ep2.熱を持つ手
暖炉の火が、静かに揺れていた。
外では雪が降り続いている。
少年は寝台へ横になっていたが、呼吸はまだ浅く速かった。
熱のせいだろう。
時折、小さく眉をしかめ、苦しそうに咳き込む。
女主人は呆れた顔で鍋をかき混ぜていた。
『今度は子どもかい』
モニカは濡らした布を絞りながら、小さく『すみません』と答える。
女主人は鼻を鳴らした。
『謝るくらいなら拾ってくるんじゃないよ』
そう言いながらも、鍋には最初より少し多めに豆が入っていた。
モニカは何も言わなかった。
ただ、少年の額へ布を乗せる。
熱い。
汗で前髪が額へ張りついている。
少年はうっすら目を開けた。
ぼんやりした目だった。
『……どこだよ』
『暖かい家です』
少年は小さく顔をしかめる。
『そういうの、信用してねぇ』
掠れた声。
その直後、また咳き込む。
胸の奥で濡れた音が鳴った。
モニカは反射みたいに背中へ手を入れ、少し身体を起こす。
呼吸が楽になる角度を探す。
その手つきは、やはり自然すぎるほど自然だった。
少年は荒い息のまま、小さく呟く。
『……慣れてんな』
モニカの手が止まる。
暖炉の火が、小さく弾けた。
遠い記憶。
夜勤。
ナースステーション。
疲れた笑い声。
『モニカさん、今日リーダーでしたっけ』
誰かがそう言った気がした。
けれど、その顔が思い出せない。
頭の奥が少し痛む。
モニカは静かに目を閉じた。
少年はそんな彼女を見ながら、小さく笑う。
『変な奴』
その笑い方は、老人とは違った。
まだ生きる側の笑い方だった。
モニカは少しだけ目を細める。
暖炉の火が、静かな部屋を赤く照らしていた。




