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私の価値を測るには、この国の測定器では足りなかったようです。  作者: あとりえむ


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第5話:動き出す陰謀

新月の夜の暴走事件を経て、私とアルカイド様の間にあった見えない壁は、確実に溶け始めていました。

時折見せてくださる彼の眼差しには、契約の相手に対する以上の、深く切ないような色が混ざるようになっていたのです。


しかし、私たちが心を通わせ始めたのと時を同じくして、周囲の嫉堝と陰謀もまた、急速にその毒を強めていました。


「エスコートを。今夜は公式に、お前を私の婚約者としてお披露目する場だ」


アルカイド様が差し出してくださった高価な絹の手袋に包まれた手に、私は自分の手を重ねました。


今夜は王宮の別邸で催される、社交界でも特に格式の高い晩餐会。ヴァルハイト公爵の正式な婚約者として、私は否応なしに衆目の集まる表舞台へと立たされることになります。


私のためにアルカイド様が用意してくださったのは、夜空の紺青を映したような美しい最高級のドレス。私の髪と同じ色をしたその布地には、歩くたびにきらめく星屑のような魔導ダイヤモンドが散りばめられていました。



会場に私たちが足を踏み入れた瞬間、割れんばかりの静寂と、それに続く強烈な視線の嵐が私たちを襲いました。


「素晴らしい……まるで夜の女神のようだ」


「あれが本当に、ローゼンブラウ家の無能令嬢なのか?」


感嘆の声が上がる中、それを面白く思わない鋭い視線が一つ、まっすぐに私へと突き刺さりました。

洗練された美しい金髪に、燃えるような紅蓮の瞳。社交界の女王と名高い、セレスティア侯爵家の令嬢──エレノア様です。彼女は以前からアルカイド様の婚約者の座を狙っていたと噂されており、私を見るその瞳には、隠しきれない激しい憎悪が揺らめいていました。


アルカイド様が挨拶のために一時的に席を外された、その一瞬の隙を狙って、エレノア様は取り巻きの令嬢たちを引き連れ、優雅な足取りで私へと近づいてきました。


「まあ、ごきげんよう、エルリア様。ヴァルハイト公爵閣下のお飾りとしての生活は、さぞ居心地が良いのでしょうね」

エレノア様は扇で口元を隠しながら、ふっと冷ややかな笑みを浮かべました。


「お飾り、でございますか? エレノア様」

私が毅然とした態度で問い返すと、彼女は一歩踏み込み、周囲に聞こえるような声で尊大に言い放ちました。


「ええ、そうですわ。このエルディラ王国において、高位貴族の婚姻とは、優秀な魔力と加護を次代へ繋ぐためのもの。精霊に捨てられた魔力ゼロの無能なあなたに、公爵夫人の大役が務まるとお思い? あなたが隣にいること自体が、閣下の、そしてヴァルハイト公爵家の泥を塗る行為ですのよ。身の程を弁えなさいな」


周囲の令嬢たちから、クスクスと意地の悪い笑い声が漏れます。

実家にいた頃の私なら、ここでただ俯いて耐えるしかなかったでしょう。しかし、今の私には、守るべき約束と、私を信じてくれた大切な方がいます。


「エレノア様。私が無能であるかどうかを決めるのは、周囲の噂でも、あなたでもありません。私はアルカイド様に望まれ、ここに立っております。その選択を侮辱することは、ヴァルハイト公爵家、ひいては閣下への不敬にあたるとは思われませんこと?」


「なっ……!?」


まさか私が言い返すとは思っていなかったのでしょう。エレノア様は顔を怒りに染め、扇を激しく握りしめました。


「生意気な……! ただの出来損ないの分際で──」


彼女が感情を昂ぶらせて私を罵ろうとした、その時でした。


「そこまでにしてもらおうか、セレスティア令嬢」


氷の刃のように冷徹な声が、会場の空気を一瞬で凍りつかせました。

振り返ると、そこにはいつの間にか戻られていたアルカイド様が立っていました。その銀色の瞳には、これまで私に見せたことのないような、剥き出しの殺気と冷徹さが宿っています。


「あ、アルカイド様……! これは、その、私はただ彼女に社交界の洗礼を──」

エレノア様は一瞬で青ざめ、声を震わせました。


アルカイド様は彼女を一顧だにせず、まっすぐに私の隣へと歩み寄り、私の腰を抱き寄せて自らの身体へと引き寄せました。その力強い腕の温もりに、私の緊張がすっと解けていきます。


「私の婚約者を侮辱することは、この私が許さない。エルリアは私の唯一無二の婚約者であり、将来のヴァルハイト公爵夫人だ。彼女の価値を理解できぬ愚か者は、二度と私たちの前に姿を現すな」


アルカイド様の堂々たる宣言に、会場全体が息を呑みました。エレノア様は屈辱に唇を噛み締め、涙を浮かべながらその場を走り去っていきました。


私を庇ってくれた彼の横顔を見上げながら、胸が締め付けられるほどの愛おしさと、それと同時に、エレノア様の去り際の、狂気すら孕んだあの憎悪の眼差しが、妙に胸に引っかかるのを感じていました。この社交界の毒が、さらなる巨大な陰謀を引き起こす引き金になるとは、この時の私はまだ知る由もなかったのです。

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