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私の価値を測るには、この国の測定器では足りなかったようです。  作者: あとりえむ


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第7話:仕掛けられた罠

禁書庫でのあの日から、私の世界は大きく変わり始めていました。自分の内に眠る「最上位精霊・ガイア」の加護という真実、そしてそれを何よりも尊び、私という存在を丸ごと抱きしめてくださったアルカイド様の温もり。


四年間、暗闇の底で凍りついていた私の心は、彼の手によって完全に溶かされたのです。

しかし、運命の神様は、私たちにそれ以上の平穏をすぐには許してくれませんでした。


それは、アルカイド様が軍の緊急会議で王宮へと召集され、丸一日邸を空けられていた、よく晴れた午後のことでした。


「お嬢様、ローゼンブラウ伯爵家──ご実家からの使者が参っております。……何やら、非常に緊迫した様子で」

レイラが怪訝な表情を浮かべながら、一通の手紙を私に手渡しました。


不審に思いながらも封を切ると、そこには見覚えのある、殴り書きのような義兄ジュリアンの文字がありました。


『エルリアへ。至急、王都の北に位置する旧魔導兵器実験場まで来い。お前の実の父親が、新型魔導兵器の暴走実験に巻き込まれ、重傷を負って倒れている。彼を救うための「地属性の古い知識」を持つのはお前だけだ。もし来なければ、父親の命はないものと思え』


「そんな……お父様が!?」


私は息を呑みました。確かに父は私を無能と蔑み、離れに追いやり、公爵家へトカゲの尻尾切りとして差し出しました。けれど、私にとっては血を分けた唯一の父親です。彼が命の危機に瀕していると聞いて、見捨てることなど私にはできませんでした。


「お嬢様、罠ですわ! 閣下が不在のこのタイミングを狙うなんて、あまりにも怪しすぎます!」

レイラが私の袖を掴んで必死に引き止めます。


「分かっているわ、レイラ。でも、もし本当にお父様が危機に瀕しているのだとしたら、私は一生後悔することになる。……私には今、ガイアの力が眠っている。自分の身くらい、自分で守ってみせるわ」


私はアルカイド様の執務机に、行き先と事情を記した置き手紙を急いで残し、レイラを公爵邸に待たせて、実家の使者が用意した馬車へと飛び乗りました。それが、用意周到に仕掛けられた底なしの罠だとも知らずに──。


馬車に揺られること数時間。辿り着いたのは、鬱蒼とした木々が立ち並び、昼なお暗い精霊の古き森の奥深くにある遺跡でした。そこはかつて国が管理し、現在はローゼンブラウ家が払い下げを受けて新型の魔導兵器を極秘開発している実験場です。



不気味な静寂が漂う石造りの遺跡の中へ足を踏み入れると、背後で重々しい鉄扉がガシャン! と音を立てて閉まり、外から鍵がかけられました。


「──ようこそ、我が愛しの妹エルリア。まさか本当にノコノコとやってくるとはな。つくづくお前は、おめでたい頭をしている」


冷笑を浮かべながら暗がりから姿を現したのは、実のお父様ではなく、五つの魔導魔晶石を埋め込んだ大掛かりな杖を手にした、義兄のジュリアンでした。そしてその隣には、燃えるような紅蓮の瞳にどす黒い嫉妬の炎を宿した、セレスティア侯爵令嬢──エレノア様の姿もありました。


「ジュリアン義兄様……エレノア様……。お父様が重傷というのは、嘘でしたのね」

私が一歩退がりながら問うと、エレノア様は扇を激しく鳴らして高笑いしました。


「当然でしょう、そんなの! あなたのような無能を呼び出すための、ただの撒き餌よ! アルカイド様に色目を使って、私の公爵夫人の座を奪った泥棒猫……! あなたさえいなくなれば、アルカイド様は再び私のものになる。だから、ここで惨めに壊れてもらうのよ!」


エレノア様の顔は、かつての社交界の花形とは思えないほど、醜く歪んでいました。


「ジュリアン、始めなさい! その忌々しい女の顔を二度と見なくて済むようにして!」


「仰せのままに、エレノア様。我がローゼンブラウ家が開発した最新の魔導増幅装置『プロメテウス』の実験体として、その役立たずの身体を国のために捧げるがいい!」


ジュリアンが不敵な笑みを浮かべて杖を床に突き立てると、遺跡の中心に据えられていた、おびただしい数のパイプと歯車で構成された異形の魔導兵器が駆動を始めました。キィィィンという鼓膜を刺すような高周波の音が響き渡り、周囲の空間から強制的に魔力が吸い上げられていきます。


「やめて、ジュリアン義兄様! この場所は古い精霊たちの安息の地です。そんな禍々しい魔導の力で空間を歪めれば、土地の怒りを買いますわ!」

私は本能的な恐怖、大地の叫びを感じて叫びました。


「黙れ! 前時代の遺物たる精霊など、魔導技術の力でねじ伏せてくれるわ!」


しかし、ジュリアンの傲慢な叫びは、次の瞬間、絶望の悲鳴へと変わることになります。

過剰に魔力を吸い上げ、限界を超えて赤黒く発光し始めた『プロメテウス』の制御盤が、バチバチと激しい火花を散らして爆発したのです。


「な、なんだと!? 出力が制御できない!? 嘘だ、計算は完璧だったはずだ!」


ジュリアンがパニックに陥る中、遺跡の地面が激しく鳴動を始めました。ズズズ、と石畳が割れ、そこから溢れ出してきたのは、古き精霊の怒りが魔導の毒によって汚染され、異形へと変貌した古代の魔獣の黒い影でした。


「いやぁぁぁ! 何よこれ! 助けて、ジュリアン!」


エレノア様が悲鳴を上げて座り込みます。黒いヘドロのような魔力を纏った魔獣は、真っ赤な目を爛々と輝かせ、ジュリアンたち、そして私に向かって、その巨大な爪を振り上げました。


逃げ場のない閉ざされた遺跡。過剰な魔導兵器の暴走と、狂い狂暴化した魔獣の咆哮が響き渡る中、私は己の胸の奥で、再びあの「金色の光」が激しく脈打つのを感じていました。

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