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【完結】龍淵の蒼、狐の剣華 〜苦労を知らない神だった私が、不遇な『狐の女帝』を略奪し、溺愛し尽くすまで〜  作者: okazato.


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五の花 白兎の後押し

 リサーが宮殿を去ってから、私は一睡もできぬまま、朝を迎えた。


「おはようございまーす、龍神様、リサーさん! もう起きてらっしゃいますか?」


 寝室の扉が勢いよく開かれ、一人の女性が飛び込んでくる。


 結い上げられた白い髪に、木苺のような瞳。手元のギャラリートレイには、いつもと同じでアーリー・モーニング・ティーのための紅茶やスナックが並んでいる。


 給仕役を担っているのは、人間族のマリーナだ。彼女は宰相ヴィート君の妻でもある。


 どうやら今は、部屋を見渡しながら、リサーの行方を探しているようだ。


「彼女はいないよ」


「そのようですね。リサーさん、あんなに龍神様のそばから離れなかったのに。どうしたっていうんですか?」


「さぁ。出てっちゃったんだよ」


「……えぇえ!? 出ていったって、一体どこから!?」


 彼女はトレイを置き、思いきり私に詰め寄ってくる。


「そこの窓から」


 天窓を指すと、マリーナは四角い空を見上げながらあんぐりと口を開いた。


「狐だったら、あんなに高いところでも簡単に飛べるのかしら……いやいや、そうじゃなくて! 龍神様、なにをやらかしたんですか!?」


 物怖じしない口のきき方に、笑みが漏れてしまう。神に向かって、こうも正直に感情をぶつけてこられるのは、彼女ぐらいなものだろう。


「女の子が寝台へ忍び込むところを、見られちゃっただけだよ」

「うわぁ……」


 細まった目が、軽蔑するようにこちらへ向けられる。


「龍神様が性に奔放なのは知っておりますが、リサーさんと一緒に寝られている時に、別の方まで寝台に呼び寄せるというのはさすがに……」


「ちょちょちょ、色々と誤解があるよ!? 私が連れ込んだわけではないし、そもそもリサーちゃんとの間には、なにもないんだからね!?」


 まあ、少しぐらい下心はあるけども。まだ手は出していない……はずだし。


「だとしても、リサーさんはショックだったと思いますよ。あの子はしっかりしているように見えますけど、まだまだ子どもです。それに、龍神様のことを信奉してらっしゃいましたから」


「……嫌われちゃったかな?」


 小さな問いかけに、マリーナは長いため息をく。


「そうかもしれないですけど、分かりません。私はリサーさんではないですから」


「まあ、そりゃそうだね」


 ぼーっと大窓を眺めている私に、彼女は呆れたように吐き捨てた。


「こんなところでうじうじ悩んでる暇があったら! 直接、本人に聞くしかないんじゃないですか!?」


「……本人? それって、リサーちゃんに?」

「ええ」


 間抜けな返しに、マリーナはゆっくりとうなずく。


「なにか誤解があるなら、それを解くことができるのも、龍神様ただお一人だけなのですよ」


「誤解が解けたとして。私は彼女に、自分の気持ちを打ち明けるわけにはいかないんだ」


「え、それってまさか……えぇ!?」


 マリーナは目をぱちくりさせながら、口に手を当てて叫んだ。


「ようやく……ようやく龍神様にも、恋い慕う相手ができたのですね!?」


 恋、だって? 小躍りするマリーナを横目に、私は頭を抱える。


 この気持ちは、そんな高尚なものではない。どす黒い欲望が、ただ彼女を蹂躙じゅうりんしようとしているだけで。


 私がリサーを気にしているのは、理不尽な掟に縛られている姿が、可哀想だと感じたからだ。

 彼女をここへ置いていたのだって、先々代のツケを払うためのようなものだし。


 けれども、胸の奥に宿った熱い想いは、見過ごせないほどに大きくなっていた。


「……私は神なんだ。なにを言われても、彼女は龍神の言葉に従おうとするだろう。それこそ、本心に関わらず」


「いいですか、龍神様」


 真紅の瞳が、ぐぐいと近づいてくる。


「私はリサーさんが、自分の意思を持った女性だと思っています。龍神様はどうですか? 龍神様からは、彼女が権力に抗うことのできない、弱い人に見えているのでしょうか?」


「……いいや」


 彼女の強さは、腕っぷしのものだけではない。決して折れず、へこたれず、どんな逆境に晒されても信念を曲げたりしない。


 不器用なまでのひたむきさが、どうしようもなく眩しくて、そして……狂おしいほどに愛おしいのだから。


 私の顔色が変わったのを見て、マリーナは安心したように息をついた。


「リサーさんは、ちゃんと答えてくれますよ。本音でね」


「あのさ。マリーナちゃんは、龍神と狐族がつがいになったとしても、うまくいくと思う?」


「それ、私に聞きます!? 私は白龍様を口説き落とした、人間様ですよ!?」


 彼女は自慢げに胸を張り、きっぱりと言い切る。


「ぶはっ、そうだったね!」


 私はひとしきり笑い転げたあとで、思い切り伸びをしてから、背中に空色の翼を生やした。


「仕方がないなぁ。ちょっと、あの子を迎えに行ってくるよ」


「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」


 ふわりと体を浮かせ、窓枠に手をかけたところで、ノック音が部屋に響く。


「龍神様。お支度はおすみでしょうか?」


 あれはきっと、ヴィート君の声だ。夫の登場に、マリーナは弾けたような笑顔を見せる。


「行ってください、龍神様! 旦那様のことは、私にお任せいただければ」


「ありがとう、マリーナちゃん。今日はヴィート君も休みにするから、二人で好きに過ごせばいいよ」


「え。えぇ!? いいんですか!? やったあ!」


 飛び跳ねるマリーナの背後で、ゆっくりと扉が開いた。


「マリーナ? なにを騒いでいるんですか」


「旦那様ー!! 今日は一日中、一緒に過ごしましょう!」


 彼女は夫に飛びつき、口づけをねだっていく。


「!? こ、こらっ! やめなさい、執務中ですよ!?」


 全身を真っ赤にしたヴィート君は、必死に妻を引きがそうとしていた。


「ヴィート君。今日の仕事はおしまいだよ! 奥さんと仲良くね」


「どういうことですか。って、そんなところでなにしてるんですか、龍神様!?」


 宮殿の外に身を乗り出した龍神を見上げながら、ヴィート君は絶叫する。


「詳しくは奥さんに聞いて。じゃっ!」

「ちょっと待っ、はああぁあー!?」


 華麗に飛び立った龍神を、友の声が追いかけていたが、それもすぐに収まった。きっと、白ウサギのように小さく愛らしいお嫁さんに、口を塞がれてしまったのだろう。


 まったく、いつまでたってもお熱いんだからさ!


 私は微笑みながら、翼を大きく羽ばたかせ、一直線に狐族の里を目指した。

マリーナとヴィートのお話は、前作「お久しぶりです、龍神様。どうぞ私を食べてください! 〜前世は白兎のアルビノ娘、村を追われ再会した恩人の『白龍様』に最高の捧げ物として溺愛される〜」にてお楽しみいただけます。


下にリンクを貼っていますので、ご興味がありましたらそちらもご一読いただけますと幸いです。

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