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新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ  作者: 条文小説


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12/21

1-11 広忠公の「神スピーチ」――リーダーの意地と恥

挿絵(By みてみん)


 『三河物語』(みかわものがたり)は、江戸時代初期の、旗本の大久保忠教による著作。戦国時代から江戸時代初期を知るための史料とされることもあるが、徳川史観による偏った記述により資料としての正確性は欠如している。出典:Wikipedia

 よう、また会ったな。三河の語り部、大久保おおくぼ彦左衛門ひこざえもんだ。


 前回、若君・松平まつだいら広忠ひろただ公が執念の「城奪還レイド」を成功させ、ついに三河の管理権限を取り戻した話をしたな。


 だが、本当の「攻略」はここからだ。城を獲ったあとに待っているのは、血生臭い合戦だけじゃない。近隣ギルドとの同盟アライアンスや、内部メンバーの管理モチベーションあげっていう、最高難易度のミッションが始まるんだ。


 今日は、広忠公が見せた「神対応」の記録ログを語ってやろう。これが三河武士の忠誠心をカンストさせた伝説のエピソードだ。


 広忠公は岡崎に戻ると、まずは外交パッチを当てた。苅屋かりやの水野家と組むために、妹婿いもとむことなって於大おだいの方を迎え、竹千代(後の家康公)を授かった。だが、水野家が織田へ移籍したことで、彼女を実家へ送り返すという非情な同盟アライアンス解消を経験する。


 その後、今度は田原の戸田からお嫁さんを迎えることになった。ここで管理上の揉め事が起きる。


「新しい奥様なんだから、当然、本城(岡崎城)にお入れするんですよね?」と、向こうの家臣たちがプッシュしてきたんだ。


だが、広忠公の回答は冷徹かつ明確だった。


「いや、岡崎城(本城)は竹千代の城だ。嫁は新城(隠居城)に入れろ」


 戸田側は「メンツが潰れる!」と抗議したが、広忠公は一歩も引かない。


「竹千代こそが次代の君主だ。その管理権を他人に渡すわけにはいかない」


 この徹底した「次世代ファースト」の姿勢。後に天下を獲る徳川家の、強い自覚がここにあるんだな。


 ある五月、広忠公が「鷹狩り(周辺の巡回)」に出かけた時のことだ。ちょうど田植えの真っ盛りで、農民たちが泥まみれで働いていた。その中に、一際ボロボロの服を着て、目元まで泥だらけにしながら苗を背負っている男がいた。広忠公は馬を止め、じっとその男を見つめて言った。


「……おい、あれは今藤いまふじじゃないか?」


同行していた家臣たちは真っ青(赤面)だ。


「まさか。あんな低 ランク装備スペックで泥にまみれているのが、うちの正規 武士メンバーのはずが……」


広忠公は「見て参れ」と伝令を飛ばす。使いの者が今藤に近づき、「おい、殿がお前じゃないかって言ってるぞ。どうすんだよこの状況!」と詰め寄った。今藤はパニックになり、「……今藤ですって言ったら、殿の面目を潰しちまう! かといって嘘もつけない!」と大混乱。


 広忠公が近づいてくるのを見て、今藤は咄嗟に「隠れ身スキル」を使おうとした。だが、焦って畦道でつまずき、そのまま田んぼの中に顔面からうつ伏せ(ダイブ)!顔も目も真っ黒な泥だらけのまま、震えて固まってしまったんだ。


 泥だらけで平伏する今藤を見て、広忠公の瞳には涙がたまっていた。周りの家臣たちは「今から首を跳ねられる(BANされる)のか?」と生きた心地がしなかったが、広忠公は静かに、優しく語りかけた。


「……今藤。見間違えたかと思ったぞ。お前たちは、そんな無残な姿をしてまで家族を養い、それでいて有事イベントの際は、一匹の馬に飛び乗って先駆けし、命を捨てて高名キルを稼いでくれる。だが、今の俺には、お前たちにふさわしい報酬ボーナスを出す余裕がない。お前たちをこんな惨めな姿にさせて奉公させているのは、お前の恥じゃない。俺の、君主としての恥だ。」


 これを聞いた家臣たちは、全員がもらい泣きして、戦場でも流さないような涙をボロボロとこぼした。


「今藤、そして面々。今の俺は不甲斐ないが、お前たちが泥水をすすって支えてくれるから、俺はここにいられる。いつか俺がこの三河を切り拓いたら、必ず過分な知行ボーナスを出す。だから、今はその恥を俺に預けて、妻子を養い、いざという時は俺のために命を張ってくれ。……さあ、安心して帰って、田を植えろ」


 どうだ。この「慈悲・情け・哀れみ」のコンボ。もしここで広忠公が「武士のくせに格好悪い!」と今藤を処刑していたら、ギルドは一瞬で崩壊していただろう。


 だが、この「お前の恥は俺の恥」という神の一言で、メンバーの忠誠心は限界を突破オーバーフローした。


「この殿のためなら、妻子を忘れて命を投げ出せる。」


 そう誓うガチ勢の集団こそが、後の「三河武士」という最強のブランドになったんだ。金やアイテムで繋がった新参しんざんには真似できない。泥の中から立ち上がった譜代ふだいの絆。


これこそが、乱世を終わらせるための最強のバフだったってわけだ。




【三河物語 作:大久保忠教 国民文庫刊行会 1912年】




然間苅屋の水野下野殿の妹婿いもとむこに被成せ給ひ而、竹千代様とひめ君を御儲けさせ給ひ而、扨其後に御前様をばかりやへおくりまゐらせ給得ば、其後久松佐渡殿へ御越有而、御子多おほくもうけさせ給ふ。其後広忠は田原之戸田少弼せうひつ殿の婿むこにならせられ給ひ而、御輿が入。然処に本城得御輿を入んと云ければ、本城者竹千代城なれば、新城得入よと仰ければ、久敷つかへて何かと申けれども。かなはずしてつひに者新城得いらせ給ふ成。又或時玆に御鷹たか野得出させ給得ば、折節五月之事成に御前成、ずいぶんの人田を植ゑ申とて、我も自身破れ帷子かたびらを着たかはしをりにはしをりて、玉襷をあげて、我も早苗さなへを背負ひて目脥めづら迄土にして行処得、折節広忠行合させ給ひ而、あれは今藤に而は無かとて、御馬をひかへさせ給ふ。紛去まぎれざる事なれば各々 傍輩はうばい衆も赤面せきめんして有処に、見而参と仰ければ、かしこまり而参而申様、扨貴方之儀者何としたる事ぞ。上に御覧じ付而、今藤か見而参との御使成。扨何と可㆓申上㆒哉と云。何と御返事を可㆓申上㆒、今藤に而御座候と申上給得と云。されば左様にも申被㆑上間敷と申せば、扨貴方いはれ去事を仰候かな。上様の御直じきに御覧じて、御馬をひかへさせ給ひ而、御意之処を何とまげられ申さん哉。御身のまげ給はゞ、又別之人参而、見而有様に申上ば、其時に御身も我等故に御迷惑めいわく可㆑有。然時んば我等及に人を損なひ申事も迷惑めいわく如何斗可㆑有。其故我等とゞかざる故をもつて、人迄そこなふといはれん事も迷惑めいわく然者浮世うきよ得此沙汰広ひろまるべし。殊に御身之一類るゐあしくいはれにくまれ申事も、かばね之上迄も骸之上のはぢの恥成。其故上の御直ぢきに御覧ぜられて、御馬をひかへさせられての御意なれば、御身の撑(さゝ)へにあらばこそ、御身に恨も有べけれ。玆に而曲る事成間敷に、今藤に而御座候と申上給得と申せば、何供迷惑めいわく之御使とて赤面して帰けり。御前得参ければ、今藤かと御意之有あれば、謹んで有けり。重而御尋有ければかしこまつて候と申上げる時、いそぎつれて参れとの御意なれば、立帰而参れと御意成と申せば、かしこまつたと申而御前得参、早苗さなへをせおひて、いとゞ泥に成者が、上様を見付申而知れ申間敷と思ひ而、早苗さなへをせおひて畔に躓きたる風情にして、田之中得うつぶしにふしたれば、目もつらもまつくろくに泥に成而御前にかしこまれば、誠に〳〵怪有がる生者に而候。上様は是を御覧じて、御目に御涙をもたせられけり。各々も我人あれ躰の事をばせぬ人一人もなけれども、各々は、ふも能かつひに御目にあたらず、今日今藤は見被㆑出申事社こそ不連なれ。只今是に而御成敗あらん事之不憫さよ。今日者今藤が身の上明日は如何にとしても、か様之事をして妻子をはごぐまでかなはざる事なれば、明日者我々の身之上とてあせをにぎる処に、つく〴〵と御覧じて、良有而今藤か見違へたり。扨も〳〵なんぢ供左様にあられぬ事をして、妻子けんぞくを孚み、ことの有時は一疋にのり而懸かけ出先懸をして一命をすて而、度々の高名莫大ばくだい成。然ども少身なれば身を輙過たやすくすぐるあてがひもせずして、左様の事をさせ申、定而汝なんぢ一人にもかぎる間敷、面々も嘸有るらん。ふびん成ば我も何たるあてがひもしたくは思得ども、なんぢ供如ごとく㆓存知㆒出し可㆑申地行之なければ、可㆑取とも思はであられぬ成をして、奉公をしてくるゝ事返々もうれしけれ。是と云も普代久敷者なれば、主をかなしみ未而左様にはすれ。新参しんざんはしり付之者ならば思ひも不㆑寄、只人間之宝たから者普代之者成。かまへて〳〵なんぢはぢにはあらず我等がはぢ成に、はぢと思はでなんぢも面々も左様にして妻子をはごくみ、我に能一命を捨而奉公をしてくれよ。我汝供がかせぎをもつてきりひらく者ならば、過分のあてがひをもすべし。只今者我も成去ならざる間荒去あらざる事をもなして、妻子をはごくみて、其故一命を捨而摝かせぎてくれよ。早々帰而田をうゑよと仰ければ、御前成人々又聞懸に涙をながす。其身者元寄妻子を帰見ず、一命を奉らんと思ひけるも、御 慈悲じひなさけ之御詞ことば一つをもつて、しよ人涙をながし一入ひとしほ君に思ひ付申成。彼者を是に而御成敗も有ならば、諸人恨うらみをなして君に思ひ付一命を捨んと思ふ者は一人も有間敷に、広忠之御 慈悲じひなさけ之御詞ことば一つに而是を聞及に、広忠には妻子を帰見ず、一命を奉らんと申者斗成。只人は慈悲じひなさけあはれ見にこす事無。

〜参考文献〜

三河物語(国民文庫刊行会 大正元年)- Wikisource

https://share.google/jJTiQMFkLIRfryR6a


〜舞台背景〜

 この作品では原典を併記していますが、これがなかなか厄介で、単にWikiなどから貼り付けると元のルビが崩れて文章がグチャグチャになります。そのため原文の体裁は、ストーリーを考える数倍の手間を掛けて整えています。

 せっかくなので、小説と原文を見比べながら、原典の雰囲気を感じてもらえたらと思います。

 この「小説+原文併記」という形式は、たぶんなろうではあまり見ない試みだと思います。

 もし面白い試みだと思って頂けたら☆5とは申しませんが、☆3〜4くらい頂けると嬉しいです。

 逆に「ウ~ン」と思われた方は、遠慮なく☆1で意思表示して頂ければと思います。率直な感想として謹んで承ります。

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