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アルダシールと銀華~千年の時空を駆ける鬼と狐の恋物語  作者: 秋津広人


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黄泉の核砕き、玄室の奥へ

 

 空中に躍り出た若者の手の中で、大太刀の白刃が黄金の陽炎をまとって唸りを上げた。


 剥き出しとなった怪物の胸元で、赤黒い心核が異様な脈動を刻んでいる。振り下ろされる刃の切っ先は、寸分の狂いもなくその中心へと吸い込まれていった。


 硬質な手応えが柄を通じて両腕へ突き抜けた直後、耳をつんざく炸裂音が地下空洞を満たした。


 黄金の気が核の深部へ一気に浸透し、数千年にわたり凝縮されていた黄泉の邪気を内側から引き裂いていく。怪物の全身が激しく痙攣し、引きちぎれた鉄の鉤足が岩肌を乱打して火花を散らした。


 割れ砕けた核の裂け目から、眩い白光が滝のように噴き出した。


 巨体はもはや原形を保つことができず、頭部から順に黒い砂粒となって崩落していく。洞内を揺るがしていた咆哮は次第にか細い気流の音へと変わり、足元の地下水脈へと溶けて消えた。


 アルスは濡れた巨岩の上へ静かに着地し、太刀を払って鞘へと収めた。


 立ち込めていた硫黄と鉄錆の刺激臭が急速に薄らいでいく。銀華の霊火が周囲の残り滓を焼き払うと、後には透き通るような地下水の冷気と、川底を洗う清らかなせせらぎの音だけが戻っていた。


 『見事な太刀筋だったね、アルス。神気の炎とあんたの練気が、完全に噛み合っていたよ』


 銀華が白き衣の裾を揺らして歩み寄り、崩れた石扉の奥を顎で示した。


 吹き飛ばされた扉の先には、自然の岩盤をくり抜いて作られた壮大な石の回廊が続いていた。壁面には煤けた松明の跡と、古い神代の絵姿が途切れることなく刻まれている。


 二人が足を踏み入れた最奥の玄室は、予想に反して冷厳な静寂に包まれていた。


 中央に鎮座していたのは、四方を黒漆の巨石で囲まれた巨大な火床の跡であった。かつて神々の時代、大地の底から湧き出る熱と鉄を練り合わせ、数々の神宝を生み出したとされる伝説の鍛冶場である。


 火床の背後には、注連縄を幾重にも巻きつけられた一枚の黒曜石の板が直立していた。


 アルスが歩み寄り、風化を免れた文字の溝を指先でなぞった。


 『銀華姉ちゃん、ここに記されているのは、この地で打たれた三振りの神剣のことです。一振りは大和の奥底へ、一振りは東海の海原へ、そして最後の一振りは、遥か北の大地へと運ばれたとあります』


 『なるほどね。出雲が起点となり、神話の鉄が列島の要所へ配分されたというわけかい』


 銀華の細い瞳に、遠い記憶をたどるような深い光が宿った。


 地下に眠る真実を暴いた二人の前に、出雲のさらに先、東の国々と北の大地へと繋がる広大な旅路の道標が、静かにその姿を現し始めていた。


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