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【完結】龍淵の蒼、狐の剣華 〜苦労を知らない神だった私が、不遇な『狐の女帝』を略奪し、溺愛し尽くすまで〜  作者: okazato.


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2/8

二の花 剣華、舞い踊る

 それから数日。リサーは私のそばで、警護役を立派に務めてくれている。


 仕事を任せるつもりはなかったのだが、無為徒食むいとしょくに過ごすわけにはいかないと、必死に交渉された結果の妥協案だ。


 自分でも申告していたとおり、彼女は本当に優れた武人らしい。

 ほんのわずかな物音すら聞き逃さず、訪問客にも目を光らせている。そう、それは過剰なまでに。


 責任感の強い彼女は、今も宮殿を歩き回っているだけの私に、ぴったりと付き従っている。


 彼女の動きに合わせて、銀鎖の擦れる音がしゃらしゃらと響いていた。


「そういえば、それってなんなの?」


 腰元に下がった装飾具を指すと、彼女の耳がぴんっと高い位置に伸びた。


「これは、狐族に伝わる携帯武具です。取りつけられているのは、さまざまな形状の模造刀ですが」


 リサーはそのうちの一つを器用な手つきで取り外すと、両の手のひらでしっかり挟み込む。


「術を加えることで、戦闘用の武具に変化させることができるんです」


 その言葉どおり、彼女の広げた両腕の間には、巨大な刀が現れた。


 通常の刀よりも二回りほど長く、また刀身が先端に近づくほどに、どんどんと幅広くなっているのが特徴的だ。


「これは八卦刀はっけとう。武術と組み合わせて使うものです」


「へぇ。使っているところも、ぜひ見てみたいな」


「……お見せしても、よろしいのでしょうか?」


 リサーは案外、正直なところがあるらしい。その顔は平静を装っているが、後ろでは三つの尾が、ぶんぶんと嬉しそうに揺れている。


「うん。せっかくなら、広いところでやってみせてよ」


 吹き出してしまいそうなのをこらえつつ、玉座の間へと急いだ。


 私が腰を下ろすのを見守ってから、リサーは深々と頭を下げる。


「では、失礼いたします」


 彼女は長い息を吐き出す。次に目を開いた時に、私の姿はもう映っていなかった。


 張り詰めた空気のなか、リサーの身体が雄大に舞う。


 大刀は彼女の一部であるかのように、しなやかに円弧を描きながら、空を切っていく。きらめく刃と同じに、彼女の瞳も輝いている。


 私は黙って、その姿を見つめていた。


 まぶしいほどに情熱的な剣舞。赤い袴は、彼女に合わせてなめらかに動く。


 リサーの生み出した風が、私の髪を時折震わせた。踊り子のような身のこなしで、彼女はまさに『生』を体現していた。


「以上です」


 いつのまにかリサーは舞いを終え、床にひざをついている。


「ありがとう、リサーちゃん! すっごく素敵だった!」


 目いっぱい両手を叩いたのだが、彼女はなぜか沈んだ顔で、耳を垂らしてしまう。


「すみません。つい、本気になりすぎてしまって」


「なんで謝るの? 感動したよ! あんまりこういうのを見る機会はないんだけど、君の剣舞は気持ちが伝わってきたというか……本当に美しかった」


 すると、三つの尾がぴたりと固まった。


「それは、お世辞ではなく?」

「んなわけないでしょう」


「左様ですか!?」


 リサーの顔が、ずいとこちらへ寄せられる。舞いの最中に見せていたのと同じ、きらめく瞳がまっすぐに私を捉えていた。


 その瞬間、胸に衝撃が走る。それは心臓をわし掴みにされたかのような、無遠慮な痛みだった。


「嬉しいです! 里では女が剣を持つものではないと、眉をひそめられるだけでしたから」


 リサーは珍しく、無邪気な笑みをのぞかせていた。


 私は動悸を抑えながら、努めて笑顔で口を開く。


「それだけの剣技を身につけているのに、正当な評価は得られなかったのかい?」


「仕方ないです。狐族の女人は、本来家に仕えるもの。剣を振り回している私の方が、よっぽど奇人なのですから」


 憂いを帯びた瞳は、床に横たわった八卦刀へ向けられている。


「そんなのは間違ってるよ! 性別に関わらず、能力は正しく評価されるべきだ。それに、リサーが周りから非難されながらも、努力を重ねてこられたのは、すごいことだと思うけどね。尻尾の数なんかよりも、よっぽど」


「ありがとうございます」


 彼女は頬を赤らめながら、刀を元のサイズに戻す。


「そのようなお考えをされる長がいて、龍神族は幸せですね」


「幸せだって?」


 リサーの何気ない一言に、胸の奥がきしむ。


「ええ。きっとそうですよ」

「……だといいけど」


 彼女が楽しげに武具を取りつけている間、私は乾いた笑みを浮かべていた。


 もちろん、容姿や出自に関わらず、実力に応じて評するべきだという考えに嘘はない。


 純白のうろこを持つヴィート君が、その外見から“白トカゲ”とさげすまれていたことを知りながらも、重役に据える決断を下したのは、彼が有能な龍材りゅうざいであると知っていたからだ。


 だとすれば、自分は?


 空色の身体で生まれたというだけで、将来を約束され、何不自由なく暮らしてきた。


 自分の手で未来を切り拓こうとしているリサーや、宰相の座を勝ちとったヴィート君とは違う。


 薄っぺらい己の正体を見透かされそうで、彼女の純粋な瞳に向き合うのが、今は少しだけ怖かった。

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