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贖いのユグドラシル  作者: 熊猫パンダ
第二章 兵士養成学校編

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ゴオオォォンーー。


重厚な鐘の音が、闘技場全体を揺らした。


石造りの巨大な円形闘技場が満員だった。幾層にも積み上げられた観客席には王都に住む民衆だけではなく、全国各地からこの祭りを目にしようと集まった平民、貴族達が隙間なく座り、旗や花飾りが風に吹かれて波のように揺れている。白布の装飾が陽光を反射し、まるでこの建物そのものが息づいているかのようだった。


中央、白砂が撒かれた闘技場。


そこへ、王立兵士養成学校の生徒たちが整列していく。


「うわ...人、多すぎだろ...!!」


ガルが高揚を抑えきれずに小声で呟いた。


「静かに。もう始まるよ」


アキトが小さく注意するが、声はわずかに震えている。

学級代表とはいえ、この視線の数は緊張するようだ。


フィリアは列の中で、そっと空を見上げた。


青空。


雲一つ無い晴天。


胸の奥がざわつく。


その時、闘技場正面の巨大扉がゆっくりと開いた。


歓声が爆発する。


「生徒会だ!」


「ロイス様ー!!」


黄色い歓声が飛び交う。


先頭に立って歩いてきたのは、生徒会長ロイス・ヴェンジェンス。


整えられた銀髪、隙のない制服、柔らかな微笑み。貴族らしい優雅さと、舞台役者のような異質な存在感を同時に持つ少年だった。


その後ろに、副会長ゲイン、風紀委員長ヴィオラ、書記エレノアらが続く。


「うわ、人気すげぇな...」


「顔がいいからな」


「それだけじゃねぇだろ」


ガルとルーフが小声で言い合う。


ロイスは中央へ進み出ると、【声を拡げる力】を持つ司会者の隣で止まる。


歓声が徐々に静まる。

彼は一度、観客席を見渡した。


その仕草だけで場が支配される。


「少し、拝借」


司会者に軽く会釈をし、再び観客席へ振り返る。


「え?あ...」


『ーー皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。王立兵士養成学校生徒会長のロイス・ヴェンジェンスです』


穏やかな声が、闘技場全体へ澄み渡った。


【音を拡げる力】によって増幅されたロイスの声は、不思議と耳に優しく、遠くの観客まで自然に届いた。


『王都最大の祭典、竜樹奉納祭。こうして今年も開催して頂いたことを、本校を代表し、心より感謝申し上げます』


観客席から拍手が起こる。


ロイスは軽く一礼した。


『この祭りは、単なる自己誇示の場ではありません。我々が守るべきものを知り、自らの未熟さを知り、そしてーー未来へ何を託すのかを示すものです』


生徒たちの背筋が自然と伸びた。


『本日から行われる五つの競技ーー『隠』『疾』『剛』『兆』『闘』』


彼が指を上げるたびに空中に紫、青、赤、白、橙の光球が浮かび上がる。


観客席から感嘆の声。


『知恵、速度、力、資質、そして意志。』


『それぞれ異なる試練ですが、目指すのは一つです』


ロイスが微笑んだ。


『一位!...ではなく、己を知ること』


静寂。


誰もが言葉を待っていた。


『発表してからの二週間、いや、もっとずっと前から本校の後輩、同級生達はこの大会で勝つため、自己を証明するために努力してきたことでしょう。勝敗は大事なのは認めますが、全てではない。ここに立つ全ての生徒が、一般参加の方々が、未来のこの国の守護者としてどのような可能性を持つのか...それを皆様に見届けていただければ幸いです』


再び会場全体で拍手が起こった。


だがその中で、ロイスの視線がほんの一瞬だけ、フィリアの方へ動いたような気がした。


『それでは...』


彼は一歩下がり、右手を掲げた。


『王立兵士養成学校生徒会長、ロイス・ヴェンジェンスの名のもとに、竜樹奉納祭・武の開幕を宣言します!!』


ドォォォンと花火が空中で弾けた。


色とりどりの光が降り注ぎ、抑えられていた観客の歓声が爆発する。


旗が振られ、楽団が一斉に演奏を始めた。


「うっしゃあああ!!始まったぁ!!」


ガルが拳を突き上げ飛び跳ねる。


「声でかいって!」


アキトが慌てて止めようと振り返るが、ガルを筆頭に、もう誰も静かになどしていなかった。


熱狂。歓喜。期待。


闘技場は完全に祭りの渦に飲み込まれていた。


『オーマイゴッド!俺の力が生徒会長サンに使われちまった!?後で使用料は学校に請求させてもらうとして...ハハ、ジョークだぜ生徒会長サン!...それじゃ早速一緒に言おうか、生徒会長サン?!』


ロイスが困った顔をするが、すぐに察して司会者と肩を組んで言った。


『『それでは第一競技、【隠】を開始致します!!』』


まだ生徒達が掃け切らない競技場中央に、巨大な魔法陣が展開した。


白砂が光に飲まれる。

次の瞬間、地面に巨大な穴があき、その場に残っていた1,2年組が中へ吸い込まれていく。


「うおっ!?」


「なにこれ...!」


闘技場中央は数秒でもぬけの殻となった。

観客席上空には宙に浮いたが現れ、そこに映し出されたのは王都から少し離れた場所に位置する旧商業区。


「これも契約の力だってのかよ...?!」


第一種「強化」視覚強化系【視界を共有する力】の契約者が鳥と第二種「変化」【記憶を物に映し出す力】の契約者に自分の視界を共有し、それを第三種「操作」【自分の体重と同じ重さの砂を操る力】の契約者が闘技場中央の白砂を操って薄く広げ、その砂に中継された視界を映し出すことでこの映像を見せているのだ。



『あ〜、あ〜!声、聞こえてるよな?...参加者はステージ内に配置された“樹印”を三つ獲得せよ!制限時間はこの砂時計が終わるまでとする!!ルール説明だ!耳ん中かっぽじってよぉ〜く聞けよ!』


歓声が起こる。


『毎年恒例、戦闘、事故で壊された家屋や地形を修復する我らが一般人にとって欠かせない翠枝団、《繋》の協力によって行われる第一種目『隠』!!今回のステージは第四旧商業区だ!!...おっと、一応言っておくが住民の方々のケアはバッチリだぜ!?所有する物件が破壊された場合も修復団による完全修復の保証、そしてそして、今回の奉納祭・武の特別観覧席の無料チケットだぜぇ!太っ腹!』




『先も言ったが、この種目のクリア条件はステージ内に配置された“樹印”を三つ集めることだ!!樹印ってのはこれだぁ!』


そう言うと司会者は、手の平サイズの葉っぱの形の紋章が刻印された結晶を掲げる。


『“集めた”と判定されるのは樹印に三秒以上の接触だ!!樹印を三つ集めればその時点でクリアは確定するが、早く集めた順位も加点対象だぜ!皆ジャンジャン集めやがれ!!戦闘も許可されているが、その戦闘が一対一(タイマン)じゃないと判定されるたびに集めた樹印が一つ減るぞ!戦闘に途中参加したと判断された場合は減点はない!しかし自分より後に先頭に参加された場合は減点される!脱落、失格条件は、時間内に樹印を指定数集めきれなかった場合、相手の弱点部位への故意の攻撃、気絶、場外への接地、その他不正行為となっている!皆、ルール遵守で頼むぜぇ!?』



「なんでタイマンなんだ?」


ガルが特に誰に聞いた訳でもなく、純粋な疑問を呟く。


「多分、単純に理不尽な戦闘を減らすためもあるし、戦闘を長引かせると()()()()で実際の戦闘でも不利になる場合があるから、ここで隠密能力を試しているんじゃないかな?」


アキトが答えた。


「ほーん...よくわかんねーけど即終わらせりゃいんだろ?面白ぇじゃん」


「血気盛んだねぇ...ウチのクラスは誰が参加するの?ガルとルーフとフィリアが全部参加するのは覚えてるけど。あ、アタシも参加するよ!」


ジャネットが自分の胸に親指を立てた。


『んじゃま早速開始するぜ!!既に契約者になってる3、4年は()()()で競技を行うから、ヨロシク!上空のモニターから常に中継画面がノンタイムで映し出されるから、観客の皆さんはそのままでオッケー!!それじゃ行くぜぇ...?第一種目、「隠」!!開始ィッ!!』









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