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私の価値を測るには、この国の測定器では足りなかったようです。  作者: あとりえむ


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第4話:新しい日々

ヴァルハイト公爵邸での私の新しい生活は、驚くほど穏やかに、そして奇妙な温もりを伴って始まりました。


実家では、埃っぽい離れの図書室と冷たい食事だけが私の世界のすべてでしたが、ここでは違います。アルカイド様は「契約」だと言い切ったものの、私に用意してくださったのは、日の光がたっぷりと差し込む美しい一室と、一流の料理人が作る温かい食事、そして何よりも、私の最愛の侍女であるレイラが私の側にいられる環境でした。


「お嬢様、見てください! 今朝のスープ、信じられないほど美味しいですわ。公爵邸の使用人の皆様も、最初は恐る恐るという感じでしたが、皆様とても親切で……」


朝食のトレイを運びながら、レイラが嬉しそうに声を弾ませます。


「ええ、本当に。実家にいた頃が嘘のようですわね」


アルカイド様は日中、軍の政務や領地管理で大変お忙しく、私が彼とお会いするのは主に夕食の席や、夜の短い時間だけでした。

冷酷無比と噂される彼ですが、実際に接してみると、その印象は少しずつ変わっていきました。彼はただ、嘘や打算で近づいてくる人々を極端に嫌っているだけで、言葉数は少ないものの、非常に理性的で細やかな気配りをしてくださる方だったのです。


ある日の夕食後、私は彼のために、実家から持ってきた古いハーブの茶葉を使ってお茶を淹れました。実家では誰にも見向きもされなかった、大地の力をかすかに含んだ野生のハーブです。


「……変わった香りがするな」

アルカイド様は不審そうに眉をひそめながらも、上品にカップを口に運びました。そして、一口飲むと、かすかにその銀色の瞳を丸くしたのです。


「どうでしょうか……お口に合いませんでしたか?」

私が不安になって尋ねると、彼はふいと視線を斜め下に落とし、少し決まり悪そうに答えました。


「いや、悪くない。……不思議と、胸の奥の不快な冷気が和らぐ感覚がする」


「それは良かったですわ。大地の精霊が好むお茶ですので、少しでもアルカイド様の心が安らげばと思ったのです」


私が微笑むと、アルカイド様は私の顔をじっと見つめました。その真剣な眼差しに、私の鼓動がトクンと跳ね上がります。


「お前は……私が怖くないのか? 社交界の連中は、私の顔を見るだけで怯えて逃げ出すか、さもなくば権力を求めて媚びを売るかのどちらかだというのに」


「最初は、とても威厳のある方だと思いましたわ。でも、アルカイド様は私を決して無能と蔑まず、一つの存在として必要としてくださいました。そんなお優しい方を、どうして怖がることができましょう」


私の言葉に、アルカイド様は驚いたように息を呑みました。そして、大きな手で口元を覆い、耳の先端をかすかに赤く染めながら、ぽつりと呟いたのです。


「……お前は、本当に変わった女だな」



それからの日々、私たちは少しずつ距離を縮めていきました。

私が公爵邸の広大な図書室で本を読んでいると、彼が仕事の合間にふらりとやってきて、隣の席で黙って書類を読み始めることもありました。会話は多くありませんでしたが、そこには確かに、心地よい沈黙の時間が流れていたのです。




しかし、そんな穏やかな日々は、ある新月の夜に一変しました。


激しい風の音で目を覚ました私は、胸の奥が騒がしく脈打つのを感じました。本能的な胸騒ぎに駆られ、ドレスの上に薄い羽織りを引っ掛けただけで部屋を飛び出し、アルカイド様の寝室へと向かいました。


扉の前に立つと、隙間から漏れ出てくる刺すような冷気と、ゴオオオという地鳴りのような音が聞こえてきます。


「アルカイド様!」


私が静止を振り切って扉を開けると、そこは完全に凍りついた世界でした。

床も壁も真っ白な霜に覆われ、部屋の中央で、アルカイド様が胸を押さえて激しく息を荒くしていました。彼の身体からは、制御を失った闇と氷の魔力が、目に見えるほどの黒い霧となって噴き出しています。


「くっ……来るな、エルリア! 離れろ……今の私は、お前すら凍らせてしまう……!」

彼の銀色の瞳は、苦痛と恐怖に血走っていました。己の力で大切な者を傷つけることを、何よりも恐れているかのように。


「嫌ですわ!」

私は躊躇うことなく、滑る床を駆け抜け、彼の元へと飛び込みました。


冷気が私の肌を刺し、凍りつきそうなほどの激痛が走ります。しかし、私は力を振り絞り、彼の固く強張った大きな身体を、正面からぎゅっと抱きしめました。


「アルカイド様、私を見てください。私はここにいます。あなたを一人にはいたしません!」


私の胸の奥から、あの日以来眠っていたはずの、地深く流れるマグマのような温かな熱がブワリと溢れ出しました。その黄金の光を帯びた大地の温もりが、私の身体を通じて、アルカイド様の凍てついた身体へと流れ込んでいきます。


「あっ……」

アルカイド様が低く声を漏らした瞬間、部屋を狂暴に吹き荒れていた氷の嵐が、嘘のようにピタリと止みました。


壁の霜がサラサラと溶けて水滴へと変わっていく中、彼は私を壊れ物を扱うかのように恐る恐る、しかし力強く抱き返してきたのです。


「……エルリア。お前は、本当に……」



彼の腕の強さと、耳元で聞こえる激しい鼓動。


私は彼の胸の中で、自分の顔が赤くなっていくのを自覚しながら、私たちの「契約」が、もうただの利害関係だけでは片付けられなくなっていることを、静かに悟ったのでした。

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