パズルのピースを探して(後) 5
イェナ:フェンリルで魔王の中の魔王と呼ばれる人物。魔王リシュナーク、勇者カイルの記憶全てを最初から持つ。ヒト型になると美丈夫と言うにぴったりだが、フェンリルのままでいるのが素の状態。ちなみに転生当初はほとんどカイルの言葉遣いのままだったのを臣下(主にイェディル)に咎められ今に至る。
「――ものには順序があるからな」
「なんの順序?」
「俺の伴侶になって欲しい」
「はんりょ……」
「そう。それとも今はフェンリルだから番か? なんでもいい、一緒になって欲しい」
「フェンリルの寿命は……」
「エルフの比ではない。神獣ともなるとあってないようなものだ」
「私はせいぜいあと五十年だよ……カイルの時間のほんの一瞬しか埋められない」
「その一瞬が欲しい」
「カイル……」
人間と長命種が愛を育む時に必ず訪れる問題がこの寿命の違い。
必ず人間が先に死に、残された者の残りの時間は長い。
「俺にリコの残りの人生をくれ。今度こそ共にリコと歩みたい。寿命の問題なんて考え始めたら俺はどの人生でもリコと添い遂げられなくなる」
コアは命を転生させるとき必ず勇者と魔王の立場を逆転させている。理由は偏らずより多くの情報を体に刻むためだろう。
魔王と勇者として2人が出会った以上、それは逃れられない運命とも言える。
「リコ……俺の愛する希望……俺の安寧はリコがいることでやっと叶う」
「そんな言い方……」
イェナはじっとリコの返事を待っている。
どの道惹かれ合った瞬間から終わりの問題など発生してしまうのだ。
「カイル……一つだけ約束して」
「なんだ?」
「私が死を迎える時、悲しまないで欲しいの。残してしまう不安で死が怖くなるから」
「約束する」
「本当? 絶対に泣かない?」
「泣かない。こんな図体で泣いたらみっともないだろう?」
「確かに」
イェナはまた片膝を着いた。リコに誠心誠意想いを伝えたい。
「リコ、俺の全力で幸せにすると誓う。死の際に泣くこともしない。だから――」
言葉の続きは言えなかった。
途中で泣きながら笑うリコが勢いよく抱き着いてしまったので。
「……カイルの一瞬を私で埋めて……人生のほんの少しかもしれないけど、それが永遠に続くくらいカイルを愛するから」
腕の中の小さな希望が、イェナのずっと埋まらなかった空虚な部分を満たした。
リコ、と名を呼ぶ声が震えた。
「今泣くのは約束を違えてはいないな?」
「うん……。えぇっ? ちょっ……ほんとに泣いてる……」
イェナがリコの言葉に目を細めると、その眦から一筋の雫が頬を辿った。
なんて愛しい涙だろう。
リコの唇が吸い寄せられるように雫に触れると、二五六年を耐え忍んだ涙は彼女の唇を濡らした。
「カイル、みっともないことなんてない……愛しいし、それにちょっと可愛いかも」
「自分で名付けておいて呼び方は昔のままなのか」
「イェナ……ふふ、なんだか記憶を思い出したら変な感じ。カイルの方が愛しく感じる……」
「イェナは他の者も呼ぶ。安寧はリコ自身から貰える。お前だけそう呼ぶのも悪くない。さあリコ、宴だ」
「宴?」
「お前の仲間をもてなさねば。彼らのおかげで孤独ではなかったろう?」
「うん……カイルは? カイルは孤独ではなかった?」
「俺の前世のコミュニケーション能力を忘れたのか?」
そう言って浮かべた笑みは前世の時と同じいたずらっぽさを含んでいた。そして「宴の前に」と言ってリコを抱き寄せると、今度はイェナの方から深く唇を交わした。
“記録者”の体には、愛し愛される喜びが刻まれることだろう。
それは“伝聞者”がコアに伝えた時に世界にどんな変化をもたらすのか。
ずっと未来に生まれたものは、もしかしたらこの時の愛が反映された世界を見る事ができるかもしれない。
宴の席で、この二人の前世からの再会の話を聞いたリコの仲間は、魔王と勇者の二人が最期を迎えるその瞬間まで幸福であることを祈らずにはいられなかった。




