神枷-06
眩い光が、ノアの視界を埋め尽くす。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、身体だけがどこかへ引かれていく。
遠くから、あの声だけが聞こえた。
「目覚めよ。」
その一言を最後に、白い世界は砕け散った。
◇ ◇ ◇
「……っ!」
ノアは大きく息を吸い込んだ。
湿った土の匂い。
木々を揺らす風。
鳥の羽ばたき。
森の音が、一気に耳へ流れ込んでくる。
「はぁ……はぁ……!」
夢じゃない。
森だ。
さっきまでいた場所。
目の前には、黒い獣の巨大な前足が、あと指一本分という距離で止まっていた。
時間が止まっていたかのようだった。
だが。
次の瞬間。
黒い獣の瞳が、ゆっくりと細められる。
――来る。
ノアは反射的にリリアをかばうように前へ出た。
その瞬間だった。
胸の奥が、ずしりと重くなる。
「……え?」
身体から力が抜ける。
立っているだけなのに、膝が震えた。
息を吸うだけで苦しい。
腕が鉛のように重い。
まるで身体中の力を、誰かに吸い取られたようだった。
神枷。
その名が、胸の奥で静かに響く。
契約は終わった。
代償は、もう始まっている。
ノアは左手首を見る。
さっきまで刻まれていた紋様は見えない。
けれど、そこには確かに何かがある。
熱を帯びた感覚だけが残っていた。
「ノア……?」
背後から、震える声。
リリアだった。
涙で濡れた瞳が、ノアを見つめている。
「……大丈夫。」
そう言おうとした。
しかし、声がうまく出ない。
身体が重い。
さっきまで握れていた折れた木剣でさえ、持ち上げるのがやっとだった。
これが……代償。
その時。
黒い獣が、再び前足を振り上げる。
巨大な爪が、二人を覆う。
リリアが小さく悲鳴を上げた。
「ノアっ!」
その声を聞いた瞬間だった。
ノアの胸の奥で、何かが弾ける。
――守る。
その一つの想いだけが、世界を満たした。
カチリ。
どこかで、鎖の外れる音が響いた。
黒い獣の紅い瞳が、わずかに見開かれる。
そして――。
ノアの左手首に、黄金の紋様が一瞬だけ浮かび上がった。




