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私の価値を測るには、この国の測定器では足りなかったようです。  作者: あとりえむ


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第2話:黒狼公爵との邂逅

王都ルミナスの中心にそびえ立つ、白亜の白金宮殿。その大夜会会場は、私の知る離れの静寂とは完全にかけ離れた、光と香水の匂いが渦巻く眩い別世界でした。


天井に吊るされた巨大な魔導シャンデリアが、何千もの結晶の光を放ち、床に敷き詰められた大理石を鏡のように照らし出しています。着飾った貴族たちが談笑し、グラスを傾けるその華やかな空間の片隅で、私はただ一人、壁際に佇んでいました。


レイラが一生懸命に仕立て直してくれた、控えめな淡い緑色のドレス。それは私にとっては最高に愛おしいドレスでしたが、最先端の魔導シルクや極彩色の宝石を散りばめた他の令嬢たちの前では、あまりにも地味で、まるで場違いな迷い子のようでした。


「おや、見ろよ。あれはローゼンブラウ家の無能令嬢じゃないか?」


「まあ、本当にいらしていたのね。精霊の加護を失って、お屋敷の離れに引き籠もっていると噂の……」


「今夜はジュリアン様の新しい魔導器具の発表があるのだろう? その引き立て役として、わざわざ連れてこられたらしいぞ」


ひそひそと囁かれる悪意ある声が、容赦なく私の耳に届きます。

少し離れた中央の円卓では、義兄のジュリアンが、周囲の貴族や出資者たちに囲まれ、得意げに胸を張っていました。


「我がローゼンブラウ家の魔導技術は、前時代の古い精霊信仰など遥かに凌駕するものです! その証拠に、精霊にそっぽを向かれた我が妹を見れば、どちらがこれからの王国を担うべきか、一目瞭然でしょう!」


ジュリアンが私を指差すと、会場の視線が一斉に私へと集まり、ドッと下品な笑い声が湧き起こりました。

羞恥と悔しさで、私の身体がかすかに震えます。床を見つめ、ただ早くこの時間が過ぎることだけを願っていました。その時です。


不意に、会場を包んでいた騒がしい熱気が、まるで一瞬にして凍りついたかのように静まり返りました。

入り口の方から、コツ、コツ、と軍靴が床を叩く規則正しい音が響いてきます。その圧倒的な存在感に気圧され、貴族たちが波が引くように道をあけました。


そこに現れたのは、漆黒の軍服を完璧に着こなした、一人の美しい男性でした。

夜を切り取ったかのような艶やかな黒髪に、すべてを見透かすような、凍てつく銀色の瞳。長身で、歩く姿一つにすら軍人としての隙のない洗練された風格が漂っています。


「……ヴァルハイト公爵閣下だ……」


「黒狼公爵が、なぜこのような夜会に……?」


周囲の怯えを含んだ囁きで、私はその方が誰であるかを知りました。アルカイド・フォン・ヴァルハイト公爵。若くして国の軍権を握り、王国最強の「闇と氷の魔力」を持つと言われる、冷徹無比な社交界の怪物。


アルカイド様は、媚びを売ろうと近づく高位貴族たちを冷ややかな一瞥で退け、まっすぐに歩みを進めてきました。その進路の先にあるのは──なぜか、私が立ち尽くしている壁際でした。


息が止まりそうでした。彼が近づくにつれ、周囲の温度が物理的に下がっていくような、圧倒的な氷の魔力が肌に伝わってきます。しかし、その冷気の中に、私は不思議な感覚を覚えました。彼の奥底で、今にも暴走しそうなほど激しく渦巻く、狂おしいまでの魔力の「歪み」。そして、私の胸の奥に眠る大地の力が、その冷気に呼応するように、ドクンと小さく脈打ったのです。



アルカイド様は私の目の前で足を止めました。

見上げるほどに高い視線から、鋭い銀色の瞳が私をじっと射すくめます。値踏みするような、しかしどこか焦燥を秘めたその瞳に、私は完全にすくんでしまいました。


「……お前が、ローゼンブラウ家のエルリアか」

低く、地響きのように心地よい声が、私の耳に届きました。


「は、はい……エルリア・ヴァン・ローゼンブラウでございます、公爵閣下」

私が精一杯の礼を捧げると、彼は躊躇うことなく、その大きな手で私の右手をそっと取りました。


「っ……!」

その瞬間、電流が走ったかのような衝撃が二人を駆け抜けました。


私の中に眠る大地の温かな力が、彼の冷たい手を伝って、彼の中に流れ込んでいくのが分かりました。同時に、彼を苦しめていたはずの、周囲を凍らせるほどの刺すような魔力の歪みが、嘘のようにすっと凪いでいったのです。


アルカイド様の銀色の瞳が、驚愕に大きく見開かれました。

彼は私の手を強く握り締め、まるで世界に私たち二人しかいないかのような真剣な眼差しで、ぽつりと呟いたのです。


「間違いない……。お前が、私の探していた人間だ」


衆衆の面前で、誰もが恐れる黒狼公爵に手を握られている私。そして、その様子を遠くから目を見開いて凝視しているジュリアンたちの顔が見えました。

私の平穏で惨めだった日常が、この瞬間、音を立てて崩れ去り、新たな運命へと回り始めたことを、私は確信せざるを得ませんでした。

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