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七尾工房、本日も開店休業中。  作者: 七尾 拓哉


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12/20

第12話 密やかな結晶、嵐の前の静寂

 札幌の工芸展が幕を閉じ、中標津のログハウスへ戻ってきてからの一週間、工房はどこか静かで、それでいて確かな「熱の残り香」のようなものに満たされていた。


 円山公園のギャラリーを訪れた海外のコレクターや、SNSを通じて新しく私たちの存在を知った人々からの問い合わせは未だに途絶えず、第二波の発送パニックの気配を見せていた。しかし、私とあーちゃんの間では、あの嵐のような最初の数日よりも確実に手順が整っていた。インボイスの書き方も、梱包の規定サイズも、EMSの伝票の書き方も、今の私なら一人でこなせる。それが、素直に嬉しかった。


 あーちゃんの三体の彫刻は、すべてしかるべき人の元へと旅立っていった。


「アユムさん、これ」


 朝、作業台に向かう前に、あーちゃんがボソッと私の名前を呼んだ。彼女の首には相変わらずでっかい黒いヘッドフォンが引っ掛けられていたが、その前髪の奥の黒い瞳は、札幌へ行く前のような不器用な恐れをすっかり脱ぎ捨てていた。


 彼女が指さしたのは、私がデスクの上に置いた、あのチェリー材のペンスタンドだった。昨日、私が引き出しの奥から取り出して定位置に収めた「七本目のボールペン」が、朝の光を浴びて静かに佇んでいる。あーちゃんはそれを見て、小さく「ん」とだけ頷くと、すぐに自分の作業台へと戻り、使い古されたサンドペーパーで新しいチェリーのトレイを擦り始めた。


「サッ、サッ、サッ……」


 最新のCNCマシンの重低音に混じって響くそのやすりの音は、彼女の平穏な自信そのものだった。下手だと言われることをあれほど恐れていた少女が、自分の手仕事を外の世界に晒し、私の言葉という橋を通じて世界と繋がったことで、ひとつの独立した星として静かに輝き始めていた。私たちはそれぞれの不完全さを持ちながら、互いの足りないところを補い合いながら、この場所でそれぞれの光を放てばいいのだと、そんなことを思った。


「切れ味最高だなぁー」


 機械室の奥で、七尾さんはプロ仕様の新作鋸を手入れしながら、のんきな声を上げた。世界中から押し寄せるバックオーダーの波を、元広告マンの私がエクセルシートで必死にコントロールする。発送パニックの戦場の中で、私はあーちゃんから贈られたペンスタンドに視線をやるたび、自分がこの工房で「言葉の職人」として確かに根を下ろし始めているのだという、静かな手応えを感じていた。


   


 その日の夜、七尾さんは近くの温泉のサウナから戻ると、いつものように白い合皮ソファの左端に深く腰掛け、レモンサワーの缶を開けた。真ん中の、かつて伊吹敦さんが座っていた薄い窪みの跡には、カンナが丸くなって眠っている。サウナ帰りの七尾さんからは、冷たい夜風と、かすかに白樺の蒸気の匂いがした。


「ねえ、アユムさん」


 七尾さんが、黄色いアメリカンスピリットの煙の向こうから、私を見た。


「なんですか、七尾さん」


「その……アユムさんが中標津に来た日から、ノートにコツコツ書き溜めてる日誌さ。ちょっと読ませてよ」


 私は一瞬、キーボードを叩く手を止めた。


「嫌ですよ。七尾さんの寝癖のこととか、禁煙の失敗のこととか、書き殴ってるだけですよ」


「失敬だなあ。俺、意外と繊細な心の持ち主なんだから、優しく書いてくれないと傷ついちゃうわ」


 七尾さんはそう言って「あはは」と笑った。


「いいじゃないですか。事実なんですから。朝起きられない職人のリアルな生態として、世界中の木工家に公開してやりたいくらいです」


「勘弁してよ。これ以上ファン増えたら、外歩けなくなっちゃうよ」


 師弟という上下関係ではなく、ただ互いの得意なことで不完全さを埋め合う、この工房の奇妙な空気が、ストーブの熱とともに部屋を満たしていく。


「そういえば」と七尾さんが言った。「あーちゃん、また新しいの作り始めたね」


「見ましたか」


「うん。今度はもう少し大きいやつみたい。羊かな。犬かな」


「あーちゃんに聞いたんですか」


「聞いてないよ。聞かなくてもなんとなくわかる感じがしてきた」


 七尾さんは煙草の煙を吐き出しながら、カンナを一撫でした。


「でも、そういうのって大事だよね。あーちゃんみたいに、誰かに見せるために作ってるんじゃなくて、作ること自体が呼吸みたいになってる状態。俺も長野にいた頃、そういう時期があったな」


「どんな感じだったんですか」


「頼まれてもいないのに、夜中ずっとネックを削ってた時期があってさ。誰かに届けるためじゃなくて、ただ削りたかったんだよね。削ってないと、何か大事なものを失うような気がして」


 七尾さんは少し遠くを見るような目をして、そう言った。


「その大事なもの、って何だったんですか」


「よくわからん。今でもわかんないけど……たぶん、自分の手が本物かどうか、確かめたかったんじゃないかな。誰かに評価されることより先に。評価とかあんまどうでもよかったりするんよね」


 私はその言葉を、手帳のどこかに書き留めておきたいと思った。


 七尾さんが再び文庫本に目を落とした後、私は自分の手元にある本を開いた。


 小川洋子さんの『密やかな結晶』。


 それは、島全体からあらゆる物や記憶が、ひとつ、またひとつと音もなく消滅していく世界を描いた物語だった。リボン、帽子、香水——人々は消滅のたびにそれらを川に流し、記憶の底からその存在ごと忘却していく。主人公の小説家は、記憶を失わない調律師の男を秘密の隠し部屋に匿い、消えゆく世界の中で失われようとする人々の声を、小説という形で留めようとする。


 本のページをめくりながら、私は自分の胸の奥が微かに焦げつくような感覚を覚えていた。この中標津のログハウスで紡がれる静かな時間、あーちゃんのやすりの音、七尾さんの削るネックの完璧なカーブ、大自然の中に静かに並んで立つ二つの木製の看板。これらすべてが、いつかは時の彼方へと失われてしまう、儚くも美しい結晶なのかもしれない。だからこそ私は言葉の職人として、この消えゆくかもしれない日常のひとつひとつを、一文字の無駄もなくノートに留め置かなければならないのだ、と思った。書くことは、守ることだった。


 その時だった。


 ダイニングテーブルの上で、静かに伏せられていた固定電話の親機が、夜の静寂を切り裂くようにして、鋭く鳴り響いた。


 チリリリン、チリリリン。


 カンナが驚いたように耳を立て、七尾さんも本を伏せて顔を上げた。時計の針は、夜の十時半を回ろうとしていた。


 私は不穏な予感を胸に抱きながら、受話器を取り上げた。


「……はい、七尾工房です」


『——あ、橋本さんですか!?』


 受話器の向こうから聞こえてきたのは、ひどく張り詰め、今にも張り裂けそうなほどに緊迫した、若い女性の声だった。長野県松本市のギターメーカーで設計開発を担当している、長坂凛さんだった。七尾さんが長野の九鬼楽器で修業していた時代からの旧知で、伊吹敦さんの設計図をめぐるやり取りの中で、私もその名を何度か耳にしていた人だ。


「長坂さん? どうしたんですか、こんな夜遅くに」


『七尾さんを……七尾さんを出してください。今すぐに』


 彼女の息遣いは荒く、電波の向こうの松本の街に、冷たい嵐が吹き荒れているのが伝わってくるようだった。


「長坂さん、落ち着いて。一体何があったんですか」


『九鬼楽器の……社長が……』


 長坂さんの声が、微かに震え、涙を堪えるようにして掠れた。


『源蔵社長が先ほど、脳梗塞で倒れました。今、諏訪の病院の集中治療室にいます。……医師からは、今夜が山かもしれないって。意識が戻るかどうかも分からない状態なんです』


 脳裏に、七尾さんと伊吹敦という二人の職人を育て上げ、独立後も中標津の七尾さんへ秘密裏にリペアの仕事を回し続けてくれていたという、九鬼楽器の創業者・九鬼源蔵の姿が浮かんだ。


『源蔵社長が、倒れる寸前、意識が混濁する中で、何度も「ナナオ」の名前を呼んでいたんです……』


 長坂さんの声が、受話器の向こうで完全に泣き声に変わった。


『「あいつらの、最後の音を聴かせてくれ」って。「伊吹とナナオの、あの音をもう一度だけ聴かせてくれ」って、そればかり、何度も呟いていたんです。七尾さん、お願いです、伊吹さんのギターを持ってすぐに長野に来てください!』


 受話器を持つ私の指先が、冷たく凍りついた。


「長坂さん、わかりました。七尾さんに代わります」


 振り返ると、七尾さんはすでにソファから体を起こして、私の顔を見ていた。何も言わなかった。私の表情だけで、すべてを察したのだろう。受話器を受け取る七尾さんの手が、いつもより少しだけ、ゆっくりと動いた。


「……七尾です」


 その声は静かだった。七尾さんが電話で喋る声を、私はこれまでに何度も聞いてきた。のんきな声、笑い交じりの声、眠そうな声。でも今夜の声は、そのどれとも違った。低く、落ち着いていて、けれど何か重いものを受け止めているような声だった。


 電話は短かった。


「うん。今夜中に調整して、明日の朝一番に発つ。伊吹のギター、持って行く。……うん。待ってて」


 それだけ言って、七尾さんは受話器を置いた。


 工房が静かになった。ストーブが燃える音だけがあった。


 七尾さんはしばらく、受話器の乗った電話機を見つめていた。立ち上がるでもなく、煙草に火をつけるでもなく、ただそこに座っていた。その横顔を、私は何も言えずに見ていた。


 九鬼源蔵という人の名前を、私は七尾さんの口から何度か聞いたことがあった。長野での修業時代、伊吹さんと一緒に育てられた工房の創業者。七尾さんが「師匠」という言葉を使う、数少ない人物の一人だった。


「……行くか。まぁ、そんな簡単に死ぬ人ではないと思うけど」


 やがて七尾さんが、ゆっくりと立ち上がった。


「七尾さん」


「ギター、調整しないと。向こうで木が暴れたら困るから」


 それだけ言って、七尾さんは作業室へ向かった。私はその背中を見送ってから、翌朝の便を調べ始めた。


 夜の十一時を回っていたが、作業室には、天井のスポットライトが昼間のような鋭い白光を床に落としていた。


   


 作業台の上に、伊吹敦さんの遺した設計図に基づくアコースティックギターを置いた。


「七尾さん、本当に今から調整するんですか。明日の朝一番の便で羽田に飛び、そこから長野へ向かうなら、あと数時間しかありません」


「すぐ終わるよ。社長に聴かせるんだ。伊吹の設計と、俺の手が辿り着いた本物の音をね。中標津の気圧と、長野の気圧は違う。今のうちに、ネックのトラスロッドの効き具合を追い込んでおかないと、向こうに着いたときに木が暴れる」


 七尾さんはそう言うと、サウンドホールの中へ六角レンチを持った手を迷いなく差し込み、トラスロッドのボルトに噛み合わせた。


 息を呑んで見つめる私の前で、七尾さんの指先が微かに動く。外から見ていたのでは動かしたのかどうかもわからないほどの、本当にわずかな締め具合だった。木という生き物の呼吸を、金属のレンチを通じて読み解いているかのような、職人の絶対的な感覚がそこにあった。


「さて、どうかな?」


 七尾さんは手際よく、新品の弦をブリッジピンに差し込み、ペグを回してテンションをかけていった。音叉を膝にコンと叩き、ヘッドに押し当てる。四四〇ヘルツの澄んだ金属音が、ログハウスの梁へと吸い込まれていく。その音に合わせて、七尾さんは淀みない手つきでチューニングを施した。


 ポロン、と最初の一音が鳴らされた。


 その瞬間、私は息を呑んだ。


 数日前にリビングで聴いた音よりも、さらに音の芯がはっきりとしていた。残響が部屋の四隅にぶつかり、まるで森の奥深くで大木がざわめいているかのような、深くて太い余韻が、いつまでも、いつまでも消えずに空気の中で回り続けている。


 私はコピーライターの仕事をしていた頃、「言葉の余白」ということを習った。何かを言い切るより、少し手前で止めた方が、読む人の想像を引き出せるという考え方だ。でも今夜、このギターが鳴らした音は、そういう計算の産物じゃなかった。意図して残した余白ではなく、削り切れなかった何か、形にしきれなかった何かが、音として漏れ出しているような感じがした。


 それが、伊吹さんの設計図の正体なのかもしれないと、私は思った。完成しなかったギターの設計図。完成しなかった人生。そのどちらも、形にはなりきれなかったからこそ、何かが残っている。


 七尾さんは、その「残ったもの」を、十年かけて音にした。


「これで様子見かな? たぶん大丈夫だと思うけど、現場入りしてからまた、微調整だね。伊吹も、文句は言わないだろ」


 七尾さんはそう言いながら、ギターのトップ板を静かに手のひらで撫でた。


 その仕草を、私は黙って見ていた。七尾さんが伊吹さんの名前を出すときの声の質感は、他の時と少し違う。軽い調子を装いながら、その奥に何かが沈んでいる。


 伊吹敦さんのことを、私は直接知らない。七尾さんの話の断片と、工房に残された設計図と、あの白いソファの真ん中の薄い窪みから想像するしかない人だ。二十九歳で交通事故で亡くなった。七尾さんが今も座るソファの、左端ではなく、真ん中に座っていた人。


 その人が遺したギターの設計図が、七尾さんの手で音になった。


 源蔵社長は、意識が混濁する中でその音を聴きたいと言った。「伊吹とナナオの、あの音をもう一度だけ聴かせてくれ」と。


 もう一度、という言葉が、私の胸に引っかかった。もう一度、ということは、かつて聴いたことがある、ということだ。七尾さんと伊吹さんが長野にいた頃、源蔵社長はきっと、二人の音を聴いていたのだ。


 それがどんな音だったのか、私には想像するしかない。でも今夜、ここで鳴ったあの音は、きっとその残響の一部を持っていると、根拠もなく思った。


 七尾さんはギターのトップ板を愛おしそうに手のひらで撫でると、頑丈なフライトケースの中へ、厳重にクッションを詰め込んでギターを収めた。


 パチン、パチン、パチン。


 金属の留め金が閉じる重い音が、真夜中の作業室に響き渡る。


「さて、荷物まとめて寝るか。……アユムさん、いい機会だし、一緒に行くかい?」


「もちろんです」


「よかった。諏訪湖のそばにビジネスホテル予約できる? あそこ、サウナも朝食バイキングも最高なんだよ。あ、でも源蔵社長のことが先か」


「両立させます」


 七尾さんはそう言うと、いつものちゃらんぽらんな笑顔を少しだけ戻して、冷蔵庫から私にレモンサワーを差し出した。


 私はノートパソコンをビジネスバッグに放り込み、あーちゃんから贈られたチェリーのペンスタンドをデスクの真ん中に静かに置き直した。旅の間の工房の留守を、静かに預かってくれるような気がした。


 出発前に、あーちゃんにメッセージを送った。


 工房のこと、お願いできますか。急で申し訳ありません。


 返信は、しばらくして届いた。


 OK。


 それだけだった。でも、それで十分だった。あーちゃんが工房にいれば、カンナの餌も、ストーブの薪も、郵便受けも、すべて任せられる。口数の少ない彼女が、この工房の日常をどれだけ支えているか、私はこの一年で身に染みて知っていた。


 私はトートバッグに二、三日分の着替えを詰め、充電器を確認し、それから手帳を開いた。


 今日、起きたことを書き留めておきたかった。電話が鳴ったこと。長坂さんの声。源蔵社長の言葉。七尾さんが受話器を持つ手。それから、あの一音。


 書きながら、私はこの仕事の形がようやく少し見えてきたような気がした。コピーライターとして言葉を作っていた頃、私はクライアントの意図を「正確に」伝えることを仕事にしていた。でもここでの翻訳は、それとは少し違う。正確さだけじゃない。七尾さんの手の動きとか、あーちゃんの沈黙とか、ストーブが燃える音とか、そういうものを言葉に変えることが、私の手仕事なのだと、少しずつわかってきていた。


 壁には、リボン柄のベースが、冬の静かな光を浴びて、ただ黙って佇んでいた。


 伊吹さんが愛したあのベース。七尾さんが長野時代、その横でギターを削っていたあのベース。今夜、その隣で眠るフライトケースの中に、十年越しに形になった伊吹さんの設計図が、音として納まっている。


 失われゆく時間と、残り続ける音。どちらも本物だと、私は思った。


 だから私は書く。この工房の、ちっぽけで愛おしい日常のすべてを、一文字の無駄もなく。


「叩き起こしますね」


「お手柔らかに頼むよ」


   


 翌朝、六時半に起こしに行くと、七尾さんはすでに起きていた。初めてのことだった。


 台所でコーヒーを淹れていて、振り返った顔には寝癖があったが、目は覚めていた。前夜の電話のことを、一晩かけて自分の中で整理したのかもしれなかった。私には、それ以上のことはわからなかった。


「空港、何時?」


「八時二十分発です。七時十五分には出ないと」


「余裕じゃん」


「七尾さんが時間の感覚がなさすぎるんですよ」


 七尾さんはコーヒーを一口飲んで、「まあそうかもね」と笑った。


 ソファの上でカンナが目を覚ました。あくびをして、前足を伸ばして、また丸くなった。その動きが、この工房の朝の、変わらない順番だった。


 私は荷物を肩にかけ、デスクの上のペンスタンドをもう一度見た。七本目のボールペンが、朝の光の中で静かに立っていた。


「あーちゃん、何時に来ますか」


「九時頃かな。鍵の場所、知ってるから大丈夫だよ」


「カンナの餌は——」


「あーちゃんが把握してるから、任せておけばいい。あの子、俺より工房のことわかってるから」


 七尾さんはそう言って、フライトケースの持ち手を確認した。金属の留め金を一つずつ押して、ちゃんと閉まっているか確かめた。その手つきが、昨夜の六角レンチを動かす手と、同じ慎重さを持っていた。


 中標津空港は小さい。滑走路も、待合室も、売店も、何もかも小さい。でも、そこから飛び立てば、本州にたどり着ける。七尾さんがかつて長野で修業していた場所へ。九鬼源蔵が今夜も待っている病室へ。


「行くか」


 七尾さんが引き戸を開けた。冬の朝の冷気が、工房の中に流れ込んできた。


 防風林のカラマツが、風に揺れていた。その音を最後に聞いてから、私はフライトケースを運ぶ七尾さんの後ろについて、工房の外へ出た。冬を呼び込む乾いた風が、二つの看板の隙間を音を立てて吹き抜けていった。

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