ep4.朝の粥
翌朝。
雪は少しだけ弱くなっていた。
窓の外には薄い朝の光が広がり、白く煙る街並みがぼんやり見える。
暖炉には新しい薪がくべられ、部屋には豆を煮る匂いが漂っていた。
モニカは椀へ粥をよそい、小さく息を吹きかける。
少年の熱はまだ高かったが、昨夜より呼吸は少し落ち着いていた。
咳は出る。
けれど、肩だけで喘ぐような呼吸ではなくなっている。
モニカはその変化を静かに見ていた。
『……何してんだ』
寝台から掠れた声がする。
少年が半分だけ目を開けていた。
『食べられそうですか』
少年は眉をしかめる。
『いらねぇ』
その直後、腹が小さく鳴った。
女主人が吹き出す。
『立派な腹だねぇ』
少年は顔を真っ赤にして毛布を引き上げた。
モニカは少しだけ目を細める。
『少しだけでも』
椀を口元へ運ぶ。
少年はしばらく睨んでいたが、やがて観念したみたいに口を開けた。
熱い粥を飲み込む。
その瞬間、驚いたように目を瞬く。
『……うまい』
女主人が鼻を鳴らした。
『豆粥ごときで大袈裟だよ』
けれど、その声は少しだけ嬉しそうだった。
少年は黙ったまま、もう一口食べる。
その様子を見ていた時だった。
ふいにモニカの胸の奥へ、また記憶が流れ込んできた。
病室。
朝食の時間。
起き上がれなかった患者が、少しだけ粥を食べられた朝。
『今日は食べられましたね』
誰かへ向けた自分の声。
その時の、小さな安堵。
モニカは小さく息を呑む。
少年はそんな彼女を見て、不思議そうに眉をひそめた。
『……あんた、時々変な顔するな』
モニカは少しだけ目を伏せる。
『そうですか』
少年は粥を飲み込みながら、小さく呟いた。
『でもまぁ……嫌いじゃねぇけど』
暖炉の火が、静かに揺れていた。




