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第1章 モニカと老人

石段を上がり、小さな木の扉を開けた瞬間だった。


「……モニカ?」


暖炉の前で編み物をしていた女主人が、顔を上げる。


そして、モニカの肩にもたれかかる老人を見るなり、眉をひそめた。


「何を連れてきたんだい」


その声には、驚きより先に警戒が混じっていた。


老人は咳き込む。


湿った呼吸音が、静かな部屋へ小さく響く。


女主人は露骨に顔をしかめた。


「やめときな。そういうのは教会の仕事だろう」


モニカは答えなかった。


老人の身体は思った以上に冷えている。


外套は雪で濡れ、指先は白く強張っていた。


「死にかけじゃないか」


女主人は椅子から立ち上がり、少し距離を取った。


「もし病だったらどうするんだい。家にまで厄介を持ち込んで」


その言葉を聞いた瞬間、モニカの胸の奥で何かが微かに引っかかった。


厄介。


忙しい夜。


疲れ切った声。


『また来たの?』


誰かが、そんな風に言っていた。


けれど、その続きは霧みたいにぼやけている。


老人が小さく呻いた。


モニカは我に返り、肩へ回された腕を支え直す。


「少しだけです」


自分でも驚くほど静かな声だった。


「暖まれば、少しは……」


女主人はしばらく黙っていた。


暖炉の火が小さく鳴る。


やがて彼女は深いため息をつき、呆れたように首を振った。


「……床を汚さないでおくれよ」


それだけ言うと、再び椅子へ腰を下ろす。


モニカは小さく頭を下げ、老人を寝台へ運んだ。


痩せた身体は驚くほど軽く、毛布の上へ横たえた瞬間、まるで積もった雪みたいに静かだった。

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