三階の巫女(メイド)達
「おい、代われ」
パパからの突然の交代宣言……本当は、同級生の男の子と電話したことないよ~と言いたかった。
グッと突き出された携帯。その向こうには西野君。
ゆっくり息を吸って、携帯を受け取った。
「ひ、東野……東野たまきです!」
息を吸うタイミングが悪かったのか、少し声が上ずってしまった。恥ずかしい。
何とか言葉を繋げないと。
「あ、明日の予定は何かありますか?」
出た言葉がこれ? まるで私が西野君を誘ってるみたいじゃない……。
焦りと、初めて同級生の男の子と電話している緊張で、鼓動が速くなっていく。
「何かあったんですか? 僕でよければ、手伝いますよ。この前のお礼に」
西野君って意外と逞しい?
結構、いいえ、かなり心強かった。
「え……? 本当に? じゃあ、明日の十四時に、お店に来てくれる?」
「ちょうど空いてるから、お店に行けますよ」
即答だった。このまま、えいっ! って頼めばいいのかな?
回りくどい言い方をすると、本当に誘ってるみたい。正確に伝えなきゃ。
「明日、合戦に出てほしいの」
藁にもすがる思いでお願いする。お願い!
返ってきた西野君の言葉は……。
「合戦に出るのはいいんだけど、まだレベル三だよ?」
……。
ストンと何かが落ちる気がした。心拍数も戻ったみたい。
一応確認する。
「さん?」
「うん、三」
一本の細いワラをつかんだ気がした。同時に、時間がないことも思い知った。
「今からイノシシ狩り、全力で頑張って! 斧を持っていったほうが早いわよ。じゃあ、明日十四時ね」
気がついたら電話を切って、パパに報告していた。
「パパ、明日、西野君が来てくれるって」
「おう、よかったじゃねぇか。何だ? ますます元気なくして」
メンバーさえ揃えば、何とか接戦に持ち込めると考えていた。
だけど、榊さんが抜けて、代わりに加わるのはレベル三の西野君。
現実逃避するように、斥候の続きを始めた。
余計なことを考えなければ、斥候作業も進むものね。
なんて考えているうちに、時刻は十九時三十分。
家まで歩いて二十分。そろそろ仕度しないと。
「パパ~。今日から当分は、八時までには店を出たいからよろしくね」
「おう、お母さんにはよろしく言っておいてくれ」
パパは何かを察したのか、聞き分けがいい。いつもは無頓着なのに、たまに気が利くんだよね。
PCを閉じて、制服に汗のにおいがついていないか確認する。
うん! 大丈夫……だと思う。
制服に着替えて片づけを済ませると、もう十九時五十分を回っていた。
入口の自動ドアの前で、お客さんにお辞儀をする。何人かが手を振ってくれたので、笑顔で返した。
そのとき、後ろで自動ドアが開いた。
邪魔にならないよう脇へどこうとしたんだけど、後ろから腰に腕を回され、がっちりホールドされた。
腰の前に回された両手は小さい。小さい手のわりに、背中に当たる肉圧がすごい。
「チナミちゃん、もう! どうしたの?」
チナミちゃんは、三階のメイドインヘヴンの人気者。
少しウェーブのかかった茶髪は肩口まで。小さくて、可愛い。だけど、胸だけは立派。
……女の子なんて言ったら失礼かな? 大学四年生らしいし。
とにかく、いつもにっこにこで、元気をくれるお姉さん。
「たまきちゃ~ん。ごめんよう。カノちゃんがまた、悪いことしたんだよね?」
謝り方も可愛い。ちょっと気持ちが和らぐ感じがした。
腰に回された両手をゆっくりほどいて、振り返る。
身長が百五十センチないので、自然と上目遣いで見つめてくる。つい、私のほうがお姉さん気分になってしまう。
「大丈夫ですよ。慣れてますから」
そのままギュッと抱きしめていると……。
「カノちゃんは悪い子じゃないよ。いっつも私たちの面倒見てくれるし、この前は就活の模擬面接までやってくれたんだよぅ。怖かったけど……」
そんな一面もあったんだ。意外。
「おう! 今から帰りかい?」
声のほうを見る。
階段の一段下に立っているはずなのに、目線の高さは私と変わらない。もう一人のメイド、トモさんが立っていた。
「今日から、ちょっと早く帰ろうかなって」
そう答えると、トモさんは大きくうなずいた。
「たまきちゃんは可愛いから、早めに帰ったほうがいいよ。変な男がいたら、あたしがぶっ飛ばしてあげるから。いつでも言ってきな」
もともとバレーボールの選手だっただけあって、体格がいい。姿勢もいい。
小顔で、ショートカットがよく似合う。女の子にモテると評判なのも聞いている。
ただ、メイド姿に肘や脛のサポーターはどうかと思うけど、誰も言わない。
「明日は対戦だね」
私から話を振る。格上相手だし、不安しかない状況だけど。
「手~は抜かないよぅ?」
なぜか疑問形で、チナミちゃんが答えた。
「どーんとこい! あたしがカノンもチナミも守るから」
トモさんのノリを見ていると、知り合い同士で対戦っていうのも、楽しいかもしれないと思えてきた。
ただ、「あの人」だけには負けたくない気もする。
「あっ……もう八時。帰らないと! ごめんね」
「じゃあね~」
「またな」
二人に見送られながら、急いで帰路についた。
二人の場面重ねてみました。いかがだったでしょうか?




