前へ目次 次へ 16/19 第十六話 完全忘却 二学期初日。 教室へ入った瞬間、嫌な静けさを感じた。 凛が。 俺を見ていた。 初対面を見るみたいな目で。 「……えっと」 凛が困ったように笑う。 「ごめん、誰だっけ」 世界が止まった。 周囲の声が遠い。 心臓だけが、うるさいくらい鳴っている。 「雨宮?」 クラスメイトが驚いた声を上げる。 「え、神谷じゃん」 「……神谷?」 凛は首を傾げる。 本当に。 分からないみたいに。 「私、その人知らない」 その瞬間。 胸の中で、何かが完全に壊れた。