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新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ  作者: 条文小説


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3-9 天目山の「閉鎖ルート」と裏切りの連鎖

挿絵(By みてみん)


三河物語みかわものがたり』は、江戸時代初期の、旗本の大久保忠教による著作。戦国時代から江戸時代初期を知るための史料とされることもあるが、徳川史観による偏った記述により資料としての正確性は欠如している。出典:Wikipedia

 よう、また会ったな。三河の「真実の記録ログ」の番人、大久保彦左衛門だ。


 武田信玄という最強のレイドボスが死去ロストし、息子の勝頼が跡を継いだ。だが、平和が訪れるどころか、武田サーバーの内部には致命的な「崩壊」が始まっていた。


 天正十年(1582年)の春。かつて日本中にその名を轟かせた武田家が、一気に「サービス終了」へと追い込まれる。今日は、そのあまりにも残酷で、けれど武士の意地が光った最後の記録ログを語ってやろう。


 織田信長親子が「高遠城」を力攻めで落とすと、武田の屋台骨はガタガタと崩れ始めた。勝頼は本拠地へ戻ろうとしたが、かつての「譜代の重臣」たちは、次々と逃亡していった。


 そんな中、小宮山内前こみやまないぜんという男がいた。彼は以前、勝頼の不興を買って謹慎を食らっていた身だ。一方で、勝頼に最も重用されていた小山田将監しょうげんは、主君を真っ先に見捨てて逃げ出していた。内前は弟にこう言った。


「俺は勝頼公に冷遇されていたが、先祖代々この家に仕えてきた筋目の者だ。最期に供をして腹を斬る」


「兄貴、俺も行くぜ!」と弟・又七郎が志願するが、内前はそれを止めた。


「お前は生き残って、親や女房子供を守れ。俺が死ぬのは勝頼公への恩返しじゃない。先祖の名を汚さないためだ。」


 内前は、死を覚悟して勝頼の前に現れた。そして、こう言い放った。


「殿、おそれながら申し上げます。あなたが膝元に置いて信頼していた小山田将監は、真っ先に逃げました。逆に、あなたが『使えない』と遠ざけたこの俺が、最期までお供に参りました。殿、あなたの『眼力』は、これほどまでに間違っていたのですよ。だが俺は、先祖の忠節を立て、あなたの最期の供として死にます。それが譜代の意地というものです。」


 冷遇されていた男が、最期に主君を論破して共に死ぬ。これが、戦国ガチ勢の美学ってやつだな。


 勝頼はわずか数人のパーティー(最後は5〜10騎)で逃げ回った。親族の穴山梅雪は寝返り、頼りにしていた小山田信茂からも入城を拒否された。


 最終エリア「天目山」に逃げ込もうとしたが、そこにはかつての仲間・甘利甚五郎たちが先回りして、鉄砲を撃ち込んでくるという地獄の「出待リスキルち」が待っていた。もはやこれまで。勝頼一行は河原に皮を敷き、最期の休息をとった。


 追手が迫る中、跡部あとべ尾張守という重臣が、主君を置いて自分だけ逃げようとした。それを見た土屋 惣蔵そうぞうは激怒した。


「おい、跡部! 今さらどこへ逃げるつもりだ!」


 惣蔵は弓をギリギリと引き絞り、逃げる跡部を狙撃。矢は見事に跡部のど真ん中を貫き、馬から射落とした。


「どうせ死ぬなら、主君の供をして名を残せ。汚いログを残して死ぬのは、武士として一番の恥だ。」


 その後、惣蔵は一人で大勢の敵をなぎ倒して戻り、勝頼とその息子の介錯を務め、自らも十文字に腹を斬って三途の川へ同行した。この土屋惣蔵の最期は、古今稀に見る忠義だと賞賛された。


 勝頼親子の首は、信長公のもとへ届けられた。信長公はその首をじっと見つめ、こう呟いたという。


「……日本に隠れなき名門の弓取プレイヤーりであったが、運が尽きたのだな。」


 武田が滅びても、内前や惣蔵のような「譜代の魂」の記録は、今も消えずに残っている。




【三河物語 作:大久保忠教 国民文庫刊行会 1912年】




さてまた天正十年〈壬午〉之春、木曽勝頼へ手がはりをして、信長を引ければ、信長親子は高遠へ御出馬有りて、高とうの城を責取給ふ。勝頼はすはへ御出馬有けるが、高遠の落城之由を聞召而、すはよりかい之国へ引入り給へば、はや御普代之衆もこと〴〵く、おちちりてなかりければ、いかゞせんと思召処に、有合衆も御供をせんか、何とせんとてさゝめきけり。小宮山内前はおくにて召つかわれ申せ共、御意にそむきて有ける。小山田将監も内前と両天成が、是はかわらずしゆつとう成けるが、勝頼を見捨て奉りて早落行く。其時小宮山弟に申けるは、我は御勘気をかうむると申共、我先祖御代々へ御無沙汰なき筋め之者なれば、此度御供申而腹をきるべきと申ければ、弟之又七郎も、我も是非共に御供せんと申せば、内前申様は、勝頼之御情忝なくて御供申にあらばこそ、我がせんぞの御忠節、又は御普代之筋めなれば、祖父をうぢ、親、先祖の名をくたさじとのためにお供を申成。なんぢは命ながらへて、親をかこち、又は我等が女子をかこちて、かばねのうへのはぢをかゝざる様に頼入成とて、親又は女子を弟にあづけおきて、勝頼の御前に参、我は日比御勘気をかうむるとは申せ共、是非共御供可仕、御ゆるされ給へ。然とは申せ共、我等が五しやくにたらざる身をもちかね申たる事之御座候。それをいかにと申に、君之御眼前がんぜんをちがへじと仕候へば、我が先祖せんぞの御忠節又は御普代ふだい之御内之者之かいもなし。又先祖せんぞの御ちうせつを申立御普代之御主様之御用立御供を申せば、きみ之御眼前がんぜんをちがい申、其をいかにと申上候に、おなじごとくに、召つかはされ候処に、某をば御用にも罷立間敷と思召而、御かんをかうむらせ給ふ。小山田将監には御心をおかれず、御用にもたゝんと思召而、御ひざもと近く召つかわされ申将監は、欠落ち仕候処に、又御用にも罷立間敷と思召候内前めが、御最後に罷出、おそれながら御直談に御勘当御赦免之御わび事を申上而、御供仕而腹をきり申候事は、さて日比の御眼がんりきはちがい不申哉。然共先祖の御ちうせつを立、御普代之御主様之御さい後の御供こそ、何よりもつて目出度とて御供をこそしたりけり。扨又武田之梅雪ばいせつも勝頼之ためには姉婿あねむこにて有りけるが、府中寄御前ぜんをぬすみ出して下山へ引のけ給ひ而、勝頼にぎやくしんをし給へば、いよ〳〵何れも勝頼をすてゝかけおちをしたり。家康は駿河よりもいらせ給へば、田中之城を、依田右衛門督がもつ。まりこの城をやしろ左衛門がもつ。とうべの城をば朝比奈がもつ。久のの城をば寄合にもつ。あな山は御味方に成たるとは申せ共、未ゑじり之城をもちていたる間、此城々をおさめて蒲原にてあな山とたいめん有りて、あな山を押立給ひて市河へ御付有而御陣取せ給へば、信長はすわに御陣之取せ給へば、先手は新府に付。家康は道々之城々に御隙をつくし給ふ。それのみならず道之程も岐阜と浜松をくらぶれば、浜松からは三日ほども遠からんに寄而、すこしおそくいらせ給ふ成。勝頼は早こと〴〵く御内之衆もちり〴〵に、主をすててかけおちをしたりければ、わづか五十騎三十騎之ていにならせ給ひて、新府を天正十年〈壬午〉三月三日に、御前を引つれさせ給ひ而、出させ給ひ、郡内ぐんないの小山田方へ御越有らんとて、小山田八左衛門と云者を先様指つかわせ給へば、小山田も心がわりをしてよせ奉らざれば、八左衛門も帰りこず。其寄只今迄御供したる者供も、ちり〴〵に成而、早五騎十騎之体にならせ給ひ而、天目山へ入せ給はんと被成ければ、てんもく山へは御書代久数甘利あまり甚五郎と大熊新右衛門が婚舅、先に入而手がわりをして、矢てつぱうを出していかけ打かけければ、かなわせ給はで、御前御曹子ともに河原に敷皮しきがはをしかせてやすらわせ給ひける処に、あとより程なく敵がおひかけければ、土屋惣蔵指むかひける所に、跡辺尾張守は爰をはづしておちゆくを、惣蔵是を見て尾張は今にいたつて、何方へおちゆくぞとて、能つ彎いてはなしければ、尾張もうんやつきけん、土屋が矢がはしりわたつて、まつたゞなかをいとおしければ、馬よりしたへおちければ、よせくる者がすなはちくびを取、とてもの黄泉よみぢならば花々と勝頼之御供をするならば、土屋同前に其名をあげて、名をかうたいにのこすべきを、おなじよみぢと申ながら、普代之主のせんどをはづして、其場をかけおちして、土屋に射ころされ申事を、にくまぬ者はなし。土屋はそれ寄矢束ねといて押みだし、さし取引つめさん〴〵にいてまわり、おゝくの敵をほろぼしてとつて帰、御前と御そばの女房達に御いとまをまいらせ給ひ而、勝頼と御ざうしの御かいしやく申而、其身も腹十文字にきりて、死出三途の御供申たる土屋惣蔵が有様、上古もいまも有がたしとほめぬ者はなし。其後に勝頼御親子之御しるしを、信長之御目にかけければ、信長御覧じて日本にかくれなき弓取なれ共、運がつきさせ給ひて、かくならせ給ふ物かなと被仰けり。

〜参考文献〜

三河物語(国民文庫刊行会 大正元年)- Wikisource

https://share.google/jJTiQMFkLIRfryR6a


〜舞台背景〜

 この作品では原典を併記していますが、これがなかなか厄介で、単にWikiなどから貼り付けると元のルビが崩れて文章がグチャグチャになります。そのため原文の体裁は、ストーリーを考える数倍の手間を掛けて整えています。

 せっかくなので、小説と原文を見比べながら、原典の雰囲気を感じてもらえたらと思います。

 この「小説+原文併記」という形式は、たぶんなろうではあまり見ない試みだと思います。

 もし面白い試みだと思って頂けたら☆5とは申しませんが、☆3〜4くらい頂けると嬉しいです。

 逆に「ウ~ン」と思われた方は、遠慮なく☆1で意思表示して頂ければと思います。率直な感想として謹んで承ります。

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