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神枷を宿す少年は、大切な人を守るため剣を振る  作者: なごやかたろう
神枷

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15/16

神枷-05

 白い鎖が、ゆっくりとノアの周囲を巡る。

 触れてはいない。

 それなのに、その冷たさだけが伝わってきた。

 人影は静かにノアを見つめる。


「少年。」

「契約とは、奪われるものではない。」

「自ら選ぶものだ。」


 ノアは黙って頷く。


「ゆえに。」

「最後に一度だけ問う。」


 白い世界が静まり返る。

 時間すら止まったようだった。


「今なら。」

「引き返せる。」


 その言葉に、ノアは目を瞬かせた。


「契約を結ばずとも、お前はお前のまま終わる。」

「苦しみはない。」

「永き孤独もない。」

「誰にも蔑まれることもない。」

「この先に待つ未来を、お前はまだ知らぬ。」

「だからこそ。」

「今なら、選び直せる。」


 人影は、それ以上何も言わなかった。

 急かさない。

 促さない。

 ただ、ノアが答えを出すのを待っている。


 ノアはゆっくりと俯いた。

 怖くないわけじゃない。

 家へ帰りたい。

 父に会いたい。

 母の作る温かいスープが飲みたい。

 兄と剣の勝負もしたい。

 まだ、やりたいことがたくさんある。

 胸が締めつけられる。

 涙がこぼれそうになる。


 でも。

 脳裏に浮かんだのは、泣き顔だった。

 森で出会った、小さな女の子。

 迷子になって震えていたリリア。

 花冠を頭に乗せて笑ったリリア。

 「また遊ぼうね」と、小指を絡めて約束したリリア。

 あの笑顔だけは、失いたくなかった。

 ノアは涙をこらえながら顔を上げる。


「……帰りたい。」


 人影は静かに聞いている。


「本当は。」

「すごく帰りたい。」


 少しだけ笑う。

 泣き笑いのような、ぎこちない笑顔だった。


「でも。」

「約束したんだ。」

「また遊ぼうって。」

「約束は、守らないと。」


 小さな拳を胸の前で握る。


「だから。」

「僕は、これを選ぶ。」


 その瞬間だった。

 白い鎖が、一斉に光を放つ。

 無数の光がノアの周囲を巡り、ゆっくりと胸の前へ集まっていく。

 やがて、それらは一本の細い光となり、ノアの左手首へ吸い込まれた。

 じんわりと熱い。

 痛みはない。

 けれど、何かが身体の奥深くへ刻まれていく感覚だけがあった。

 淡い光が消える。

 そこには、小さな紋様が浮かんでいた。

 鎖にも見え、翼にも見える、不思議な印。

 人影は静かに告げる。


「契約は成った。」


 その声には、初めてわずかな温かさが宿っていた。


「今日より、お前は神枷(しんか)の担い手。」

「守るために弱くあり。」

「守る時だけ、枷は解かれる。」


 ノアは自分の手首を見つめる。

 まだ何も変わったようには感じない。

 ただ一つ。

 胸の奥に、不思議な温もりだけが残っていた。

 人影はゆっくりと背を向ける。


「少年。」


 最後に一度だけ呼びかける。


「その優しさを。」

「どうか最後まで、失うな。」


 その言葉とともに、白い世界に一本の大きな亀裂が走った。

 パリン――。

 ガラスが割れるような音が響き、世界そのものが砕け始める。

 眩い光がノアを包み込み、視界は再び真っ白に染まっていった。

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