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私の価値を測るには、この国の測定器では足りなかったようです。  作者: あとりえむ


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第6話:失われた力の真実

社交界の晩餐会が終わってからも、王都の騒めきは一向に収まる気配を見せませんでした。


誰もが恐れる「黒狼公爵」ことアルカイド様が、あろうことか「無能」と名高いローゼンブラウ家の令嬢を唯一無二の婚約者と宣言したのです。社交界のパワーバランスを揺るがすその大ニュースは、尾ひれをつけて国中に広まっていました。


けれど、私にはそんな周囲の喧騒よりも、どうしても解き明かさなければならない謎があったのです。


(なぜ、私の手が、私の身体が、アルカイド様のあの狂暴な魔力を一瞬で静めることができるの……?)


あの新月の夜、彼の寝室で感じた強烈な冷気と、それに応えるように私の胸の奥から湧き上がった、地深く流れるマグマのような熱。あの感覚が、どうしても頭から離れませんでした。


その答えを求めて、私は公爵邸の地下深くにある「禁書庫」へと足を運んでいました。アルカイド様が私にだけ特別に立ち入りの鍵を預けてくださったその場所は、厚い鉄の扉の向こうにあり、数百年前に封印された失われた精霊の皮や、古代語で書かれた分厚い魔導書がずらりと並ぶ、歴史の重みと静寂に満ちた空間でした。


「お嬢様、あまり無理をなさらないでくださいね。埃がすごいですから」


心配そうに扉の傍で見守ってくれるレイラに「大丈夫よ」と微笑み返し、私は薄暗いランプの光を頼りに、大地の意匠が施された古い本を棚から引き抜きました。実家の離れにいた四年間、私には本を読む時間だけが十分にありました。その時に独学で身につけた古代文字の知識が、今、ここで私を導いてくれるかのように。


何冊もの古書を紐解き、茶色く変色した頁を一枚一枚めくっていきます。そして、夜が更け始めた頃、私はついに、ある衝撃的な記述に目が留まりました。そこには、数百年前に途絶えたとされる「最上位精霊」についての驚くべき真実が記されていたのです。


『最上位なる地属性精霊・ガイア。それは単に大地や岩を操る下位の力にあらず。大地の奥底に万物の命を育み、すべての属性を内包して調和をもたらす、いわば大自然の母なる力なり』


その頁に描かれていた、複雑で美しい黄金の魔法陣の図形を目にした瞬間、私の胸の奥が、ドクン! と激しく、そして熱く脈打ちました。


間違いありません。

十四歳のあの日、精霊の再託宣式で感じた、あの身体が引き裂かれそうなほどの圧倒的な大地の脈動──その正体が、これだったのです。


では、なぜ国の最新の魔導測定器は、私の力を「ゼロ」と示したのでしょうか。私は震える指先で、さらに次の頁の細かな文字を追いかけました。


『ガイアの加護はあまりにも強大にして高次元なるが故に、人間の創り出し魔導の器ではその波長を感知すること能わず。高位すぎる神の領域の力は、凡庸な測定の目にはただの「虚無」として映るのみである』


「……あぁ……っ……」

視界が急激に滲み、ぽろぽろと大粒の涙が古い頁の上にこぼれ落ちました。


失われてなど、いなかった。

精霊に捨てられたわけでも、私が出来損ないだったわけでもなかったのです。


周囲から「無能令嬢」と蔑まれ、実の父親からも、義母や義兄からもゴミのように扱われた、あの孤独で惨めだった四年間。その苦しみの裏で、私の体内では、人間の技術では到底測ることのできない偉大な奇跡が、私を守るために静かに眠り続けていただけだったのです。


私は涙を拭い、さらに読み進めました。そこには、なぜ私がアルカイド様の暴走を止められるのか、その決定的な理由が記されていました。


『極限の闇と氷の魔力は、世界を拒絶し凍てつかせる破壊の象徴なり。これに対抗し得るは、すべてを包み込み、溶かし、再び生命を芽吹かせる最上位の地属性精霊のみ。二つの力が交わる時、大地は氷の狂気を調和へと導く「最上位の守護」となる──』


「そうだったのか」


不意に背後から響いた、低く重厚な声に驚き、私は勢いよく振り返りました。

いつの間にか禁書庫の階段を降りてきていたアルカイド様が、そこに立っていました。上着を脱ぎ、白いシャツの袖を軽く捲り上げた彼の姿からは、日中の冷徹な公爵としての鎧が外れ、どこか一人の男としての切実な雰囲気が漂っています。


「アルカイド様……いつからそこに……?」


「お前が部屋にいないと聞いて探していた。……やはり、私のこの呪われた魔力を静める鍵は、お前自身のその美しい力だったのだな」


アルカイド様は静かに私へと歩み寄り、埃っぽい床に座り込んでいた私の前に、そっと片膝をつきました。見上げる彼の銀色の瞳には、かつて社交界で見た冷酷さなど微塵もなく、ただ一人の女性として私を愛おしみ、敬うような、深く激しい情熱が揺らめいていました。


「魔力ゼロなどと抜かした実家の連中は、揃いも揃って節穴だな。エルリア、お前は無能などではない。誰よりも気高く、そして……私という怪物を救ってくれる、世界で唯一の救い主だ」


大きな、温かい手が私の頬をそっと包み込みました。彼の親指が、私の目尻に残った涙を優しく拭います。


「アルカイド様……私、信じてもらえなくて、ずっと苦しかった……」


「分かっている。これからは私が、お前の価値を世界中に知らしめてやる。お前を傷つける者は、私のすべてを賭けて叩き潰す」


彼の胸にそっと顔を埋めると、あの冷徹な黒狼公爵が、子供のように愛おしそうに私を強く抱きしめてくれました。自らの力の真実を知り、彼との絆を完全に確信したこの時、私はもう、過去の暗闇を恐れる必要はないのだと魂の底から理解したのです。


しかし、私の真の力が目覚めつつあることを、面白く思わない者たちがいました。私の実家であるローゼンブラウ家、そして嫉妬に狂ったエレノア。彼らが水面下で手を組み、恐るべき暴挙を企てていることに、私たちはまだ気づいていなかったのです。

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