表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
初めての一太刀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/25

初めての一太刀-04

 黒い獣の身体が、淡い光へと変わっていく。

 夜の森に舞う蛍のように、小さな光が一つ、また一つと宙へ溶けていく。

 ノアは折れた木剣を握ったまま、その光景を見つめていた。


「……終わったの?」


 誰にともなく呟く。

 返事はない。

 黒い獣は静かにノアを見つめ返していた。

 その紅い瞳からは、先ほどまでの威圧感が消えている。

 代わりに宿っていたのは、深い静けさだった。

 やがて黒い獣は、ゆっくりと前足を折る。

 続いてもう片方の前足も。

 巨体が静かに地へ伏した。

 まるで、誰かへ礼を尽くすように。

 ノアは息を呑む。


「どうして……。」


 その姿に敵意はない。

 敗北の悔しさもない。

 ただ、長い旅を終えた者のような穏やかさだけがあった。

 黒い獣は一度だけ目を閉じる。

 そして、再び開いた。

 その瞬間。

 ノアの胸へ、静かな思念が流れ込む。


『……届いた。』


 短い言葉だった。

 意味は分からない。

 それでも、その声には確かな安堵があった。


『幾度……願われても。』

『幾度……求められても。』

『届かなかった。』


 ノアは首をかしげる。

 何を言っているのか分からない。

 黒い獣は小さく目を細める。


『だが、お前は違った。』

『力ではない。』

『願いが、お前をここへ導いた。』


 ノアは静かにその言葉を聞いていた。

 難しいことは理解できない。

 けれど、一つだけ気になったことがあった。


「……リリアは?」


 その名前を聞いた瞬間。

 黒い獣は、ほんのわずかに口元を緩めたように見えた。


『その願いを。』

『忘れるな。』


 それだけだった。

 次の瞬間。

 黒い獣の身体は無数の光となり、夜空へ舞い上がる。

 光は森中へ広がり、木々の間を流れ、やがて一つ残らず消えていった。

 静寂だけが戻る。

 森には、もう黒い獣の姿はなかった。

 残っていたのは、踏み荒らされた地面と、折れた木剣。

 そして。


「ノア……。」


 震える声。

 振り返ると、リリアが涙を浮かべながら立ち上がろうとしていた。

 足を痛めたままなのに、それでも必死にノアのもとへ歩こうとしている。


「リリア!」


 ノアは駆け寄ろうと、一歩踏み出した。

 その瞬間だった。

 ――カチリ。

 胸の奥で、再びあの音が鳴る。

 まるで外れていた鎖が、ゆっくりと閉じるような音。


「……あ。」


 身体から、一気に力が抜けた。

 さっきまで軽かった足が鉛のように重い。

 呼吸が苦しい。

 視界が揺れる。

 膝が崩れ落ちた。


「ノア!」


 リリアが叫ぶ。

 ノアは倒れ込みながら、自分の左手首を見た。

 一瞬だけ輝いていた紋様は、もう見えない。

 ただ、そこに見えない鎖が巻き付いているような感覚だけが残っていた。


 ――これが、神枷(しんか)

 そう思った瞬間、意識が暗闇へ沈み始める。

 遠くで誰かが自分の名前を呼んでいる。

 その声だけを最後に、ノアの意識は静かに途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ