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「……テーヘンさん……」
「何です?」
「友達……傷つけないためには、どれが上がればいいのかなあ……?」
言いながら……喉の奥から熱いものがこみ上げてくるのがわかった。
「お友達……ですか」
「いい子なんだ。なのに……」
きっとユカは、ヒグチくんならあたしを傷つけたりしないって、わかってた。
だから、仲介役なんて引き受けたんだ。
自分の好きな人なのに。
あたしがきっと断るだろうからいいや、って……そんな風に思う子じゃない。
今までの人とは違うよって。
ちゃんとカナを見てる人がいるんだよって。
ユカのことだから、ヒグチくんに自分をアピールすることなんて……恥ずかしくてできなかっただろう。
きっと、あたしの話をしてたんだ。
「あの子はね、見た目ほど派手じゃないんだよ」
「ちょっと考えナシのところもあるけど、憎めないんだ」
「男子をフッてばかりで振り回してる、なんて言われてるけど、その分自分も傷ついてるの」
ヒグチくんは、そんなユカの話を聞いて、あたしに興味を持ってくれたのかもしれない。
何で今になって……そんなことわかるんだろう。
あの時もっと、ちゃんとユカの気持ちがわかっていれば……。
「そうですねぇ……」
テーヘンさんはあたしの手にあるレシートをじーっと覗きこんだ。
「やはり『思考』でしょうかねぇ。客観的、論理的に物事を捉える」
「『思考』かぁ。あたし……ダメダメだもんなぁ」
16ptしかないや。ははは……。
だからユカにも、よく叱られるんだよね。考えナシだって。
「しかしお客さまは『感情』的ではありませんからね。『感覚』もまぁまぁ優れてらっしゃる」
「え……」
感情……21pt。感覚……62pt。
「自分の見聞きした感覚を大事にされる方です。そのお友達の言葉を、大事にされてはいかがでしょう?」
「……」
――カナなら、わかってると思った。
――何で勝手に決めちゃうの?
「……そうだよね」
ユカはあたしの言葉に傷ついて、もうあたしの顔なんか見たくないと思ってるって……そう決めつけてた。
だから、早退しちゃったんだって。
でも……違うかもしれない。
「で、どうされます? 内向性をちょっと削りましょうか。で、思考にもうちょっとptを上乗せして……」
「テーヘンさん、ごめん。あたし、ゲームに参加できないや」
「な……何ですと!?」
テーヘンさんは驚きの声を上げると、その場でぐるぐる回り出した。
ピンクのウ●チのダンスに、思わず笑ってしまう。
雨はいつの間にか止んでいた。
あたしは傘を畳むと持っていたレシートをテーヘンさんに返した。
「もう、雨も止んだし大丈夫だよね」
「ちょ、ちょ……お客さん、こ、こんなことは、もう……」
「本当にごめん。でもね、今まっさきにやらないといけないことがあるからさ!」
「それは……」
「早く行かなきゃ。ごめん、またね――!」
あたしはテーヘンさんに手を振ると、とにかく走り始めた。
まずユカに謝らなきゃ。
一番当たり前のこと、やってないよ。
どう考えても、ゲームの世界で遊んでる場合じゃない。
「あ……」
そうだ、テーヘンさんにもお礼を言うの、忘れちゃった。
テーヘンさんのおかげで、何かスッキリしたのに。
……そう思って振り返ったけど、浮き輪に乗ったピンクのウ●チは、もう見当たらなかった。
◆ ◆ ◆
「はあ……」
テーヘンはカナコに押し付けられたメモを眺めると、溜息をついた。
「『また』なんてありゃあしませんよ。……それにしても、なかなかいいサンプルになりそうなお嬢さんだったのに……」
もう一度、じっくりとパラメータを眺めてみる。
「まぁ……直感の優れた方ですからね。あのタイミングで断るのがベストの選択だったのでしょう……きっと」
そう呟くと、そのまますうっと姿を消した。
”はぁ~~、えんや~こら~あ~~。つぎぃの~、お客さまの~、もと~へぇ~~”
お読みいただき、ありがとうございました。<(_ _)>