?


太陽って、こんなにも高い位置にあったっけ?


やっば、もう時間がない。


昨夜、あれからすぐにゲームの電源を入れ、僕はイノシシ狩りを始めた。


「斧を使うと効率がいい」って、東野さんが言ってたよね。


さっそく邑の倉庫で弓と斧を入れ替え、矢を12本すべて納めて出発した。


草原に入ると、目の前の大きな岩を目指す。あとはイノシシを見つけるだけ。


岩の外周をぐるぐる回っていると、さっそくいた! イノシシだ。


まずは……ブンッ。


斧が盛大に振り下ろされる。


そうだ。今は斧を装備中だった。


問題が発覚する。


どうやって引き寄せるの?


考えた挙句、動画サイトを見ることを思いつく。


すると、小石を投げて突進を避け、気絶中に叩く。そんな動画を見つけた。


小石は邑の倉庫に千個以上預けられていた。まずはお借りしよう。拾って返せばいいだけだ。


小石を十二個、持ち物の中に入れる。携帯で動画を流し、その横で実践していく。


数日後、友達に「普通じゃん? それ」と言われるまで、天才的なひらめきだと信じていた。


三、四匹狩っては、増えた持ち物で動きが遅くなるので、邑の倉庫に肉と皮を納品する。


たまに小石も補充する。


「俺って天才」というモチベーションも加わって、気がつけば午前十一時半になっていた。


女の子との初めての約束。しかも相手は東野たまきさん。


今日が学校なら、朝から顔は浮かれて変形していたかもしれない。土曜日でよかった。


シャワーを浴びて、いつもは使わない整髪料をつけて、歯を磨く。


無地のシャツに短パン。


うん、これなら気合が入っているようには見えないだろう。


結局、準備が整ったのは二時間後の十三時三十分だった。


少し急いで、AZITOの入ったテナントビルにたどり着く。


先週は、この階段を上るのに時間がかかったよな。


今日は上るに足る理由があって、足取りも軽い。


東野さん、いるかな……。


期待を込めて見上げると、AZITOの入口、踊り場には、正月の初詣くらいでしか見かけない巫女さんが仁王立ちで待っていた。


僕が階段を上っていてもお構いなし。仁王立ちは続いている。


小顔で、さっぱりとしたショートヘアなので思ったより圧は低いけど、それでもずっと僕を見ている。


僕は自分を指差し、首を傾げてみせた。


「あんたじゃないよ。そこ退いてくんない?」


威圧感は増した。直後――


「直くーん。今日は合戦だね。ほら、お菓子あるよ。ギュッとしてあげるから、こっちにおいで」


気づかなかったが、僕の陰に隠れていた男の子が一人。


巨影の巫女と男の子の間に、僕がいる構図だ。


小袋に入ったチョコやラムネなどを指の間に挟み、カニ歩きの姿勢をとって、大きな身体をさらに大きく見せる。


それはもう満面の笑顔で誘っているが、僕でもちょっと引いた。


「こっちくんな。お菓子はこの兄ちゃんに持たせろ!」


「照れんなよ。さ、ギューってしてやるからさ」


後ろの男の子が僕の脇から手だけを伸ばし、しきりに手招きしている。


こっちに寄こせと伝えたいのだろう。


どっちが優位なんだか、もう分からなくなった。


僕は両手を上げればいいのか?


目の前の巫女が右手を差し出す。すると、僕の左脇からも手招きが始まった。


どちらかと言えば、きれいな人だと思う。


事情を知らなければ、そんなお姉さんが僕に笑いかけてくれていると、誰もが錯覚するだろう。


まず、巫女さんの指の間からラムネがなくなった。


「あ~」


そう言っている間に、チョコもなくなる。


そして、ドングリをもらったリスのように僕を回り込み、AZITOという巣穴へ逃げ込んだ。


目の前の巫女さんは、悔しがるどころか笑っている。


「あ~、かわいいな。ちくしょう! いつか嫁にしてぇ!」


そう言い残して、三階へと上がっていった。


――


静かになった入口前で、自動ドアが開く。


目の前には東野パパ――店長がいた。


「おぉ! 西野君だっけ? たまきに頼まれたからって、いったい何体イノシシを狩ったんだ?」


店長のテンションが、先週よりも高い。


「分かりません。気づいたら昼前でした」


正直に答えた。


レベルは八。まだ一桁だ。とても胸を張れる数字じゃない。


「食料の充足率が一日で八十から百パーセントになったんだ。間違いなく西野君の戦果だ!」


何がそんなにすごいのか正直よく分からないが、褒められてうれしくないわけじゃない。


「みんな聞け! 西野君のおかげで、今回は体力のペナルティはなしだ。よかったな!」


店長はカウンターへ戻ると、店内に向かって吠えた。


みんなの視線が集まる。


その直後、背中をポンと叩かれた。


「やったね。ありがとうね」


東野さんが近距離から、笑顔という大砲を僕に撃ち込んできた。


当たらないわけがない。


徹夜と単純作業が重なった身体に、これはよく効いた。


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