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新卒エンジニア、観察ノートを開く(中巻) 両輪を、回す  作者: 音無 凪


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7/11

第37話「事業の数字を聞く日」

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、地名、企業名等はすべて架空のものです。実在のいかなる存在とも関係ありません。

 五月の下旬、平日の午後三時。


 窓の外の桜並木通りはもう、緑が濃くなっていた。葉の重なる影が、地面のあちこちでふくらんでいた。


 Slackで諏訪マネージャーから、二週間前に予約されていた1on1のリマインダーが来た。


「桐谷くん、十五時から四十五分、第三会議室、いつもの通りお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 四十五分、というのがいつもの三十分より十五分長かった。


 ……今日、ちょっと違う話だった気がする。


 心の中で僕は思い出した。


 四月の終わりの最初の1on1で、諏訪さんはこう言っていた。「来月、別の1on1で、私から君に、ちょっと違う話をします」と。「事業の質を見るための、最初の一歩として」と。


 Confluenceのページの「2年目1on1」のスペースに、僕は今朝、いくつかメモを下書きしていた。森山くんの様子。白瀬さんから任された中規模機能設計が、お客様に正式に提出されたこと。立花さんの件は書いていなかった。あの件はノートには書いたけれど、1on1の場でわざわざこちらから持ち出す必要は、もうなかった。


 メモをまとめたファイルをリュックから出して、僕は第三会議室の前に立った。


 


 諏訪マネージャーはいつもの時間ぴったりに、会議室の扉を開けた。


「桐谷くん、お疲れさま」


「お疲れさまです」


 諏訪さんはMacBookと、いつものA5の手帳をテーブルに置いた。


 その手帳の表紙の角に、子どもが貼ったらしい小さな星のシールが、半分だけ剥がれかけて残っていた。


 今日はもうひとつ、いつもと違うものを持っていた。


 二つに折ったA4の紙の束。


 厚みはたぶん十枚弱。


 諏訪さんはその紙をテーブルの端に置いた。


「桐谷くん、今日、ちょっと違う話をしようか」


「はい、お願いします」


「最初の十五分はいつも通り、君から近況を聞かせて」


「はい」


 僕はConfluenceのメモを開いた。


 森山くんがConfluenceの操作をほぼ覚えたこと。Slackでの質問の頻度が、最初の一週目の半分ほどに減っていること。今週から簡単なバグ修正のチケットを、彼にひとつ振ってみたこと。


 白瀬さんから任された中規模機能設計が、Confluenceで二十六件のレビューを受け、修正を反映してお客様に提出されたこと。


 諏訪さんはいつもの調子で、頷きながら聞いた。


「白瀬さんから、何かコメント、ありました?」


「最後のレビューの二十六件目に、『これは、いい設計です』と一行だけ」


「うん」


 諏訪さんはその一行に、特別な反応を見せなかった。


 けれど、口の端のほんの少しの緩み方が、たぶんその一行を知っている人のそれだった。


「白瀬さんから、レビューで桐谷くんが伸びた部分を共有してもらいました。私のところにも」


「あ、そうですか」


「うん。設計の根拠をConfluenceにちゃんと書く癖がついている、という指摘でした」


「白瀬さんから毎週、質問だけもらっていたので」


「うん、それも聞きました」


 諏訪さんはメモに小さく何か書いた。


「もうひとつ、私から共有してもいいですか」


「はい」


「立花さんの件です」


 ……立花さんの、件。


 心の中で僕はその音を確認した。


 諏訪さんは軽く、テーブルに両手を揃えた。


「あの提案、文章のスタイルから、書いた人が誰か、私にはおおよそ分かっていました」


「はい」


「だから会議で確認しました」


「ありがとうございます」


「桐谷くん、ひとつ私からお願いがあります」


「はい」


「あの種の話、もしまたありそうな気配があったら、ConfluenceかSlackで、誰が書いたか、私に見える形で残してください」


 諏訪さんの声はいつものトーンだった。


「私が後で、なかったことにできるように」


 ……後で、なかったことに、できるように。


 心の中で僕はその言葉をゆっくり噛んだ。


 マネージャーの仕事は、なかったことにするのも含まれる。けれど、なかったことにするためには、最初に痕跡が必要だった。


 諏訪さんの声に、ふっと、低い静けさが薄く乗った。


「この言い方、私もたぶん、十年前、当時の坂上課長から、似た形で教わりました」


「分かりました」


「白瀬さんから、似た話、聞きました?」


「はい。証拠を残すのは相手を疑うためではなく、自分を守るため、と」


「白瀬さんも同じことを言いますね」


 諏訪さんは初めて、ちょっとだけ笑った。


「うちのチームAはたぶん、そういう作法が自然と共有されているチーム、と思っています」


「はい」


 諏訪さんはテーブルの端に置いていたA4の紙束を、手元に引き寄せた。


「では、ここから、ちょっと違う話、いきましょうか」


 


 諏訪さんは紙束の一枚目を、テーブルの中央に置いた。


 一枚目はシンプルな表だった。


 ヨキエルの受託開発部・チームAの、過去三年分の月別の売上の推移。


 数字の単位は千円。


 数字がぎっしり並んでいた。


「これは社外秘の資料です。社外には出しません。ただ、社内で特別に秘密指定された資料ではないので、部の一員である桐谷くんが見るのは問題ないです。ふだん若手には、あまり見せていないだけです」


「はい」


 隠すことと、わざわざ見せないこと。似ているようで、たぶん違うのだと、僕はそのとき初めて思った。


 外に対しての線と、内に対しての線は、別々に引かれているらしかった。


「ただ、桐谷くんは二年目で、白瀬さんから任された設計をお客様に提出した。それを区切りに、見てもらいたいと思っていました」


「ありがとうございます」


「まず、合計から」


 諏訪さんは表の右下の合計欄を指した。


「うちのチームAの年間の売上、二億円です」


 ……二億、円。


 心の中で僕は、その数字を口の中で転がした。


 二億、という言葉は今までの僕の生活の中で、たぶん一度も自分のものとして扱ったことのない桁の数字だった。


 諏訪さんは、その合計欄の少し上に、もう二つ、数字を書き足した。


「比べるための数字も、並べておきます」


「はい」


「うちの会社全体の、年間の売上が、だいたい十五億円」


「十五億」


「そのうち、受託の仕事がおよそ六割。受託開発部全体で、年間でだいたい九億円です」


「九億」


「その九億円を、部のいくつかのチームで分けています。うちのチームAは、そのうちの二億円」


「……会社で十五億、受託で九億、チームAで二億」


 心の中で僕は、その三つの桁を、一段ずつ降りるように並べた。


「うん。会社全体の中の、受託。受託の中の、チームA。君の書くコードは、その二億円の、いちばん内側にあります」


「はい」


「この二億円を、何が支えていますか」


「うちのチームのコードと、設計と、運用」


「うん。もうひとつ」


「お客様」


「うん」


 諏訪さんはもう一枚、紙を出した。


 二枚目は項目別の利益率と解約率の表だった。


「うちのチームの案件別の利益率。営業利益で、平均すると五パーセントあるかないか」


「はい」


「受託は、売上のほとんどが人件費です。だから利幅はもともと薄い」


「あ」


「製造業向けの保守案件は、それよりもうちょっと低い」


「金融系は、少し高い」


「うん、よく見ましたね」


 諏訪さんは表の中のある列を指した。


「ここ、解約率。年間、三パーセント」


「うちは解約という考え方、あるのですか」


「受託でも、長期保守契約がベースの案件は、解約があります。あるいは契約満了で更新されない、という形」


「あ、なるほど」


「三パーセント、というのは、たぶん業界の中では悪くない数字です」


「はい」


「でも、これが上がると、来年の予算が減ります」


 諏訪さんは淡々と続けた。


「予算が減ると、桐谷くんたちの教育や、新しい技術の研究時間や、福利厚生に最初に影響します」


「……はい」


「だから私は、解約率を毎月見ています」


 諏訪さんは表の縁を軽く二度、指で押さえた。


 その所作はたぶん、諏訪さん自身の心の中の、毎月のチェックを再演している動きだった。


「もうひとつ」


 諏訪さんは三枚目の紙を出した。


 顧客満足度のアンケートの集計、年に二度のヒアリングの結果。


「うちのチームの顧客満足度、八十パーセント」


「八十、ですか」


「うん」


「残りの二十は」


「何かに不満を持っている、ということ」


 ……二十パーセント。


 心の中で僕はその数字を確かめた。


 二十パーセント、というのは十人に二人、ということだった。


 顔の見えないお客様の、二人。


 その二人が何に不満を持っているのか、僕はまだ知らなかった。


「桐谷くんはまだ、お客様の窓口を直接担当する立場ではないです」


「はい」


「でも、白瀬さんから任された中規模機能設計、あれが運用に入った後、もし操作性の問題で現場の担当者がストレスを感じたら、それはこの八十パーセントを下げ得る要素になります」


「……はい」


「逆に、もし現場で『この機能、入って楽になった』と誰かがたぶん、口の中でちいさくつぶやいたら、それは八十の数字を、ほんの少しだけ上げる」


「……」


 数字というのはこういう近さで自分の手元に繋がっている、ということを、僕はたぶんその日初めて知った。


 


 諏訪さんは四枚目の紙を出した。


 四枚目はヨキエル全体の業態構成。


 受託、自社サービス、パッケージ、組込み。


 円グラフが四つに切られていた。


「これ、見たことあります?」


「全体会議で、遠野CTOが似たような図を見せていた気がします」


「うん。あれと同じです」


 諏訪さんは円グラフの、受託の部分を指した。


「さっき数字で言った受託の六割を、図にすると、ここです」


「はい」


「村瀬社長はこれを、徐々に下げたいと言っています」


「全体会議でも聞きました」


「うん」


 諏訪さんは円グラフの、自社サービスとパッケージの部分を指した。


「自社サービスとパッケージを伸ばす、というのが、いまの社の方針です」


「はい」


「私たちのチームAは、ほぼ受託のほうの六十です」


「ということは」


「そう。私たちのチームAも、いまの方針のその下にあります」


「……はい」


 諏訪さんは円グラフの紙を、もう一度テーブルの真ん中に戻した。


「桐谷くん、ここから二つ聞いてもいいですか」


「はい」


「ひとつ。君の書くコードはこの二億円と、解約率三パーセントと、顧客満足度八十パーセントと、村瀬社長の方針。これらのどれと繋がっていますか」


「全部、です」


 声に出してから、僕は自分の答えの軽さにちょっと戸惑った。


 軽すぎたかもしれない、と思った。


 けれど諏訪さんは頷いた。


「うん、その通りです」


「あの、軽くてすいません、もうちょっと」


「いや、最初の答えはそれでいいです」


 諏訪さんは初めて、笑顔の手前のような表情をまた見せた。


「全部と、まず認める。そこからひとつずつ、ほどいていく」


「はい」


「ふたつめの問い、いいですか」


「お願いします」


「君は自分の書くコードを、どのくらいの精度で、丁寧に書きたいですか」


 ……どのくらいの精度で、丁寧に、書きたいか。


 心の中で僕はその問いを、ひと呼吸撫でた。


 白瀬さんの二十六件のレビューと、五月の連休前から続けてきた一ヶ月の設計の積み重ねが、自然と頭の中で浮かんだ。


「白瀬さんから任された設計を書いている間、僕は自分の中で八割くらいの精度を出したつもりです」


「うん」


「でも、白瀬さんからは二十六件、指摘が来ました」


「うん」


「だから、たぶん僕の自覚する八割と、実際の精度との間に、まだ二割くらいの隙間があります」


「うん」


「これから、その隙間を少しずつ埋めていきたいです」


 話しながら、僕は自分の中でひとつ、別のことに気づいた。


 ……八十パーセントと、二十パーセントのお客様。


 心の中で僕は、その数字と自分の中の二割の隙間を重ねた。


 もしかしたら、その二割はお客様の二十パーセントの不満と、構造的には繋がっているのかもしれない。僕の二割の隙間が現場で、何かの操作性の小さなずれとして現れて、そのうちの何件かがお客様の二十パーセントに入っている可能性がある。


「諏訪さん」


「うん」


「いま、ふっと思いついたこと、言ってもいいですか」


「もちろん」


「僕の中の二割の隙間と、お客様の中の二十パーセントの不満、もしかしたら繋がっているのかもしれません」


 諏訪さんはゆっくり頷いた。


「桐谷くん、その繋ぎ方を自分で思いつけたなら、今日、私が君に見せたかったものは、ちゃんと伝わっています」


 諏訪さんの声はいつもより、ほんの少しだけ柔らかかった。


「君が書くコードは、数字に繋がる」


「はい」


「だから丁寧に書いてほしい」


「はい」


「もうひとつだけ」


「はい」


「数字の向こうには、お客様との十年来の信頼がある」


「十年来の」


「うん。たとえば、みなと信用金庫さんとは、もう十年お預けいただいているお付き合いです」


「あ」


「コードの一行が、もし本番でつまずいたら、その重みに直結する」


「重み」


「うん。怖がる必要はない。ただ、その重みは頭の隅に置いておいてほしい」


 その一文はたぶん、諏訪さんが今日の1on1の結論として用意していた言葉だった。


 短い文だった。


 短いから、たぶん深く僕の中に入った。


 


 諏訪さんは紙束を丁寧に揃え直した。


「この資料、一部を桐谷くんに渡しておきます」


「えっ、いいのですか」


「社外秘ですが、社内で特別に秘密指定された資料ではありません。ふだん若手には見せませんが、君は今日、これを見るに値する立場に、自分でたどり着きました」


「ありがとうございます」


 諏訪さんはファイルケースから複製をもう一部取り出し、手早くまとめて僕に渡した。


「ただし、社外には持ち出さないこと。保管も取り扱いも、社内のルールにそって慎重に。それだけは守ってください」


「はい」


 A4の紙が、僕の手の中にあった。さっきまで、二億円も、五パーセントも、僕の外側にある数字だった。それがいま、自分の手のひらの上に、重さのある紙として乗っている。事業というものが、初めて僕の側に来た気がした。


 そういえば、と僕は思い出した。入社のときの研修で、情報の扱いにずいぶん長い時間が割かれていた。CISOという役職の人が中心になって、この数年、社内の秘密管理の仕組みを整えてきた、と説明されていた。渡された紙の重みと、あのとき書いた注意事項が、いま同時に立ち上がってきた。


「もうひとつ補足してもいいですか」


「はい」


「今日、私が見せた数字は、技術の縦棒の話ではないです」


「はい」


「事業の、横棒です」


「事業の、横棒」


「うん。君はここまで、白瀬さんから技術の縦棒を学んできました。コードと設計の質、ということです」


「はい」


「今日から、もうひとつ事業の横棒というものがあると知ってもらいたかったです」


 ……縦棒と、横棒。


 心の中で僕は、その二つの言葉を並べた。


 一年前、入社初日の遠野CTOのスピーチで、僕は「両輪」という言葉をノートに書いた。技術と、事業。あのとき、僕の中で「両輪」はまだ、ただの言葉だった。


 今日、諏訪さんが見せてくれた四枚の紙。二億円、五パーセント、三パーセント、八十パーセント、六十パーセント。


 その数字の集まりがたぶん、「両輪」のうちの片側、事業のほうの輪郭を初めて僕の手元に置いた。


「諏訪さん、両輪というのは、こういうことだったのですね」


 声に出してから、自分の声の半分独り言のような響きに、自分でも気づいた。


 諏訪さんはその独り言の角度ごと、頷いた。


「うん、たぶんこういうこと」


「ありがとうございます」


「もうひとつだけ、伝えてもいいですか」


「はい」


「技術の縦棒を深く掘るのも、事業の横棒を広く見るのも、どちらも君の選択です」


「はい」


「どちらか片方だけ極端に伸ばしても、両輪にはならない」


「はい」


「焦らずに両方、撫でていってください」


「はい、ありがとうございます」


 


 1on1が終わったのは十五時四十五分。


 会議室を出るとき、諏訪さんはいつも通り、自分の手帳を脇に挟んで先に廊下に出た。


 僕は渡された資料をファイルに挟み、あとに続いた。


 廊下の窓の外、緑が濃くなった葉桜の枝の向こうに、薄い青の空が見えた。


 


 その日の退社後、寮の自分の部屋でノートを開いた。


 四月の最初の一行、「二年目、仕事の質を見る」を見直した。


 四月下旬のあたりの「裏切り、しかし見ている人もいる」。


 五月初旬のあたりの「信頼される、ということは、こういうことか」。


 その下、新しいページを開いた。


 もらった資料は、会社のルールにそって、自分の机の引き出しにしまって帰ってきた。


 社外秘は、寮には持ち込まない。夕方の諏訪さんの念押しと、研修で教わった注意事項が、ペンを持つ手を静かに止めた。


 だから寮のノートには、金額は書かず、今日分かったことの形だけを、自分の言葉で書いた。


「会社全体があって、その内側に受託があって、そのまた内側に、うちのチームがある。僕の書くコードは、その一番内側にいる」


 手元に紙はないのに、その入れ子の形は、はっきり残った。


「両輪というのは、こういうことか」


 書き終えて、しばらくその一行を見つめた。


 頭の中で、遠野CTOが入社初日のスピーチで「半径3メートル」「両輪」「観察」と語った、あの一年前の朝の声がふっともう一度響いた。


 あのときの僕はノートに、ただその三つの言葉を書き写しただけだった。


 今日の僕は「両輪」のうちの片側の輪郭を、数字そのものではなく、その形として、ノートに書き留めた。


 もうひとつ、思い出したことがあった。四月末から手元に置き始めた地図の、十八の区画。そのひとつに、経済学、という名前の区画があった。技術の地図のなかに、なぜお金の話が、と最初は不思議だった。今日見た四枚の紙が、その区画に薄く色をつけた。


 ペンをもう一度動かした。


「僕の中の二割の隙間と、お客様の満たしきれていない部分、もしかしたら繋がっている」


 書きながら、僕はたぶん今日、自分の中で何かがひとつずれた、と感じた。


 悪いずれ方ではなかった。


 ノートを閉じた。


 窓の外、五月の夜の風が葉桜をゆっくり撫でていた。


 ……来週、白瀬さんにもう一度ちゃんとお礼を言おう。


 心の中で僕はまた決めた。


 ……森山くんにいつか、僕は白瀬さんと諏訪さんから受け取ったものを、別の言葉で渡していく。


 もう一度、心の中でつぶやいた。


 その「いつか」はまだ遠かった。


 けれど遠さの中に、もう輪郭は薄く見えていた。


 二年目の最初の二ヶ月で、僕はたぶんいくつか、大事な扉の前までたどり着いた。


 扉の向こうは、まだ開いていない。


 今夜、僕は扉の前で息をひと呼吸、整えた。


 


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