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「...は?」
フィリアの口から思わず漏れた、言葉とも呼べないような声。
「いきなり言われても分からないよね...でも、お兄ちゃんは、竜だよ」
突然ナータの口から告げられたのは、想定外の言葉。
「...はは、それ、なんの冗談?どういうこと?僕が...人間じゃないって事?いや、でもそしたらナータも...」
「うん、私も竜」
さも当然とでも言うかのように即答するナータ。
いや、兄が竜だと言うのなら、妹が竜でも当然なのだけど。
そもそもの前提がおかしすぎる。
「...いや、...え?そんなわけ...?」
フィリアは笑って冗談で済ませようとするも、ナータは至って真剣、というかとても大事な真実を話している、という顔をしている。
「竜...って、人じゃないって事だよね?」
「うん。人間じゃない」
「でも...」
自分の腕も、顔も、改めて触れ直す。
「人だよ...」
すると、ナータが着ていた服を突然脱ぎ出した。
「うわっ!?ちょ、ナータ!?こんなとこでいきなり...」
「見て」
フィリアは自分の眼球を潰す勢いで目を手で覆うが、無理やり解かれた。
「えぇ...あっ!?」
恐る恐る目を開ける。
ナータは上半身の服を脱いだまま、フィリアに背を向けた。
長く伸びた髪を持ち上げると、背中から首の付け根、項付近に掛けて、人間がもつ器官とは思えない、背骨が発達したように、トゲのような突起が幾重にも重なっていた。
「…大丈夫、痛いけど、取ったら治るよ!」
頑なに認めようとしないフィリアに辟易した様子でため息を吐くと、ナータは何かを呟いた。
「回帰・腕」
そう言葉を発すると、ナータの腕がバキバキと骨や皮膚、筋肉が音を立てながら変成していく。
「ぐうぅ…っ!!」
恐らくかなりの痛みを伴っているのだろう。ナータが瞳に涙粒を浮かべながら、歯を食いしばって耐えている。
「ハァ、ハァ、ハァ…これでも…人間って言える…?」
腕以外は先ほどと何も変わらない、幼気な少女だ。
しかし、その右腕が、彼女が人間ではないことを物語っている。
その華奢な体には似つかわしくない、まさに「竜の腕」と言えよう、人間の柔らかな肌を捨て去り、白く硬い蛇のような鱗で覆われ、鋼鉄をも容易く切り裂けそうな竜爪。
「い、痛くないの…?」
「はぁ!?気になるのそこ!?い、痛いけど…そこ…?」
「...そうだよね」
授業で習った、身体強化系の契約によく似ている。
「...一応言っとくけど、世界樹の実の契約でもないからね!?この力に制限はない。代償もない。自分の身体を元に戻してるだけだから。...強いて言うならちょっと痛いくらい」
「はは、ちょっと、ね...」
ナータもフィリアと同じように人より痛みに強いのなら、あの顔になる程の痛みは一体どれ程の...
そう想像していると、ナータが口を開いた。
「...あんまり驚かないね?これだけやって信じてくれないなら、私もう火ィ吹いちゃうよお兄ちゃん!?」
がおーとジェスチャーするナータ。
「いや、信じてるよ!!こんなとこで火吹いちゃ駄目だよ!?...正直、なんとなく思ってたんだ。まさか竜とは思ってなかったけど、みんなとなんか、違うなぁって...」
少し顔を下に俯いて笑うフィリア。
すぐに駆け寄り、その頬を両手で支え上げた。
「うん、私たちは普通の人とは違うよ、お兄ちゃん。トクベツなの!」
「トクベツ...?」
「普通の何がいいの?皆と同じの何がいいの?お兄ちゃん、皆より強いでしょ?かっこいいでしょ?可愛いでしょ?」
「い、いやぁそんなぁ...えへ...」
突然褒められて顔を赤くしながら頭を搔くフィリア。
「私も強いよ!だって竜だもん!人間なんかよりずーっと、ね」
外を見ながらいうナータ。その頬には、一筋の涙が伝っていた。
「ナータ...?」
「教えて上げるよ、お兄ちゃん。昔のこと」
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「失礼します!四年A組、ロイス・ヴェンジェンスです!調査団長は今どこにいらっしゃいますか!?」
職員用の控え室にやってきた生徒会長。
その顔にはいつもの優美な余裕が無く、額に汗が滲んでいた。
「おお、ロイス!お疲れさん、どうした?忘れ物でもしたかぁ?」
ちょうど近くで座っていた1年、B組の担任であるカイルがロイスに気付き、茶々を入れる。
「いえ、カラシン調査団長は今どこに?」
「...ふざけてる場合じゃ無さそうだな?カラシンさんなら今用を足しに行ってるよ、けど腹痛そうにしてたから暫くかかるかも...って、ちょっと!」
便所の方向に指を指したカイル。話を聞き終える前にロイスは退出の礼もせずに部屋から飛び出して行った。
「ありがとうございます!」
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「人間が...皆を、殺した...?」
そう呟くフィリア。
「...うん。お父さんも、お母さんも、弟も。他にもいたんだけど、みーんな、竜は人間達に殺し尽くされた。」
「な、なんでそんな、そんな訳...!?」
「さっきも言ったよね、私達竜はトクベツなの。凡の人間達になんて負けないわ。でも、人間の弱さ...いいえ、狡猾さは、産まれた時から上位存在の私達には存在しない。...だって、必要無かったから。でも、人間達は弱いから、そういうやり方で竜を騙して、利用して、閉じ込めて...殺した」
拳を固く握りしめるナータ。その顔は、元の美貌を忘れさせる程の強い憎しみが宿っていた。
「お兄ちゃん、『せかいじゅ』って絵本、呼んだ事ある?」
「それ...いや、無い」
カラシンと以前話した時、フィリアに読ませようとしていた本だ。
「そう...凄く有名なのに。その絵本にはね、こう書かれてるんだよ」
「始まりの竜は人間を、一度絶滅させたって」




