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海外から送られてきた仕様書がひどい

作者:ぽぽりんご
 

 新年早々、俺は一人寂しく出社した!
 そして、海外から送られてきた書類を読まされるのだ。

 ウチの海外営業担当、謎のインド人の手による陰謀である。
 奴は、言葉の通じない相手から仕事を取ってくるという、いらん奇跡を引き起こしたのだった。ミツバチはダンスでコミュニケーションを取るというが、インド人もダンスで意思疎通できるのかもしれない。
 あいつ、いつも踊ってるし。

「書類ってのは、これか」

 デスクの引き出しに、インド人のメモ付き封筒が入っていた。
 メモには「中身がまったくわからないので、一刻も早く確認してくれ」と書いてある。

 
 どういうことなの。
 それでいいと思ってるの。

 
 いいと思っているのだろうな!

 

 うだうだ文句を言っても始まらないので、封を開けて中身に目を向けてみる。
 最初の一文は、こうだ。

 
『Happy New Year!(幸せな牛乳は耳から生えました)』

 
 ……?

 はて、後半の括弧書きは一体どういう意図だ?
 耳から牛乳が生えるとな。暗号の類であろうか。

 
 幸せな牛乳は、耳から生えました。

 
 ……ハッピー、ニュー、イヤー?

 
 幸せ、ハッピー。
 牛乳、ニュウ。
 耳、イヤー。

 
 いやいや。そんな、まさか。

 これを書いたやつは、日本人が新年祝うたびに、耳から牛乳噴き出してるとでも思ってるのかよ。
 新年めでたくて嬉しいですビューって、どんな絵面だよ。

 相手先は英語もヒンディー語もできないと聞いていたが、これを見る限り日本語の方がヤバそうだ。
 できれば、英語で書いてほしいのだが。

 

 とはいえ、一つ目の疑問は解けた。
 クソの役にも立たない一歩だったが、進歩は進歩だ。
 次に行ってみよう。

 
『私は、あなたにお願いがあります。とてもとても大事なお願いです』

 お? なんだ、ちゃんと読めるじゃないか。
 しかも、一応は礼儀正しい。さっきのは、英語と混ざって変な文章になっただけか。

 
『働け』

 働いとるわ!
 新年早々、ほとんどの社員が正月休み中なのにも関わらず働いとるわ!
 なんだこの無礼者め。

 ただ、言わんとしている事は分かる。
 我が「花丸ITトラスト社」に、仕事のお願いをしたいという事だな?

 
『貴様の会社:フラワー球体状のそれ・すなわち信頼ですの。私の社との関係をコンテニューしてください』

 うちの会社名が、とんでもない事になってるですの!

 まぁいい。我が社の名前など、どうでもいい。
 さっさと進もう。
 願わくば、コンテニューコインが尽きんことを。

 

 

 ページをめくると、次に出てきたのは……要求仕様書だろうか?
 図表があるので、なんとなくニュアンスは伝わった。
 ざっくり言うと、空港の物流システム、その中でも荷物を振り分ける部分の更新をしたいらしい。

 まず最初に、更新が必要な理由。
 その後、システムの要件が羅列されている。

 
 さて、文章の方を読んでいこう。

 

『私は40年間、タケシを24時間休まず働かせ続けました』

 休ませてやれよ!
 どんだけブラックだよ!

 
『タケシは無能であり、愚かであり、後期高齢者と化したため今はあの世に近い場所にいる』

 ひどい罵倒だ!
 よくわからんが、タケシ = 旧式の物流システムの事でいいのだろうか?

 
『タケシは、存在しない明日を夢見ています。が、夢は破れます』

 旧式のシステムでは、今後やっていけないと言っているんだな。

 
『私が破ります』

 お前が手を下すのかよ!

 
『今日は25トンの解体が必要なのに、そのうち4トンは人の手が介入する。タケシ、不満続出』

 性能が足りなくて、人力で対処している状況なのか。

 
『人の手で取り出しているのは、(おも)に食料、臓物、家族のだんらん』

 何を取り出してるんだよ!

 
『そしてマンションです』

 スケールでけぇ!

 
『私は、劣る性能しか持たぬタケシに満足できないの』

 俺も、マンションと家族のだんらんを分別できる物流システムは見た事ねぇわ。
 俺んちのゴミも分別してくれねぇかな。
 俺をゴミと認識しかねないから、まずいかな。

 
『マウリシャス共和国は、物流のミドルな受け取り天国としてブリリアント・坂道をどこまでもプッシュすることを存じ上げます。そして、これからも……お腹はレベルアップ』

 お前は何を言っているんだ。

 
『あなたは、新たなタケシです』

 本当に何を言ってるんだお前は!?
 俺かよ! 人違いだよ!
 24時間も働かされとうない。

 
『ところで、私とあなたが付き合い始めてから、長い年月が過ぎましたね』

 会った事すらねぇよ!

 
『実は、おおよそ昨日(正確には6ヶ月前)から私のランドは、あなたの口と繋がっているのです』

 マジで!?
 全然きづかんかったわ。
 ラーメンばっかり送り込んで申し訳ないわ。
 あと、日付の誤差が大きすぎる。

 
『今後も、フライ類および揚げ物類の機械的ジェットがお空を埋め尽くすと信じて、妄想が私の頭上をふっと競争する』

 変な物で空を埋め尽くそうとするのはやめなさい。
 いまいち理解できないが、昨年から日本と航空便を行き来させている、そしてそれを増やしていきたいと言っているのか?

 
『ぜひとも、あなたや他者の口に、より多くの送りカス声援を吐き出したい』

 やめろ。

 
『貴様の会社:"フラワー球体状のそれ・すなわち信頼ですの"へ』

 なんとなく、傾向がつかめてきた。
 英語と日本語が混じった時、変な日本語になるっぽいな。

 
『これで私のステータスが全裸となり、貴様の会社に伝わったよね?』

 いいえ、まったく。

 
『明日のために、私達にはニューモデル:歌舞伎(かぶき)政府が必要です』

 歌舞伎政府!?
 新しい物流システムのこと……か?

 
『私は続く項目に歌舞伎政府の要望をメンショーン。それはギアス、私とあなたの罪の証です』

 勝手に罪を擦り付けるのは止めてくれ。

 
『DanDan夢から覚めてもDanDan歌舞伎政府は段階を踏んでステップを刻みます』

 急に歌って踊り始めた!?

 
『ただし、ある存在が邪魔をし、タケシは働かされます』

 まだタケシを働かせる気かよ!
 なんだよ、ある存在って。

 
『それは神、富田です』

 誰だよ富田!
 どこの神様だよ。

 
『富田は進化を忘れた愚物であり、しかしながらまだ利用価値があるため、手放せない』

 神様、散々な言われようだな!

 
『富田は、今でも上空にバラ撒いている。多数のマンションを、家族のだんらんと共に、地上へと』

 どんなテロだよ!
 ……ああ、わかった。富田ってのは、古い輸送機のことを言ってるんだなきっと。
 新しいシステムに適応できないから、古いシステムも残すと。

 
『そのため、裁縫によりMCCSに歌舞伎政府、タケシを平行に縫い付けます。ほら、このように……力もち』

 やっぱりそうだ。
 旧式のシステムも、しばらくは並行して動かしたいんだ。

 

 

 仕様書の1ページ目を読み終わった所で、俺は椅子にもたれかかり、溜息をついた。
 精神力がゴリゴリと削られているが、まだまだ先は長い。

 が、幸いここから先は、ほとんどの項目に図表が記載されている。
 文章を読む前に、内容の予測は付く。
 単語の意味を推測できれば、ある程度は理解できるのではないだろうか。

 
 次のページに書いてあるのは、システムのおおまかな説明だ。
 タグを読み取り、商品を振り分けたいと書いてある。

 そして、6トンの商品を行き先別に120パターンへと振り分けられること、振り分けた情報を既定のシステムに入力する事、情報の欠損を検知し警告を出す事、荷物を再梱包する事、すべての工程を1時間以内に完了する事が規定されている。
 あとは、電源や今後の流れについても言及されているようだ。

 これだけわかれば、なんとなく意味は通じるだろう。

 
 さて。
 最初に書いてあるのは、タグを無線で読み取って、商品をセクションごとに振り分ける事のはずだ。

 では、説明文を読んでみよう。

 
『性別ごとに下劣な金持ち共を隔離し、糸が存在しない荷札を読みます』

 なんか人身売買みたいになってるんですけど!?
 こいつは金持ちに恨みでもあるのか。
 ……いや待て。言わんとしている事は、わからんでもない。

 
『テン件乾く:切ってきてきていて。金持ち共は出荷されます。テンテン』

 テンテンとはいったい。
 最初と最後の文字列の意味はわからんが、仕分けが終わった商品は出荷されると言いたいのだろう。

 
『MCCSは、瞬間的に6トンの生き血を吸い上げます。それこそが大統領』

 6トンも血を吸うのかよ大統領!
 生き血……閾値(いきち)か?
 6トンを上限という事なのか?

 
『シルバーで沈黙をワンタイム中脇オブに良いキャリア。120ノランダムビをチウゲウン搬入、咳しカモのため鉄分配、牛(さん)はしたいです。旅立つ前に再びトランスフォーム』

 お前は何を言っているんだ。

 
『なぜなら、MCCS大統領はダイコンです』

 ダイコンだったのか大統領!

 
『ダイコンは、1時間で死にます』

 大統領が死んだ!?
 ダイコンの意味はわからんが、航空機出発までに全工程を終えたい、それが1時間以内と言っている……はずだ。

 
『別番組の下に捨てられた、下劣な金持ち共め。お前らは農家となります。とにもかくにも書式は強いCARGO-IMPに合います』

 金持ちが農家に転職させられた!?
 とりあえず、商品を振り分けた後、CARGO-IMPっていうフォーマットで情報を入力してほしいんだな?

 
『農家が脳を欠損し、悪い記述なく苦しんだ。びっくり!』

 記述が怖ぇよ。こっちがびっくりだよ!
 農家というのは、情報をまとめているシステム、あるいはそこに入れる情報を指しているらしい。
 そして情報が欠損した時には警告を、と。

 
『そうすれば、ダイコンはこの世に舞い戻ることができる』

 生き返ったぞ大統領。よかったな。

 
『もしダイコンにならなかった場合、私はあなたを許さない』

 だから、記述が怖ぇよ。なんだよいったい。

 
『働け』

 働いとるわ!

 
『規定事項4:電源は、必ず定める電圧と電流を満足させなければなりません』

 ……えっ、なに?
 急に普通の文章になった。
 すごい安心感と、わずかなガッカリ感を感じる。

 
『規定事項5:支払う報酬は、ダイコンの切り身から生み出されます』

 大統領ォォォォッッ!
 分割払いとか、そういう意味なのか!?

 
『期間は半年です。死霊共が世にはびこる頃には、歌舞伎政府が起き上がって動き出す』

 なにそれこわい。
 なんだよ死霊って……半年? もしかして、お盆の事を言っている?

 えっ、期間短いよ。
 アメリカの大統領選には、1年もの時間をかけるというのに。

 
『材料ここでフィン、イージスチェック更新を参照してください: ベットされています」

 図を見ないとさっぱりわかんねぇよ!
 諸々の費用については、別途規定ってことな!

 
『モンゴ日野のプレビューは、誰も受け取る人がいなかった。結果は乾く支払いのみ。合意した場合、新しいギアスが始まる』

 誰だよ、モンゴ日野!
 合意に至らなかった場合、見積もり費のみ支払い。
 合意した場合は、別途契約を締結と。

 
『なお、私たちの報酬には、我が国での税金が搾取されません』

 ん、どういう意味だ?

 
『脱税をします』

 おい、犯罪だろ!
 免税の間違いだよな? 変な書き方は止めてくれ。

 
『これにて要綱1-1、本書の目的をブリリアント宣言する事が達成されました』

 気のせいだよ。

 
『歌舞伎政府の完成と時を同じくしてsoon、大統領は無敵となる』

 そうか。そうなるといいな。

 
『大統領は羽虫にも等しい』

 どっちだよ!

 
『ええe脂肪食べる気よ。私達は、フライ類および揚げ物類ジェットに乗れますか?』

 知らんがな。
 よくわからんが、腹が減ったなら好きに食え。

 
『追記:私が既にあなたの後ろにいることに、驚いていますか?』

 怖ぇよ! 思わず周囲を見回しちまったよ!

 

 

 俺は目尻を抑えた後、机に突っ伏した。

 妙に疲れた。
 これでまだ要綱1-1というのだから、この先が思いやられる。
 ちなみに要綱は、8-13まであった。死ねる。

 
 さて、休んでいる時間はあまり無い。
 続きを……

 
 prrrrrrr!

 
 ビクリと体を震わせる。
 電話。電話だ。
 フロアに誰もいないので、妙にやかましく響く。

 嫌な予感しかしないが、このフロアで唯一出社している俺の所へのピンポイント電話だ。
 取らない訳にも行くまい。

 
「はい、こちら花丸ITトラスト社、第1開発部の佐藤です」
『あ、ニーサンニーサン!』

 ゲェッ!
 ウチの海外営業担当、謎のインド人からの電話だ!

『実は、とってもイイ報告があるのヨ! ゼヒ聞きたいよネ?』

 いや全く、これっぽっちも聞きたくない。
 お前からの連絡で良い報告だったことなんて、ただの一度も無いじゃないか。

『ワタシ今、ブランジ共和国から来た人達と飲んでるのヨ。彼ら、自分の国に大きな工場を作りたい言ってるネ! 貧しい自国を少しでも豊かにしたいって、泣かせる話だと思わない? 言葉通じないから、推測だけど』

 へー、そうなんだ。
 できるといいね、工場。

『だからワタシ、契約したヨ!』

 は?
 今なんつった、このハゲ。

「待て。工場だと? ウチに今、そんな大型プロジェクトを抱える余裕は無いぞ」

 あと、言葉が通じないってどういうことなの。
 お前は、いったいどんな手段で意思疎通しているの。

『またまたー。知ってるヨ? ニイサン、溢れた仕事はヨソの会社に流してるヨネ? 仕事を右から左に流すだけで仲介料貰うなんて、いい仕事だヨ! 大丈夫、無理そうだったらヨソに流して万事解決! あ、この話は社長も了承してるから。社長も一緒に飲んでるネ!』

 こ、このハゲー!
 俺がどんだけ根回しして、方々に頭下げて回ってると思っとるんじゃ!
 仕事を落としたらどうするつもりなんだよ酔っ払い共が!

 不毛の大地に、無駄な育毛剤を補給し続けているお前は知らないかもしれないが、一度失った信頼と髪の毛は、もう二度と元には戻らないからね?

 闇の軍勢(かみのけ)光の軍勢(ハゲ)を蹴散らす? ハッ、無理無理!
 その薄い黒で、どれだけ見事な鶴翼の陣を描こうとも、闇が光に勝てる道理など無い。
 お前の髪の毛が頭頂部に登頂する事は、二度とないのだ。光あれ。

 
『お金の事なら安心して! カレらはお金ないけど、国からの補助が多少出るそうヨ。なんと、道路も敷いてくれるとか。ヤッタネ!』
「その話のどこに安心する要素があるんだ。わが社の方針として……」
『じゃ、ニーサン。よろしくネ!』

 おい、ちょっと待て。ちょ……切りやがった!

 
 Fooooooo!
 絶対無理!
 バカ、バカバカ!

 てか、ブランジ共和国ってどこよ?
 誰がそこに行くのよ? 何語だったら通じるのよ? 信頼できる相手なの?
 法律は? 税金は? ビザは? 予防接種は? 機材の輸送方法は?
 何もかもが不透明だよ!

 
「あみゃぁぁぁぁぁぁん!」

 
 俺は机の上に飛び乗り、呪文を唱えた!

 
 だが、何も起こらなかった。

 

こうして、ひとつのブラック企業が生まれた。


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