第六話 病室の夜
気づけば、病院の待合室にいた。
白い。
壁も、床も、天井も。
何もかもが白すぎて、現実感がなかった。
「神谷くん」
名前を呼ばれ、顔を上げる。
凛の母親だった。
その表情を見た瞬間。
胸の奥が冷たくなる。
「先生から、お話が……」
それから聞かされた内容は、半分も頭に入らなかった。
難しい病名。
前から入退院を繰り返していたこと。
最近、急激に悪化していたこと。
そして。
「……今の状態だと、かなり厳しいかもしれません」
医師の声だけが、やけに鮮明だった。
厳しい。
助からない。
その言葉を、頭が拒絶する。
「そんなの……」
掠れた声しか出なかった。
凛が。
死ぬ?
あいつが?
さっきまで笑ってたのに。
昨日まで普通に話してたのに。
そんなの。
納得できるわけがなかった。
夜。
面会時間はとっくに過ぎていた。
それでも俺は、病室の前から動けなかった。
静かな廊下。
遠くで聞こえる機械音。
雨が降っていた。
窓を叩く音だけが、やけに響く。
病室の中。
凛は眠っていた。
点滴。
青白い顔。
知らない姿だった。
「……なんで言わなかったんだよ」
返事はない。
言えるわけがない。
それでも。
そう言わずにはいられなかった。
「俺、何も知らなかった……」
情けなかった。
隣にいたつもりだったのに。
何も気づけなかった。
「助けたい?」
不意に。
声がした。
病室の入口。
そこに、誰かが立っていた。
白い服。
夜の病院に溶け込むような銀髪。
男とも女ともつかない、静かな顔。
知らないはずなのに。
なぜか一瞬で理解した。
人間じゃない。
「……誰だよ」
「名前に意味はない」
そいつは凛を見つめながら、淡々と言う。
「彼女は、本来ここで終わる命だ」
「……っ」
「だが」
静かな声だった。
なのに、妙に耳に残る。
「君が望むなら、方法はある」




