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歓声は、まだ残っている。
三人が王国騎士団に勧誘されるという異例に沸きはしたものの、流石にメインで注目されているのは3,4年生の「契約者組」の試合。
生徒会長であるロイス・ヴェンジェンスが「隠」を39人との交戦の後、一度の逃走も無く一位通過したとの情報が観客達に届いたようだった。
『それでは第二種目の準備に入るため、暫くの間休憩時間とさせていただきます!!お手数ですが、準備が終了するまでは闘技場内に留まることができませんので、祭りをお楽しみ下さいませぇ!!』
ロアンの声が響くと、数分もしないうちに観客達は席を立ち、飲食や談笑へと散っていった。
祭りの表情。
しかし、参加者たちの空気はまるで違った。
「はぁ...」
ガルがその場に大の字に仰向けに倒れ込む。
「ハラ減った...」
「やけに大人しいかと思ったらそれかよ」
ルーフが呆れたように息を吐く。
「うっせー!」
「三人共、おめでとう!お疲れ!」
アキトと他数人のクラスメイトがフィリア達のもとに寄ってきて祝福する。
「アキト君、ありがとう!さっき断っちゃってごめんね」
「いや、気にしないで。僕が着いて行って足を引っ張ってたら観客に石を投げられるところだったよ、はは」
アキトが苦笑する。
騎士団長の言葉。そしてその場にいた全員が予想外だった調査団長からの、それも既に入団試験までが確定しているという事実。
皆が改めてフィリアの異常性に口を噤む中、ガルが言った。
「つーかフィリア!調査団にも勧誘されてたのかよ!?やっぱやべぇなお前!?今んとこフィリア二兵団、俺とルーフ一兵団だからお前が暫定一位だな!」
なんの話をしているのか周りはわからず、フィリアとルーフも一瞬頭に「?」が浮かんだ。しかしすぐに思い出す。
「...あ、そうじゃねぇか、一番多くの兵団に声かけられたヤツの勝ちだったな。喜んでられねぇ」
顔が再び締まるルーフを見て、エリオが突っ込んだ。
「いや、王国騎士団と調査団に勧誘されてるやつ横から狙える兵団なんかほぼ無いだろ!」
「わかんねーだろそんなの!」
ガルがぐいっと顔を近づけて言うと、アキトが三人に向かって聞いた。
「三人は所属したい兵団は決まってるのかな?さっきは『最強の騎士になる』なんて言ってたけど」
「僕は...まだ決められてないけど、多分調査団かなぁ」
「俺は1番つえートコ!」
「まぁ...王国騎士団、だな」
「煽ってんのかお前らァ!」
エリオが再び怒声を飛ばした。
控え室が三人を中心に笑い声に包まれる中、突然ドアを塞ぐように立っていたミナが大きな声を上げた。
「ちょっと!何よあんた!...きゃっ!」
黒い装束を纏った少女にミナが無理やり突き飛ばされると、控え室の中に走り出してきた。
「皆下がって!君、止まりなさい!ここは生徒控え室だから部外者の立ち入りは...って、ちょっと!」
アキトが前に立ち、少女を止めようとすると、素早くそれを躱してそのままフィリアの方へ向かってくる。
「うわぁっ!?」
フィリアが声を上げたかと思うと、その少女はフィリアに抱き着いていた。
「は…?フィリア、お前彼女いたのか…?」
「え!?いや、知らない人だよ!?」
エリオが白目を剥きながら言うと、女子たちはそんなわけないとでも言うような目でエリオを睨みつけた。
「お兄ちゃーん!!やっと会えたぁ!!」
少女は泣きながらそう叫んだ。
「にい、だって?」
ルーフがそう呟く。
フィリアと同部屋の二人は以前から何度か聞いていたのだ。
フィリアが本当の家族との記憶を失っていることを。
「…え」
兄、と呼ばれたフィリア自身が信じられないように声を漏らす。
「…うん、お兄ちゃん。…やっぱり忘れてるかぁ…あはは、予想してたけど、ちょっと悲しいなぁ」
漆黒のフードを脱いで顔を見せる少女。
白くきめ細やかな肌、純白の髪。
そして何よりもフィリアにそっくりの、宝石のような美しい金色の瞳が潤んでいた。
目の前にいる少女がまごうことなくフィリアと血を分けた兄妹である事は、その場にいた皆がわかった。
「…!!ご、ごめん…昔の事、何も覚えてなくて」
フィリアが申し訳なさそうに言うと、ガルが言った。
「フィリア…良かったな、お前、ずっと寂しそうだったもんなぁ…」
「は!?何いきなり泣いてんだよ?気色悪ぃ!!」
突然ボロボロと涙を零しながらフィリアの肩を叩くガルに驚くルーフ。
「…え、あ…うんっ…うん…!!ぼぐっ…寂じがっだの!ずっど…ずっと…!!」
抱き着いて来ていた「妹」に、いつの間にか強く抱き返していた。
ガルに感化されたのか、頭が感情に追いついたのか。遅れて涙と鼻水と、顔の水分を閉める門が決壊したようにボロボロと溢れ出して止まらなかった。
「えぇ…まあ、フィリアはそうだろうけど…」
クラスメイト達も、いつの間にか涙を流していた。
「感動の再会、ね…」
「フィリア君、泣いてる顔も可愛い…」
「妹さんだったのか、止めたりしようとなんてしてごめんね…」
「お前らはなんか変だろ…でも、良かったな、フィリア」
そういうルーフもいつの間にか涙ぐんでいた。
今思えば、自分の尊敬する、追うべき背中もないまま放り出されてしまったフィリア。
怖かっただろう、寂しかっただろう。
今は亡くとも、俺には親がいた。
指標となる騎士が居た。
大切なものを無くす事もなく、そもそも存在しないだなんて、俺達には想像も出来ない。
「居たんだ…僕にも、家族が」
「うん、ずーっと探してたんだよ、お兄ちゃん。」
妹がいるなら、と思い、つい聞いてしまった。
「お母さんとか、お父さんとかは…」
フィリアがそういうと、「妹」は少し表情を暗くした。
「ちょっと、二人で話そう?」
「…!わかった」
「込み入った話もあるだろうが、次の種目までには遅れないようにね!」
アキトに念を押され、控室から「妹」と二人で出て行った。
「…そっか、でも、僕はナータとまた会えてうれしいよ」
少女の名はナータというらしい。
控え室から少し歩いた、外の景色が一望できる大回廊。
その柱の裏で話す二人。たまに人が通りはするものの、大きな柱に隠れて二人に気づく事はなかった。
ナータが言うには、
・フィリアとナータは一歳年の離れた兄妹
・実年齢はフィリア14歳、ナータ13歳
・ナータ以外に父、母、弟の五人家族だったが、事故により亡くなってしまった
「うぅ...お兄ちゃんだけでも、生きてて良かったぁ」
涙目で、それでも笑顔で抱き着いてくるナータ。
ずっと一人で生きてきたのだろうか。
自分が記憶を無くしてふらふらとしている内に、ナータはずっと寂しい思いをしてたんじゃないだろうか。
「ごめん、絶対思い出すから、ちょっとだけ待ってて欲しい」
何度も何度も、頭が痛くなるほど思い出そうとしても、「妹」の顔を見ても、依然として記憶の蓋は閉じたまま動く気配すらなかった。
「うん!...いつまでも、ずーっと、待ってるよ」
「失礼します!...フィリア君、いるかなー?」
生徒控え室に入ってきたのは、生徒会長、ロイス・ヴェンジェンス。
「せ、生徒会長!お疲れ様です!フィリア君なら、今妹さんとお話されてます」
姿勢を正すアキト。アキトにとって、生徒会長は目標であり、今その座に立つロイスに対する尊敬の念は、他の生徒の非ではなかった。
アキトがそういうと、ロイスは冗談を言われたかのような反応をする。
「妹…?…どこに行ったか分かる?」
少し考えた後、真剣な雰囲気になったロイス。
その表情からは余裕が消えている。
「…?いえ、二人で話したいと言っていたので…」
「…そうか、わかった、ありがとう」
それだけ言い残して、ロイスは控室から足早に去っていった。
「どうしたんだろう?」
「おい、生徒会長、なんだって?」
不思議そうに首を傾げていたアキトに、一部始終を離れた場所から見ていたルーフがその話を聞いた。
「フィリア君に用事があって来たみたいなんだけど、妹さんと二人でどこかに行ったって言ったら…」
アキトの話を聞く途中で、ルーフはガルを呼んで共に控室から飛び出していった。




