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贖いのユグドラシル  作者: 熊猫パンダ
第二章 兵士養成学校編

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闘技場に浮く巨大な砂時計の砂が完全に落ち切った。


『これにて第一種目「隠」、終了!!最終的な集計結果を発表いたします、少々お待ちをォ!』


轟く歓声が闘技場を揺らした。


空中に展開されていた映像が白砂へと戻り、代わりに巨大な光円が現れた。


参加者達の帰還転送が始まったのだ。


次々と落下してくる第四旧商業区にいた参加者達。一般人ならばこれだけで大怪我を負うだろうが、全員問題なく着地に成功する。


膝をつく者、息を切らす者、悔しさに拳を握る者。


「クソ、1点も取れなかった...」


「最初っから難易度イカレすぎだろ!?」


「ハァ、ハァ、ハァ...」


観客席からは惜しみない声援が降り注ぐ。


祭りとしての熱はむしろここからさらに上がっていくような気さえした。


『...ただいま集計が終わりましたぁ皆お疲れィ!超豪華な審査員からの感想と共に第三位から発表するぜぇ...!?』


太鼓を連打する音が鳴り響く。


『第三位、二年、リーヴァ・シルヴァリア!!それでは王国騎士団団長、"不落"レオンハルト様、コメントお願いしまぁす!!』


「レオンハルトだって!?」


「まじかよ、やっぱ来てんのか!!」


闘技場全体が騒ついている。


「凄い人なの?」


参加者も皆口を開けて驚いていたので、たまたま近くにいたジャネットに聞いたフィリア。


「す、凄いも何も、この国最強の兵団の騎士団長だよ!?レオンハルト様がまだ普通の騎士だった時に国王が在中の砦で、レオンハルト様が単独でAレート級の竜種を全滅させて"不落”なんてイカした通り名で呼ばれるようになったんだ!」


「――"不落"、か」


王国騎士団。調査団が未知なる世界へ探索を続ける部隊とすれば、それとは対になる役目を持つ、この国を守る騎士団。

所謂兵士達にとっての名門、ゴール、目標、夢なんだろう。

そんな場所の頂点に君臨する兵士。


司会、ロアンの横に王冠を模した特徴的な甲冑と大槍を持った騎士が現れた。


ロアンは比較的平均的な身長のはずだが、遠目に見ても少なくとも二倍以上は大きく見える。


彼の【声を拡げる力】でその騎士が話す。


『...我が名は王国騎士団団長、"不落"のレオンハルト!!』


マントをはためかせ、闘技場中に響く声で言い放つ。ビリビリとした圧を直に受け、それだけでレオンハルトの持つ力量を肌で感じる様だった。


『...なんて、格好つけたい物ですが、吾輩にはどうも気恥ずかしく。えー、参加者、観客の皆様、まずはお疲れ様です。祭はまだまだこれからですが、どうぞ無理はなさらぬようお願い致します。...さて、リーヴァちゃん、三位おめでとう!』


表彰台へ上がるリーヴァ。


「はっ!ありがとうございます...」


跪き、騎士団長からの賞賛をその身に受ける。顔を俯かせているが、下にいる生徒たちからはその恍惚とした表情が丸見えであった。


『終始隠密行動に徹し、上手く戦闘を回避し続けて樹印を全て集め切ったようだ。素晴らしい隠密、探索能力だね。アドバイスとしては...そうだな、吾輩には何度か確実に樹印を奪いに、戦闘に途中参加できるタイミングがあったように感じた。実戦ではそれが仲間を救うカギになる場合もあるから、そういう駆け引きを意識すると良いかもしれない』


「承知致しましたっ!!この身に余るお言葉で御座いますっ!!ありがとうございます!!」


再び跪き下を俯くが、両手で口角が上がらないよう必死で抑えているのが下の連中からは丸見えであった。


『次、第二位!一年、ルーフ・サロッタアーンド第一位ガル・ヴァイツ!!』


二人が同時に表彰台へ呼ばれ、登壇した。


「おなしゃーす!!」


ガルが表彰台へ登ってすぐ両手をピシッと揃えた90度の礼をしたので、ルーフも合わせて礼をした。


「あいつら、粗相すんじゃねーぞ...?」


教師陣が二人を賞賛しつつも、不安そうな目で心配する。


『元気が良いね!爽やかで吾輩好きだよ!えー、二人とも、一位二位おめでとう!正直行って「隠」って感じのスタイルじゃなかったけど、ルールの通りただの一度も戦闘に途中参加される事なく終わらせたね!?隠れないっていう意地とそれを実行する強さ、感服だよ』


「アザース!!」


再び両手の指先を伸ばしくっ付け、腰を深く曲げてお辞儀するガル。


「お前、もうちょっと丁寧に礼しろバカ...!合わせられねぇだろ!」


合わせて礼しつつもガルに注意するルーフ。


『自分に自信を持つのは良い。だがしかし、この先正面からじゃどうやったって勝てないほど自分より強い相手と対峙することになるかもしれない。そんな時、"隠れない"君達はどうやって兵士としての務めを果たすつもりだい?』


目つきを変えたレオンハルト。場内の空気が一瞬冷えたような気がした。




「「どっちが先に勝つか勝負するだけっす(です)」」


二人が息も合わせず同時にそう言い放った。


闘技場が再び静まり返ったかと思うと、笑いに包まれた。


『...え?勝負?いや、だから自分より強い相手で...ふ、ははは!!若いなぁ!!だけど、うん、そうだね。そういうのが大事かもな!吾輩も、昔はそうやって生きてた!君達は若い頃の吾輩に似てるよ!ははは!!君たちの夢、聞かせてもらってもいい?』


「夢ぇ?...んー...」


悩むガルだが、ルーフは即答した。


「俺は、この国最強の騎士になります」


この国現最強の騎士団の団長であるレオンハルトへ向かって、自分を超えると、そう言い切るルーフ。


観客達が指を指して笑い、教師陣は頭を抱えるが、レオンハルトは本当に昔の自分と重ね合わせていた。


「...!ああ、王国騎士団(うち)で待ってるよ。ガル、ルーフ...名前は覚えた」


そう答えたレオンハルト。会場全体が湧いた。


『な、なんと!?第一種目にして、"不落"レオンハルトから直々のスカウトォォ!!?』


「おいおい、まじかよアイツら!?」


エリオや皆が頭を抱えて驚いている。

フィリアは普段怒られてばかりの二人がようやく日の目を浴び出した事実に、笑みが止まらなかった。


「ふふーん、二人は凄いでしょ?」


『あと、そこの、白い髪の君、四位だったかな?上がってきてくれ』


表彰台へ上がるようレオンハルトに呼ばれるフィリア。


「...ん?誰?」


まさか自分の事とは思っていないようで、フィリアは周りを見回している。


「フィリア!!お前だよ!!」


表彰台で立つガルに手を振られ、ようやく自分が呼ばれていることに気付いた。


周りがザワザワとし、「なんだあのガキ」「狡いだろ」など、心無い小言をフィリアの聴覚では全て拾っていた。


「い、嫌、僕、三位でも無いし、そんなとこに立つ訳には...」


その時、フィリアの背中が何者かに強く押され、集団の中から無理やり飛び出させられた。


後ろを向くと、先程戦ったばかりのダンテがそこに居た。


「さぁ、行きなよ!君は世界に呼ばれてるんだ!」


奉納祭開催直前、闘技場へ入る際に生徒会長ロイスから言われた言葉がフラッシュバックする。


『君、名前は?』


「フ、フィリア・ヘルトルーディスです!」


『何故吾輩が君を呼んだか、わかるかい?』


「いえ、あの...分からない、です。すみません」


フッと笑い、座り直して組んだ手に顎を預けるレオンハルト。


『はは、謙虚だなあ。単純、君は一年、いや二年も含めた未契約者達の中で一番強いからさ。契約者を含めても...どうだかね』


あまりに唐突かつ単刀直入、単純な答え。


その場にいた全員が面食らったが、ガルとルーフは当然といった様子で驚いていなかった。


「ありがとうございます...?」


『君はこの二人とは真逆だね?その力があって何故隠そうとする?』


踏み入った質問をするレオンハルト。その真意は別にあるようだ。


「...隠してるつもりは...」


答えられない。

嘘をついている訳じゃない、つい全力を出すことを拒んでいる自分が自分でもわからないのだ。


『ふふ、すまない、答えなくていい。意地悪が過ぎたね。君もどうだ、()()で予約を取っても構わないか?』


『ななななんと、王国騎士団長直々の三人目の招待ぃ!?!?異例中の異例!!場内は騒然としております!!』


観客達がフィリアへ祝福の拍手を送り出すと、それを破る声が入った。


『あ、あー!ちょっと、困るっすよレオンハルトさん!この子うちの子なんすから!』


その声は、記憶も身寄りもないフィリアを匿ってこの学校まで入学させてくれた、まさに命の恩人の声だった。


「カラシン!?」


フィリアの顔が明るくなる。


『ちょ、ちょっとなんですか貴方...って、王国調査団隊長、カラシン・ヨーンケス様ァ!!?!?』


わかりやすく登場に歓喜されたレオンハルトとは違い、カラシンは少し認知が進んでいない様子だった。

しかし、王国調査団という王国騎士団に並ぶ兵団の団長という響きに、少なくとも「凄い人が来た」という実感が皆を包んだ。


カラシンは頭をポリポリと搔きながら軽く礼する。


『あ、こんちゃっす。そういえばジブンもう隊長だったんすね、カラシンっす。久しぶり、ホ...フィリアくん』


筋骨隆々、温厚篤実、威風堂々といった言葉の似合うレオンハルトとは違い、猫背、無精髭、やせ型、軽々しい言葉遣いに平民のような身なりのカラシン。所謂「オーラ」というものは、彼を知らない人からすればどうにも見受けられなかった。



『あの、カラシン様、()()()()、というのは...?』


ロアンが恐る恐るカラシンに聞くと、眉を上げて答えた。


「はいはい、声貸して」『えー、以前からフィリア君は調査団への入団準備を進めてますんで、悪いけど王国騎士団(そっち)にはやらないっすよ』


淡々と言うカラシン。観客達は理解が追い付かず静かだったが、暫くしてから驚きと感嘆が混じった声が溢れだした。


『ははは!残念だ、先約があったなら仕方ないね!』


『おいおいこりゃあ一体どういう事だぁ!?王国騎士団長と調査団長から同時にアプローチを受けている一年生だってぇ!?一体全体何が起きてるんでしょうかぁ!!おい、フィリア・ヘルトルーディス!お前は一体何者なんだぁぁああ!?!?』


上を向きながら絶叫するロアン。彼の声に触発されたかのように、徐々に理解が追い付きだした観客達からの歓声がフィリアの一身へと降り注いでいる。


「...くー!!まじかよフィリア、おめースゲーな!!」


隣に居たガルとルーフが、フィリアにとって初めてで受け止めきれないだけの賞賛と栄誉と祝福を共に肩を組んで分ち合ってくれた。


「ちっ、初っ端は俺が最下位か...」


レオンハルトから直に招待を受けたことを忘れたかのように、笑いながら舌打ちをして悔しがるルーフ。






「さあ、ここからだよ、フィリア君」


ロイスが鳥の視界を通して、闘技場内で喜びを分かち合うフィリアを見てそう呟いた。


「君に寄せられる期待は今、間違いなく人生最高潮のものになるだろう。それに応えられなければ、それ以上の失望が待っているかもしれない...」




その手には三つの樹印結晶が握られていた。その下には無数の樹印結晶と、気絶した生徒たちの山。



『四年、ロイス・ヴェンジェンス。戦闘の途中介入による減点回数36。一位通過です』



王国兵士養成学校生徒会長、ロイス・ヴェンジェンス、【他者の契約を模倣(コピー)する力】の契約者。

























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