待ちわびたきっかけ
六月に入り、季節は夏に差しかかる。そろそろ冷房がないと、部屋でゲームをするのもきつくなってきた。
電気代が上がって怪しまれないよう、なるべく除湿を使ってゲームをしている。
以前、電気代が上がったことを理由に、つけっぱなしはダメだと言われたのを思い出す。
電気代がいくらかかるかは知らないけど、ゲームをやっている僕を見て親がどう思うかは知っている。
いずれバレるだろうが、できる限り先の話にしたい。
東野さんに『倭国争乱』での生活レクチャーを受けて一週間。
ゆうに十回は倒れたが、今ではイノシシも倒せるし、採集活動も順調だ。
だけど、どこか単調なんだよな。ゲームなんだから、大きな怪物とか倒したりするんじゃないの?
熊からは逃げろと言われていたけど、一度だけ挑んで、往復ビンタで倒された。目の前に立った熊の異様なデカさにはびっくりした。
合戦みたいな戦いにも興味はあるけど、足手まといになって好感度を下げるのは避けたい。
レベルアップするには動物を倒さないといけない。合戦で戦っても強くなれるのかな?
マンネリと質問が溜まっている。ここは先生にぶつけないとな。うん。
メールって、どう書き出せばいいんだろうか。
ここで大きな壁にぶつかった。書き方を知らない。
ショートメールっぽい書き方だと、軽いと思われないかな。
もしくは、お客さんとしてAZITOに行く。
学校の外の東野たまきは話しやすい。それこそ、何でも聞いて! って感じだ。
迷いに迷っていると、知らない番号から電話がかかってきた。
「おう、俺だ」
何ともテンプレなオレオレ詐欺。発信元は近いらしい。市外局番が同じだ。
「どなたですか? 間違ってませんか?」
一応、様子をうかがう。舌打ちが聞こえた気がしたが、一体……。
「ひ、東野……東野たまきです!」
ちょっとひっくり返ったような東野さんの声が聞こえた。
一瞬、何者かにさらわれた東野さんが電話を奪って、助けを求めているんじゃないかと疑った。
「あ、明日の予定は何かありますか?」
あの東野たまきが、今、僕に予定を聞いている。
このあとの返答次第で、僕の高校生活が決まってしまうかもしれない。
携帯を力いっぱい握りしめる。
当然、予定などない。だけど、ないものをないと正直に言うのも何かつらい。
「何かあったんですか? 僕でよければ、手伝いますよ。この前のお礼に」
我ながらベストチョイス。
「え……? 本当に? じゃあ、明日の十四時に、お店に来てくれる?」
「ちょうど空いてるから、お店行けますよ」
全部空いてます。すいません。
「明日、合戦に出てほしいの」
一週間頑張って採集と狩猟をしてきたが、レベルはいまだに三。
「合戦に出るのはいいんだけど、まだレベル三だよ?」
「さん?」
「うん、三」
「今からイノシシ狩り、全力で頑張って! 斧を持っていったほうが早いわよ。じゃあ、明日十四時ね」
こちらの返事を待たずに切られてしまった……。
一分一秒も惜しめと言われた気がした。
僕は何も考えず、ただ黙ってゲームの電源を入れる。
続きは、本日22時20分公開予定です。
次話は、同じ電話の場面をたまき視点から描いています。




