置いといて
最新エピソード掲載日:2026/10/27
「次から、置いといてくれればいいからね」
生協の宅配を担当して六年になる坂口。木曜の順路には、エレベーターの無い市営団地の四階で一人で暮らす、八十二歳の高野キヨさんの家がある。
チャイムを押す前にドアを開けて、毎週はちみつの飴をくれる人だった。
六月の最後の木曜、高野さんは言った。
「今度、中まで運んでくれない?」
組合員の部屋に上がるのは、決まりで禁じられている。坂口は箱を玄関のたたきに置いて帰った。
七月から、高野さんは出てこなくなった。
それでも戸口には毎週、畳んだ空き箱と、いつもの癖のある字で書かれた注文書が出ている。
一度だけ鳴らしたチャイムに、ドアの内側から声が返ってきた。
「置いといて」
ドアの合わせ目から、甘い臭いがした。
生協の宅配を担当して六年になる坂口。木曜の順路には、エレベーターの無い市営団地の四階で一人で暮らす、八十二歳の高野キヨさんの家がある。
チャイムを押す前にドアを開けて、毎週はちみつの飴をくれる人だった。
六月の最後の木曜、高野さんは言った。
「今度、中まで運んでくれない?」
組合員の部屋に上がるのは、決まりで禁じられている。坂口は箱を玄関のたたきに置いて帰った。
七月から、高野さんは出てこなくなった。
それでも戸口には毎週、畳んだ空き箱と、いつもの癖のある字で書かれた注文書が出ている。
一度だけ鳴らしたチャイムに、ドアの内側から声が返ってきた。
「置いといて」
ドアの合わせ目から、甘い臭いがした。