26.とりあえず一件落着
次の日。
私とユウガくんは、事情聴取を受けるため警ら隊本部に行きました。リーゼお姉ちゃんとコン兄ちゃんも、付き添いでついてきてくれます。
「この度は、息子が大変なご迷惑をおかけしました」
警ら隊本部にはユウガくんのお父さんとお母さんがいて、そんなふうに謝られました。
ユウガくん、悪くないんだけどな。むしろ助けてくれたんだけど。
ユウガくんのお父さんは、ひょろっとして背の高い人でした。お母さんは、少し癖のある濃い茶色の長い髪で、ユウガくんと同じ深い緑色の瞳。ユウガくん、お母さん似なのかな。
「では、事情聴取をさせていただきましょう」
私とユウガくんは、同じ部屋で一緒に事情聴取を受けました。
まずはユウガくんから。
お父さんとお母さんを人質に取られて、仕方なく協力したこと。
お父さんとお母さんを助けた後で、私を助けるために一人でお屋敷に乗り込んだこと。
ユウガくんは全部を正直に話して、最後にまた謝ってくれました。
「本当に、ごめん」
「ううん、もういいよ」
さらわれたとき、私が袋の中で聞いた金属音は、ユウガくんのお父さんとお母さんが閉じ込められていた倉庫の鍵だったみたい。
食べ物も飲み物もない状態で、三日も閉じ込められてたんだって。あの二人、本当にひどい人たちだよね。
「そうか……大変だったね」
警ら隊の人は、ユウガくんを慰めた後、でもそういうときこそ警ら隊に助けを求めてほしかった、と言いました。
「人質を取られていては難しかっただろうがね。もう決して、一人で無茶しないように」
「はい」
「お父さんとお母さんも、もう少し慎重にご判断を。大切なお子様に何かあっては、取り返しがつきませんからな」
「はい」
「本当に……申し訳ございません」
ユウガくんの次は私。
でも私の事情聴取は、そんなに長くかかりませんでした。学校から帰る途中でさらわれてからコン兄ちゃんが助けに来てくれるまで、あったことを順番に説明しただけです。
「ふうむ、なるほど。たいしたものだ」
説明が終わったら、警ら隊の人が感心してくれました。
「とても分かりやすかったよ。誘拐されたというのに、落ち着いて対処していたようだ。度胸があるのかな?」
「ええと……」
子供なのにあまりに落ち着いてると、かえって不審に思われるよ。
ふと、ベアテさんが言っていたことを思い出しました。警ら隊の人だから大丈夫だろうけど――ちょっと気をつけなくちゃ。
そのベアテさんだけど。
見つかっていないんだって。ブルーノさんとグレゴールさんを捕まえた後、お屋敷の中を隅々まで捜索したけれど、誰もいなかった、て警ら隊の人が教えてくれたの。
「初動が遅れまして、取り逃がしたかもしれません。おそらくもう王都にはいないでしょうが、十分に気をつけてください」
警ら隊の人にはそう言われたけれど、もし会ったとしても、ベアテさんなら心配いらないと思う。
だって、「ちゃんと家に帰してあげるから」て言ってくれていたし。たぶん誘拐には嫌々参加してたんじゃないかな。
「では、お先に失礼します」
お昼前には事情聴取が終わりました。
ユウガくんたちはもう少し話がある、ということで、私たちは先に帰りました。
「ユウガくん、また学校でね」
「……ああ」
私が手を振ると、ぎこちなく笑ったユウガくん。その笑顔に、なんだか不安になります。
大丈夫だよね、また学校で会えるよね。
きっと学校に来てね、ユウガくん。
「それにしても……驚いたわね」
「だな」
警ら隊の本部を出てしばらく歩いたら、リーゼお姉ちゃんがぽつりとつぶやきました。コン兄ちゃんもうなずいています。
「なにが?」
「ユウガくんが描いた魔法陣よ」
誘拐されたあの日、学校から帰る直前に渡された、ユウガくんが描いた魔方陣。
あれは持っている人の居場所がわかる探知魔法で、ユウガくんはあれを使って私の居場所を突き止めた、て言ってた。
「探知魔法は、けっこう難しいんだ。あれを独学で描いて作動させたなんて、ちょっと驚きだぜ」
「しかも、ユウガくんの魔力にだけ反応するよう、隠蔽式も埋め込んでたみたい。あれ、私でも作るのにちょっと苦労するわ」
え、そんなにすごいの? びっくり。
魔法陣を描いた紙は、証拠品として警ら隊に預けちゃった。もう返してもらえないのかな。そんなにすごいのなら、持っていたかったな。
「きちんと指導を受けたら、すごい魔法使いになりそうね」
「ああ。今まで放置されてたの、もったいねーぜ」
「封印が解けた、とも言っていたし……」
リーゼお姉ちゃんが、ちょっと考え込む顔になりました。
「放置しておくのはまずいかも。一応、お師匠様に報告しておくわ」
◇ ◇ ◇
週が明けて。
また陽霊日がきました。
結局、先週は学校をお休みしてしまいました。
元気なんだけどな、て思ったけど、体だけじゃなくて心も休めなきゃいけないから、て言われたの。
「心の様子はなかなか見えないから、慎重にしないとね」
土霊日の夕方にはイザベラ先生が様子を見に来てくれて、クラスのみんなも心配してるよ、て教えてくれました。
「また学校へ来るの、待ってるからね」
そう言われて、とってもうれしかった。早く学校に行ってみんなに会いたいな、て思ったら、今朝はすごく早起きしちゃった。
「おはようございます、精霊様。今日からまた学校へ行きます」
朝起きて身支度をして、ごはんの前にローワンの木にご挨拶。
いつもならこれで終わりだけど――ちょっと念押ししておこう。
「ユウガくんのこと、絶対に脅さないでくださいね」
ざわわっ、て木の枝が揺れました。
先週、頭にきちゃって精霊様にジカダンパンしたけれど、私には精霊様が見えないからちょっと不安。リーゼお姉ちゃんは「わかった、もうしない。だからお師匠様に連絡するのは勘弁してくれ、て言ってるよ」て言ってたけど、本当に大丈夫だよね。
「ユウガくん……学校に来るよね」
イザベラ先生が、ユウガくんも先週は休んでた、て言っていました。
理由はどうあれ、誘拐犯の手伝いをした以上、ユウガくんは加害者で、私は被害者。だから今までと同じでいいのか、て先生たちの間でも議論になってたんだって。
「でも大丈夫。ユウガは今まで通り、てことになったわ」
イザベラ先生、私のところへ来る前にユウガくんの家にも寄ってお話してきた、て言ってた。
うん、大丈夫。
きっとユウガくんは学校に来る。
そして今まで通り――ううん、今度こそ仲良くなって、お友達になるんだ。
「だから」
よし、もう一度念押ししておこう。
「絶対に邪魔しちゃだめですからね、精霊様。今度邪魔したら、絶対にお師匠様に言いつけるからね」
「あらまあ」
不意に。
背後から女の人の声が聞こえました。
振り返って、私は息を呑んでしまいます。だって、すごくきれいな女の人が立っていたんだもの。
長い黒髪に深い青の瞳。水色のローブを着ているんだけど、それがすごく似合うの。楚々とした貴婦人、てこういう人のことを言うんだと思う。
でも――あれ、どこかで見たことあるような気が。どこで見たんだっけ。うーん、思い出せない。
「おはよう、お嬢さん」
「あ、はい。おはようございます」
いけない、見惚れててご挨拶忘れてた。でも――この人、声もとってもきれい。
女の人が近づいてきて、私の隣に立ちました。ローワンの木を見上げて、楽しそうに笑ってます。
「すごいわねえ、やんちゃ坊主が、すっかりしょげてるわ」
「え?」
「こんな姿、初めて見たわ。お説教でもしたの?」
この人、精霊が見えるんだ。
ええと、誰なんだろう。服が違うから導師様じゃないみたいだけど――大丈夫かな。
「あらいけない、私ったら。自己紹介を忘れていたわね」
私が警戒しているのに気付いたのか、女の人はしゃがんで同じ目線になると、とっても優しい笑顔を浮かべました。
「初めまして。私はミラリーヌ。そうね、みんなには『賢者』なんて、たいそうな二つ名で呼ばれているわ」
え、え――け、賢者ミラリーヌ様!?
うそーっ!
第1巻 おわり




