20
『「隠」、開始ィッ!!』
「死ぬかと思ったぜ...」
王都の第四旧商業区へと転送された「隠」参加者の一、二年生、そして一般参加者。
「あれも契約ってやつか」
生活音や人の行き交う気配すらしない街。
ここに住む人ですら、普段とは全く違う場所のように見えるだろう。
まだ昼だと言うのに、やけに薄暗く感じる。
密集した商店街、住宅。
地上ではなく2階、3階から別の建物へ渡る為の廊下があったりと、非常に見渡しの悪い入り組んだ地形である事は一目でわかった。
「樹印を三つ集めろって言ってたよな?...暫く触るだけでいいって言ってたし、戦いになるのか、これ?」
「あそこにあるの、樹印ってやつじゃないのか?」
一人が樹印に近付いて触れようとすると、横から入ってきた生徒が突き飛ばした。
「待て!これは俺んだ」
樹印の結晶を手にすると淡く光った。
『さぁ早速今種目最初の獲得者は一年のディルク!!現在1p獲得!』
旧商業区中に設置された音を出す箱から、司会者の声が響き渡る。
「な、なんだお前!?皆で触れば平和的に得点を...俺にも触らせろ!」
結晶に無理やり触れるも、得点を示す実況の通知も無かった。
「いや、多分...」
アキトがボソッと呟く。
『おっと、早速気付いたようだな!!既に保有されている樹印に触れても加点されないぞッ!...戦場で仲良く分け合いなんて、甘過ぎるぜぇ?』
突き飛ばされた生徒が樹印を手にした生徒の胸倉を掴む。
「寄越せよ!俺が最初に見つけたんだ!」
「関係ねーよ、放せ!」
「...一対一、ね!」
揉み合っている二人に走って近付き体当たりを仕掛けたジャネット。
『おぉ〜っと!?戦闘に途中参加された一年、ディルクとトマ・パウンダーは一点ずつ減点!ディルクは現在-1点、トマは現在-1点!』
トマが声を聞いて驚く。
「マ、マイナス!?ふざけるな!お前のせいで...!あれ?お前も...?」
「は!?...結晶がねぇ!?」
『鮮やかな手捌きで樹印の横取りに成功した一年、ジャネット!!現在1点!』
「ごめんね!ま、頑張って四つ集めなよ〜?これはアタシの!」
一度こちらを振り向いてウィンクすると、すぐに走り去っていった。
「やるじゃねーかジャネット!!俺たちもさっさと行くぞ!!」
ガルが言うと、フィリアとルーフもそれに続いた。
「おい、行くのはいいけどチーム戦じゃねぇぞこれ」
「あ?!なんで着いて来てんだお前ら!勝負だぞこれは!?」
「ハァ...」
「減点されるのは一対一を妨害された場合だけだ。逆を返せば人数をかけて動けば勝負も吹っ掛けられにくいだろうし、数人で固まるのも作戦だよ。ってことで、僕も同行させてもらうよ!...正直な話、君等に着いていけば得点も得られそうだしね!」
いつの間にか三人の後ろを付いてきていた学級代表・アキト。E組を代表するだけあり、クラスでも三人の次に実技成績が良くそれに加え、筆記テストではほぼ毎回クラス一位、学年トップ三位には入る極めて優秀な生徒だ。品行方正、文武両道とは正に彼のことだろう。生活態度も非常に良好であり、教師陣からもとても気に入られている。
「アキト君!」
フィリアが頼もしそうにアキトの名前を呼ぶが、ルーフとガルはそれぞれ逆方向の脇道へと走っていった。
「一緒に動かねえよ!!解散解散!!」
「え!?なんで!?」
アキトが理解できない様子で遠ざかっていく二人に問うと、今度はルーフが答えた。
「それじゃつまんないだろ」
「つまんない...?」
アキトには人生がかかった場面で楽しもうとする神経が理解出来なかったが、同時に二人、いや三人を理解していた。
「...そういうことで、ごめんね、アキト君!今誰が一番活躍できるか勝負中なんだ」
フィリアは申し訳無さそうにアキトに向かって手を合わせ、跳躍し、壁と壁の間を跳んで屋上へと消えていった。
「ちぇ、楽は出来ないか...ま、駄目で元々、そういう奴らだよな、君らは!」
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『一年ガル・ヴァイツ、ルーフサロッタ、フィリア・ヘルトルーディス!怒涛の二連取によりリーチィ!一対一を妨害され樹印を奪取された二年ドア・サンアダ、アマルは現在-1点!』
画面上に映る三人だが別行動している様子で、1人ずつ全く違う場所にいた。
ガルとルーフは隠密のおの字も無く地上を走り回りながら目についた人に勝負を仕掛けている。
フィリアは密集した建物の屋上を飛び回っている。
「あらぁ、ウチの問題児、中々やるじゃな〜い?」
フィリア属する一年E組の担任教師、ボンちゃんことオスカー・ボントラー。今日は奉納祭の特別衣装なのか、赤い玉を鼻につけ、ド派手なドレスを身にまとっている。
「お前の生徒らしいな...隠密などという気は全く感じられない」
一年B組の担任教師、カイル・トールが腕を組みながら言う。
オスカーとは比較的仲が良く、仕事終わりの飲み仲間である。
街の木箱や家の中の棚などを探索する様子が全く無いガルとルーフ。二人は完全に戦闘だけで樹印を集め切るつもりだろう。
「まあ、少なくとも自分の売り方を分かっているようね。ヘルトルーディス以外の二人は」
同じく1年、D組の担任教師、カティア・フェルン。足を組みながら長く伸びた髪を優雅に払う。
「あら、フィリアちゃんは不満?可愛い顔してるけど、ウチの主砲よ〜?」
少し意外そうに聞くオスカー。カティアが続ける。
「そんなのわかってるわよ。クラス単位どころか学年、学園単位での逸材ってやつなんてことは。ただ、地味すぎるわね?性格なのか怖いのか、“本気出すのなんてダサい”とか思ってるタイプなのか知らないけど、自分の実力隠す癖が酷すぎるわよ、彼」
「まあ、明らかに普段の授業とか模擬戦でも手加減はしてるだろうなあ」
カイルが流石に納得せざるを得ないというような様子で首を縦に振る。
「では、ちょっと予定より早めですけど、やっぱり次の種目から“特別枠”で上級生組でやらせましょうか!」
会話中の三人の間にずいと顔を挟み入れた生徒会長のロイス。
「...おい、その話、本当だったのか?依怙贔屓が酷すぎるのではないか?」
会話に割って入ったのはA組担任教師アズバルドル・マイラワー。
「それを言うならむしろ逆なのでは?ぬるま湯に浸かっているべきでない人間とはいえど、突然熱湯を浴びせるが如き行為ですわ。...先生、シャツがはみ出していますわよ?はしたない!」
風紀委員長四年ヴィオラ・クラウディア。アズバルドルを教師としてまるで尊敬していないような様子で、服装を正した。
「...ふん、この男はどうなのだ?風紀もクソも無い格好してるだろう」
オスカーの方を親指で指すアズバルドル。
「あら、ボンちゃん先生の格好は非常に均整が取れていますわ?毎日芸術的な服装で出勤されるの皆楽しみにしてますの!今日はお花イメージかしら??」
「あーら惜しいわねっ!お花ピエロよ!可愛いでしょ?」
「カワイイですわ〜!!」
「...じゃ、今日ようやくあの子の本気を見られるって訳ね!」
期待に胸を膨らませ、目を光らせるオスカー。
「本気、ね」
教師たちの席は一般用の観客席からはかなり離れた位置にある、所謂特等席だ。
たとえ祭りの喧騒が無くとも、大声で話さなければ常人には聞こえはしないだろう。
黒い外套を纏った少女。
フードの奥から覗く口が薄ら笑いを浮かべていた。
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「なんなんだお前!?探せよフツーに!?隠密しろよぉ!?」
「ワリーな先輩!こっちの方が向いてんだ、俺!」
『一年、ガル・ヴァイツ!即戦闘、即勝利!一度も妨害されることなく今大会最速で樹印を三つ集めきったァ!!続いてほぼ同時、惜しくも2位のルーフサロッタ!』
ガルとは戦闘音や声は聞こえないほどの距離で悔しそうに舌打ちするルーフ。
「チッ、遅かったか!」
「2人とも流石だなー、あと一個が全然見つかんないや...」
上から見下ろせる路地裏などに絞って探索するフィリアだが、あと1つの樹印を見つけるのに苦労している様子だった。
「はっはっは...お困りのようだね?フィリアクン?ボクも樹印があと一つ必要なんだ...」
自信・慢心を具現化したような声、話し方。
「は、はぁ...?」
「...ん?なんだねその反応は?このボクが目の前に現れたというのに?」
「いや...すみません、どなたでしたっけ...?」
立ち止まって暫く上を向いたり歩き回ったりと考えるが、どうも思い出せなかったようで気まづそうに上目遣いで聞くフィリア。
「...んがっ!?」
余りに予想外の反応だったようで、雷に打たれて石にでもなったかのように固まる男。
「ハ、ハハハ...」
後ろへとよろけ、建物から落ちそうになるほど後ろへ仰向けに上半身を倒した後、一呼吸おいてフィリアの眼前に迫り叫んだ。
「ボクの名はダンテ・サローニ・サウスポールだ!!あの日皆で食を分かち合い、腕相撲大会でも名勝負を収めたというのに!?君は!?全て忘れたというのかい!!?ショック!!!イッツァショックッッ!!」
「...あー!ダンテ君!たのしかったね?あの時は!」
「君、素直になったらどうかな!?...ボクの尊い名を聞いて尚思い出してないよね!?...勝負、勝負だぁ!!おチビクン、ボクの剣技にひれ伏すがいいっ!!」
懐から木刀を取り出し、フィリアに斬りかかった。
「わっ!?...ごめん、今思い出したよ!!ホントホント!!..でも、いいよ!やろうか!」
木刀を横に体を返して避け、一対一を了承する。
「ていうかその木刀、どこから持ってきたの!?武器ってありなの?!」
「え、禁止って言われてなかったしいいだろう!?...ダメかな!?...ずるいか!?」
木刀を振り回しながら問答を繰り返す。
「わかんないけど...皆武器持ってなかったから、でもルールに無いならいいのかな?」
「...いや!ルールにあるから無いからいいんじゃない!駄目なんじゃない!騎士とは貴族とはそういうものじゃない!!己の信ずる道を、恥にさらさぬよう生きる事か!!ありがとうおチビクン、ボクの柱を思い出したよ!!」
自分の中でハッと何かに気づいたように、木刀を投げ捨て、構え直した。
「...ダンテ君もそれを持ってるの!」
ダンテ・サローニ・サウスポール。
極南の冬国の貴族の家系であり、父に栄誉騎士を持つ学年でも常に優秀な成績を収める生徒だ。
フィリアに埋もれてあまり目立たないが、特筆すべきはその腕力にある。
「はぁああ...フンッ!!」
口から湯気のような白い煙を出し、手を家の屋根に突っ込んで屋根ごと捲り上げた。
「...ああ、持ってるよ!騎士は皆、持ってるものさ...!!豪、傑!!」
立っていた屋根がまるでテーブルクロスのようにダンテの元へ引き寄せられる。
ジャンプして他の家の屋上へと飛び移ると、その屋根を放り投げてきた。
「うわぁ!?」
ある程度繋がったまま飛んでくる屋根の範囲が広く、避けるには既に遅かった。
腕を前に交差させ防御の姿勢を取り、屋根の瓦を破る。
目の前にいたはずのダンテの姿が見えない。
「はは、無傷とはやるじゃないかおチビクン!!」
「っ!?」
声のした方に視線を向ける。それは上だった。
丁度正午に近い時間帯。太陽は真上に位置し、ダンテの姿が逆光によって影でしか捉えられなかった。
距離感を上手く掴めず、上手く避けるのも受けるのも難しく上からの攻撃に防御姿勢を取るので精一杯だった。
大きな音を立てながら屋根が崩れ落ち、地面に叩き付けられた。屋内が砂と土煙で満ちる。
ここらの建造物は三、四階建てが多く、二階分の床を突き破ったのを背中で感じた。
上を見ると大穴が空いており、光が砂に放射状に反射しており、余計に視界不良だった。
「いてて...あれ、痛ーー」
「まだ気絶してないのかい!?...しょうがない、後で医療班に治療は受けられるそうだよ!!」
土煙の中から現れたダンテがフィリアの首を掴み持ち上げようとすると、フィリアの目が一瞬真っ黒に染まっているような気がした。
自分の首を掴むダンテの腕を握り返すと、ダンテはすぐにその手を放した。
「ぐあっ!?...ハハハ、ボクはボクより力の強い同世代を君以外知らないよ...!?」
「そんな事無いよ、僕なんて大した事ない」
「むきーっ!!いい加減自分を認めないか、行き過ぎた謙遜は相手を辱めるぞ、おチビクン...!!」
段々と視界が開けてきたところに、地面の砂を相手に投げつける。
「ぐっ!?」
目に砂が入ったダンテ。辛そうに目を擦って無理やり開けようとするが、身体が勝手に目を瞑ろうとしてしまう。
「違うんだ」
ダンテの足をすくって転ばせ、その隙に懐に二つあった樹印結晶を一つ奪った。
「...大した事あっちゃ、困るんだよ」
『一年、フィリア・ヘルトルーディス!!激闘の末に樹印を同じく一年ダンテ・サローニ・サウスポールから奪取!!合計3点に到達!!尚ダンテ・サローニ・サウスポールは-1点なので、現在1点!』
目に入った砂が取れると既にフィリアの姿は無く、実況と無くなった結晶の感覚で自分が負けた事に気付いた。
「...流石、ボクが初めて腕相撲で負けただけあるね。おチビクン、ボクは君が注目されすぎだと思っていたけど、どうやら君はそれよりももっと誇るべき力、もっと誇示すべき力を持っているみたいだ。..
なのに、何故...どうして君は、そんな顔をするんだ
...?」




